ノマドワーカーが映画『ノマドランド』を見て、自由について真剣に考えたら、働くことに前向きになれた話
「わたしは自由だ!」会社を辞めフリーランスになったとき、そう感じて喜びました。
…….…….。
あれから5年たち、当時の能天気さを思い出すと、自分の浅はかさに驚きます。特にこの1年、「わたしは自由なんかじゃない。」そう思う毎日でした。
自由になりたくてフリーランスになったのですが、実はフリーランスだって自由ではないと実感しています。
この記事が、漠然とした「自由になりたい願望」がある人たちに届き、自由について考えるきっかけなるとうれしいです。
ノマドワーカーとは場所に囚われず働く人のこと
「何のために働いているのだろう?」
この1年間、ずっとこの疑問について考えてきました。
理由は単純。思うように稼げないからです。
コロナ過となり、今までの働き方や、価値観を見つめ直す機会が増えたからこそ、湧き上がってきた悩みでもあります。
人間社会の構造上、お金を稼がなければ生きていけません。
このルールを変えられないと分かっていても、
「お金のために働きたくない」とも考えてしまいます。
だれでも一度は思ったことがあるはずです。
「働かないで自由に暮らせたらいいのにな」と。
そんなマインドで鑑賞したのが映画『ノマドランド』でした。
本年度のアカデミー賞作品賞を獲得した本作は、社会のシステムから弾かれてしまったアメリカの高齢者たちの実態を描いています。
ノマドとは、遊牧民とか放浪者という意味。
日本では、PCやスマホを駆使して、場所に囚われず仕事をする人のことをノマドワーカーと呼びます。
Webライターとして働くわたしも、ノマドワーカーの一人です。
ノマドワーカーが見た映画『ノマドランド』
映画に登場するノマドワーカーたちは、日本でトレンド化している【新しい働き方】という意味でのノマドワーカーとは違っていました。
まず、彼らには家がないのです。
RV車やバンで寝泊まりをしながら、仕事を求めて各地を転々とし、キャンプ生活をしています。
一般的にみれば、家を持たず、車で暮らすというライフスタイルは、社会から逸脱してしまった生活のようにも思えます。
鑑賞前は、「どんな悲惨な話なのだろう?」と身構えました。
ところが、驚いたことに、高齢者ノマドたちからは悲壮感を感じません。
望んでノマド生活をしているように見えます。
その証拠に、彼らの表情は、みな穏やかなのです。
ノマドワーカーは自由なのだろうか?
映画『ノマドランド』には原作があります。ジェシカ・ブルーダーのノンフィクション「ノマド 漂流する高齢労働者たち」( 春秋社刊)です。
この原作に登場する本物のノマドワーカーたちが、映画にも出演していて、重要な役割を果たしています。
その中でも、わたしの感受性を刺激してくれた2人の女性をご紹介します。
一人目のリンダ・メイは、気の優しいおばちゃんで、社交的な性格です。
彼女の理想は、自給自足の暮らしをすること。実現できる場所を作るために、節約しながらノマド生活をしています。
自給自足という暮らし方は、経済社会の中で「お金」という縛りから脱出できる唯一の方法かもしれません。
もうひとりは、スワンキー。彼女は、ノマド生活10年超えのツワモノです。
訪問お断りのドクロマークをバンに貼り、一人で生きることを望んでいます。しかも、末期のがんを患っていて、「旅の途中で出会った、たくさんのツバメが孵化する美しい光景をもう一度見たら、安楽死する。」と決めています。
この2人の生き方を見て、気づきました。
こんなに究極の自由を体現しているようなこの2人でさえ、経済社会の中では自由とは言えないのではないかと。
「自由になりたい」なんて思わなくていい
人間として生きる以上、社会のルールに沿って生活しなければなりません。
そして、社会は、お金に支配されています。
会社員でもフリーランスでも、企業から対価をもらって働くという事実は同じ。
もっと言えば、株の配当などの不労所得で生活している人だって、お金に支配された世界で生きていることに変わりはありません。
人間の世界から脱出することは、ほぼ不可能です。誰にも存在を知られない場所で、完全なる自給自足の生活をしないかぎり、経済社会の外で生きることはできません。
ということは、経済に支配された人間世界のルールの中では、誰ひとりとして完全に自由な人間などいないのです。
ナイスタイミングで、この映画に出会えたので、ここ1年間、ずっと考えてきた疑問の答えを探ることができました。
自由とは、誰もが望むものですが、人間である限り、勝ち取ることのできないものだと知ってしまいました。
人間は、自由になれなくても、自由を追い求める生き物なのです。
そう思ったとき、ヘコむかと思いきや、希望が湧いてきました。
フリーランスになったから自由だというのは、全くの幻想だったのです。
働き方の形態が変わっただけのこと。
それに、「わたしは自由だ!」なんて思わないほうが、自由ではない自分の状態とのギャップに苦しまなくなります。
漠然とした自由に憧れている人たちへ、わたしが学んだことを伝えるとするならば、「自由になりたいなんて思わなくていい」ということ。
自由とは、つねに追い求めるものだから。
リンダ・メイやスワンキーのように、現実的な理想に落とし込み、自分なりに自由を求め続けることが、生きるための道しるべになります。
完全に自由な存在になることができないのであれば、自分の力で、少しでも自由に近づけるように進んでいきたい。
そう思うと、働くということが、自由を追求するためのひとつの手段なんじゃないかと思えてきました。
お金を稼ぐという意味でも、やりがいを見出すという意味でも、生きた証を残すという意味でも、働くことからすべてが始まる気がするんです。
「何のために働くか」
自分の理想とする自由に近づくために、これからも働き、生きてみます。
『ノマドランド』2021年3月26日公開
2021年度アカデミー賞 作品賞、監督賞、主演女優賞受賞
(6部門ノミネート)
監督・製作・脚色・編集:クロエ・ジャオ
原作:「ノマド 漂流する高齢労働者たち」(ジェシカ・ブルーダー著/ 春秋社刊)
【キャスト】
フランシス・マクドーマンド
デヴィッド・ストラザーン
ノマドワーカーたち
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