経験ゼロからマーケティングオートメーションに取り組んだ、私を支えた2冊:マーケターの本棚
世界中に数多あるマーケティング関連本。どれを読めばマーケティングが分かるようになるのか。何から読めばマーケティングを理解しやすいのかを見極めるのは大変困難です。
「いっそ、あのマーケターの本棚をのぞき見できたら良いのに……」
そんな願いを実現したのが、連載「マーケターの本棚」です。今回はAdobe Marketo Engageの「2023 Japan Adobe Advocates」を受賞した、生活協同組合ユーコープ 宅配営業企画課の小出 純さんに、マーケターとして駆け出しの頃に、指針となった2冊を紹介してもらいました。
<プロフィール>
小出 純
2011年に生活協同組合ユーコープに入職。配送担当、営業担当を経て、2017年に本部の宅配営業企画課に配属される。マーケティング専門部署がない中、2018年のマーケティングオートメーション導入にあたって、運用担当者に抜擢。導入から、施策の企画立案、Marketoのプログラム実装、コンテンツやクリエイティブの制作までの全てを担う。そうした自身の経験をもとにした社内外でのマーケター市場への貢献が評価を集め、「2023 Japan Adobe Advocates」に選出された。
営業部門のマーケ担当として行き詰まったときに出会った1冊
『マーケティングオートメーションに落とせるカスタマージャーニーの書き方』
著者:小川共和
生活協同組合ユーコープにはマーケティング部門がなく、私の所属する営業企画部門がその業務を担っています。私が配属された2017年はちょうどデジタル広告を評価している頃で、担当者にはより専門的なマーケティング領域の知識やスキルが求められるようになっていくタイミングでした。
私自身、営業経験はあるものの、マーケティングについては何も知識がない状態で現職に配属。翌年マーケティングオートメーションを導入することとなり、その運用担当を任されるに至りました。
当初は営業経験を活かしてある程度順調に滑り出すことができたのですが、徐々に「本当にこれで良いのか」という迷いや焦燥感に駆られるようになってきました。
例えば「Adobe Marketo Engage」には「エンゲージメントプログラム」というナーチャリングを達成するための強力なプログラムがありますが、それを活かすことができていないのではないか。リードがたくさん取れるようになった一方で、リードナーチャリングを何からどうしたら良いのか。
どうコンテンツを作っていけば良いのか、そこで行き詰まってしまったんです。そんなときに出会ったのが、この本でした。参加したウェビナーで紹介されていて、わらにもすがる思いで手に取ったのがきっかけです。
題名の通りプログラムに落とし込めるマーケティングオートメーションの実用書
この本はまさに、マーケティングオートメーションの実用書。エンゲージメントマーケティング全体の設計を、目標の設定から最終的には業務としてのKPIの策定まで、順に紹介するような流れになっています。
その手順に沿って、自社の状況に置き換え、あてはめていくだけで「Adobe Marketo Engage」に「エンゲージメントプログラム」として、どのように落とし込んでいけば良いのかが捉えやすくなっているのが、とても参考になりました。
例えば「エンゲージメントプログラム」で、温度感をストリームによって分ける場合、その遷移条件を自動判別できるよう、行動データをもとに仕様をどう設定すれば良いかなど、具体的に記載されています。
Webページを何ページ見た、プレゼントに応募した、無料のトライアルを試した、などの各行動をトリガーとする、といった具体例で示されているので、本書のタイトル通り、そのままプログラムへ落とし込むことが可能です。
実際に今、これをもとにしたプログラムがいくつも稼働しています。言い換えれば、この本を使ってある程度ベースができてしまえば、あとは結果を受けて自分の考えや経験、知識を、プログラムへフィードバックしつつブラッシュアップしていくだけで、かなり上手く回せるようになるのです。
