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超短編小説【潜入調査】
【潜入捜査】峯岸 よぞら
「計画はこうだ」と、男が強盗仲間に向かって言う。
「最近強盗が多いから、金庫の在りかを予め聞いておきたいと言って、探ろうと思う」
「そんなに上手くいきますかね?」
仲間の一味が、怪訝な表情で言った。
「まぁ、あそこはジジイ1人で住んでるからな。何かあった時に、すぐに駆けつけられるようにと言えば大丈夫だろう。寂しい気持ちもあるだろうから、万が一怪しむようなら、そこに漬け込めば良いのだ」
男は、早速ネットで手に入れた、
警察官の制服に着替える。
「それじゃ、また戻る」
そう言って、アジトから、目的の家へと向かった。
それは、日本家屋で、どこからどう見ても、
お金持ちの大きな家だ。
「ごめんください」
「あぁ、刑事さん、こちらです」
年配の男性が慌てた様子で、いきなり彼を招き入れた。
「そんなに慌ててどうしたんです?」
「聞いてませんか?泥棒が入ったんです」
「なんですって?」
金庫まで案内してもらうと、そこはもぬけの殻だった。
パトカーのサイレンが遠くから、段々こちらに近付いて来た。
警察官になりきっている男は、怪しまれる前に退散しなければならない。
内心焦っているが、仮面を被っているように平然を装っている。
「金庫はこれだけですか?」
「いえ、地下にもあります」
「そちらも案内していただけますか?」
「はい、お願いします」
このまま地下で作業をしているフリをして、
どこかのタイミングで逃げよう。
男はそう考えていた。
地下へ行くと「警部!」と言って、
鑑識が既に到着していた。
「鑑識が先に来るとは」
「ここから家が近かったものですから」
「それで、証拠は見つかったか?」
「それが、指紋一つありません。
犯人は、相当計画を練り、強盗に慣れている者だと思われます」
「なんだって?もう一度良く調べてみろ!」
「は、はい。あの、それで見ない顔ですが…」
「あぁ、最近復職してな」
「そうでしたか。わたくし、鑑識科の豊田といいます」
「佐野だ」
男は、思わず本名を名乗ってしまい、
一瞬戸惑った。
後ろから、急いでいる様子で、
階段を降りてくる音が聞こえてくる。
「豊田!」
「ご苦労様です」
「何か見つかったか?」
「いえ、まだ何も!」
「あなたは…?」
「最近復職をした、佐野です」
「今川警視総監が説得をしたと言っていたのは、あなたでしたか!あ、捜査一課の田中です」
男は、ちんぷんかんぷんだったが、
話を合わせることにした。
「一旦、警視庁に戻って整理しましょう」
「あ、いや、その…」
「なにか?」
「なんでもない」
「行きましょう」
そう言われ、警視庁に着くと、
たちまち男のことが噂で広まった。
「あの人が、今川警視総監お墨付きの…」
「きっと、すぐに事件を解決してくれるぞ」
小さな声だが、男に筒抜けだ。
ここまで来ると、もはや途中で逃げ出しては、逆に怪しまれてしまう。
今川警視総監から直々に説得されて
復職した人を、演じることにした。
大きな会議室のようなところで、
事件の内容を聞いている。
その強盗のやり方が、どこか知っているようなやり方だった。
眉間に皺を寄せ、目の前のホワイトボードを
見つめていると、電撃が走る感覚があった。
先月、強盗仲間で1人、裏切り者がいた。
そいつに違いない。
このやり方、そいつが考えたんだった。
「犯人が分かりました。自白させましょう」
「え、もう?」
「さすがだ…」
何人も、衝撃的な様子で、口々に言う。
口をあんぐりさせたまま、閉じない者もいた。
犯人の家へ向かう。玄関が開くやいなや、
圧をかけるように問い詰める。
「お前が犯人なんだろう?」
「お、お前は、先月の!?」
すぐに先月の裏切り者が自白し、逮捕に繋がった。
男が警視庁の廊下を歩けば、皆、
敬礼したり、お辞儀をして、道を開ける。
とても清々しい毎日だった。
そのままの勢いで、他の強盗仲間たちを逮捕した。
仲間の一味が彼を見るなり、
「お前、警察官だったのかよ!」
と、叫んだ。
「13番!私語を慎め!」
他の者が黙らせる。
強盗仲間には、潜入捜査をしていたと、
捉えられた。
間もなく、今川警視総監が定年退職をした。
「彼がここに来てくれれば良いんだけど…」
とだけ言い残した。
男は、今川警視総監に会わずに済んだと、
胸を撫で下ろした。
本当に今川警視総監が説得していた人は、
頑固たる想いで、警察官として戻って
来ることはなかった。
言うまでもなく、男が警視総監として継ぐことになった。
〈終〉