私のように突然マーケティング業務を担うことになったとき、マーケティングとは何かから学ぶのも大切ですが、とはいえ目前の実務を回さなければいけません。まずはこういった、足元の部分から取り組んでいくのも良いのではと思います。
また、本書では「カスタマージャーニーは顧客行動の変化ではなくパーセプションチェンジの連鎖である」と定義しています。パーセプションをもとに様々な施策を設計していくのは、マーケティングの進め方としては王道ではありますが、パーセプションを顧客視点の言葉で解釈していくのは、実は忘れがちなポイントでもあります。
例えば妊娠中の方や小さなお子さんがいらっしゃる方が、宅配サービスを利用したいというきっかけから始まって、こういうものが良い、選ぶならこの選択肢の中からにしようとパーセプションが遷移する中で、どうすれば次のステージに移ってもらえるのか。どういった心理の変遷があって、その各フェーズを自らの手でどう定義していくのか、のような一連の流れはマーケティング活動の原点にも通ずることだと思います。
文章表現の技術を具体的に学ぶ本質を捉えた普遍的な1冊
『理科系の作文技術』
著者:木下是雄
マーケターの仕事では、社内に報告したり、提案したりと文章を書く機会が多いですよね。特に私の場合は、提出物として文章を書く機会がほとんどなかったため、社内にある文書の中でどれを参考にしたら良いか見当もつかずよく頭を抱えていました。提出してから果たしてあれで良かったのか、きちんと伝わる内容だったか、不安に思うケースも多くて。そんな折に出会ったのがこの本です。
この本には新書のほか『まんがでわかる 理科系の作文技術』という漫画版もあるのですが、同じ部署のメンバーにも読んでもらいたくて両方持っています。
これまでビジネスで求められる文章の書き方、特にレポートの書き方を体系的に学んでこなかったという方は少なくないのではないでしょうか。本書ではレポートや説明書など、仕事に必要な文章表現の技術を、具体例をもとに体系的に学べるようになっています。
1981年の刊行で、新しい本ではないですが、だからこそ普遍的な本質を捉えた内容になっていると思います。
文の組み立てや構造、表現の方法を具体的に学んでいく中で、特に参考になったのは日本語と諸外国語との違いについて。日本語は主語と述語の並びが迷子になりやすく、文章が長くなると主語のねじれが起こりやすい性質をもっています。不安になってつい修飾しがちですが、断定する、言い切ることの重要性を学びました。
中でも印象に残っているのは「事実と意見を書き分ける」こと。自分にそのつもりがなくても、表現の仕方が悪くて意見が事実だと誤認されてしまい失敗につながった苦い経験から特に配慮するよう心がけています。これはビジネスパーソンにとっても非常に重要な指摘だと思っています。
文章を作るハードルを下げる、若い人におすすめしたい本
日本人は長い文章でないと評価されないと思いがちですが、箇条書きレベルでもきちんとポイントが押さえられていれば良い。そこがわかっているだけでも、文章を作るハードルはかなり下がるはずです。
配属されて間もない人ほどレポートを書いたり、文章を作る機会が結構多い。そこで悩んでしまうと時間ばかりかかって業務が回らなくなり、つまずいてしまうのはありがちなケースです。まずはこういう基本を押さえて業務を効率化していけば、もっと建設的なことに時間を割けるようになるので、この本は特に若い方へおすすめしたい1冊です。
日本人は本を読まないと言われて久しいですが、入り口として漫画版から入るのは決して悪いことではないと考えています。まずは自分に合った方法を見つけて読書を習慣化してほしいですね。
習慣化にあたって、個人的にマジックナンバーは3だと思っています。3日経てばある程度全体感が掴めてきて、3週間で習慣化が始まって、3カ月で生活に溶け込み、3年経てばそれが力になる。
最後まで読み切らなくても良いし、読み飛ばしても構わないくらいの心持ちでいれば、案外続けていけるのではないでしょうか。書籍のように、すでに世の中にあるものを上手に活用していき、その上で自分なりの思想や考え方を積み上げていくことが、自身の血肉となっていくのだと思ってます。