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アディクションにマインドフルネスが効果的な4つの理由

アディクションとは人を孤立させる病だ。社会からも家族からも、そして自分自身からも遮断する。私たちは身を隠した。ウソもついた。自分には決して手の届かない生き方をしている人を見てあざ笑った。最悪なのは、自分が死にそうなほど具合が悪いことを承知しているのに、別に問題など何もないさ、と自分に言い聞かせていたことだ。世の中との結び付きも、現実との結び付きも断った。生きることの意味を失い、現実からますます遠のいていた。
「今日だけ」

日本における2014年のアルコール依存症者は、4.9 万人と推計され、成人の飲酒行動に関する調査では、アルコール依存症 の生涯経験者は 100 万人を超える(樋口, 2013)。

最近では、アルコールや薬物のような従来からの物質へのアディクションに加えて、スマホ依存やネット依存、オンライン・ショッピングやオンラインゲーム、SNSへの依存など、テクノロジーへのアディクションも取り上げられるようになってきている。

コロナ危機において、ストレスが増大したことから、以前よりも酒量等が増えている人々も増加している。

アディクションとは、明らかに何らかのトラブルが生じているのにもかかわらず、その物質や行動をやめることができない状態のことである。

マインドフルネスの視点から見ると、アディクションとは、マインドフルネス(意図的に、今ここ、価値判断せず)の反対の状況である。すなわち、自動運転モードである。上述の引用に見られるように、つながりを持たず孤立している状況で、自動運転モードになるのが、アディクションの特徴である。

マインドレスなアディクション

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考えてみて欲しい、例えば、ストレスから買い物に走る時の一連の流れをみてみよう。

状況:また期日までに用意しておかなければならない、資料を準備し忘れてしまった事に気づいた

思考:「あ〜私って社会人失格だな・・・もっと立派な人間にならないと!」と思う。

行動:アマゾンをネットショッピング、洋服をポチる

感情:落ち込みがスッキリ解消される(短期的には)

本人が意識しているか意識していないかは別として、こういう現象はよくみられるのではないだろうか?

嫌な気分を瞬時によい気分にさせるため、いわば深く考えず自動運転モード的に「気づいたら、ネットショッピング」で憂さ晴らしをしているわけだ。

依存症の方たちはよくこういう「今欲しい、今すぐ欲しい、今!」

非常に日常生活中でよく見られる行動ではないだろうか。ただし、これも行き過ぎてしまうと生活に支障が出る(借金を重ねてしまうまで、買い続ける等)。そしてこれがネットショッピングじゃなく、喫煙や飲酒、薬の乱用のような物質で、憂さ晴らしが行われる場合もある。


 マインドフルにもしこの状況を見つめるとしたらどうだろう。どの時点で、「社会人失格?」と思ったのか。それによって、自分の身体感覚や感情、呼吸や、思考はどのように変化したのか?について気づく必要がある。

衝動により即座に「買い物」に走るのではなく、一旦間を置いてより明瞭に自分を見つめることができるようになるのがマインドフルネスである。

「例えば、また期日までに用意しておかなければならない、資料を準備し忘れてしまった」だとした場合。

忘れた時の自分の状態にまず気づきを向けてみる。「あ〜また忘れてしまった。やってしまったと後悔する」「焦る」「罪悪感」(心理的)「汗が出る」「ムカムカする」「頭痛がする」(身体的)「呼吸が早くなる」(呼吸)「私ってダメだ」(思考)

これらをはっきりと見ずに、この否定的な感情にのみ、自動運転モードで反応するために、アディクションは維持されるのである。

マインドフルネス的にこの状況に関わるとしたら。忘れたことに、セルフ・コンパッション(自分への思いやり) 。「そういうこともあるよね」「痛いね」と自分で自分を労う。今度忘れないようにするためにはどうすればよいか、スケジューラーに入れるなどの対策を講じる。そもそも、どうして忘れたか?というと、最近のスケジュールが過密だったから。少しスケジュールを減らすなどして、価値観の見直しをすることなどが必要であったかもしれない。落ち着けるまで瞑想することで心を落ち着ける・・のような対応が可能であろう。

お分かりだろうか。少し間をおいて、何が問題かをしっかりと見つめ、自分に優しくなり、より本質的な解決に向かって対応ができるのである。

衝動的に、アディクションに身を委ねてしまいそうな時は、いったん間を置くとよい。実践してみたい方は、下記の記事を参照していただきたい。


マインドフルネスが依存症に効果的とされる4つの理由

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(1)脳を変化させる(可塑性)

マインドフルネスは数多くの研究の中で、注意集中を増加させることや、感情のコントロールが良くなることが示されている。

ディフォルト・モード・ネットワークという脳のさまよいに関連する部位がある。この部位の活動と、アディクションの渇望や、うつの反芻が関わっていることがわかっている。

マインドフルネスは、デフォルト・モード・ネットワークの働きを鎮静化させるので、渇望も和らげるはずだ。

(2)自律神経のバランスを整える

多くのマインドフルネス研究が、マインドフルネス のリラクゼーション効果や、自律神経の興奮状態を抑えることを報告している。

アディクトは、トラウマを抱えたものも多く、ストレスがかかると過覚醒になるか、低覚醒になってしまう場合が多く自律神経のアンバランスを訴えるものが多い。

ブリューワーの研究でも示されているように、マインドフルネスは依存症者の自律神経にも効果が見出されることがはっきりしている。

(3)知覚のシフト

マインドフルネスのトレーニングは、知覚のシフトを生じさせ、メタ認知を強める。そのため、トレーニングを積むことで、自動運転モードに巻き込まれず、俯瞰して、客観的にものごとを捉えられるようになる。

マインドフルネスを練習することは、思考・感情・感覚刺激(音、視界、匂い、痛みなど)に関連したり反応する個人の反応に対する知覚のシフトをもたらす。(Jerath et al., 2012)知覚的な距離を取ることで、心理的な苦痛あるいは、身体感覚の痛みを客観視することができるようなる (Ludwig & Kabat-Zinn, 2008)。

マインドフルネスは、否定的な感情状態や思考パターンラベル付けしたり、特定する能力を改善すると理解されている(Gillespie et al., 2012)

 マインドフルネス瞑想は、思考や経験に気づきながら、それから距離を置くための訓練である。今現在の体や心を観察することによって、認知的に「距離を取り」怒りなどに対して「過ぎ行く体験である」と心理的・感覚的なプロセスを捉えられるようになる。(Shonin et al., 2015).


(4)肯定的な依存症としての瞑想

瞑想は、場合によっては静粛さ、リラックス、平静さ、幸せなどを味わうことができる。依存症者が、物質を摂取することで得ようとしていたものを、瞑想が代わりに提供してくれる。

そういう意味で、瞑想は、肯定的な依存症としても捉えることができる。指導を受けながら行う瞑想は、副作用の比較的少ない、安全な依存行動となりえ、(1)〜(3)のようなメリットもあるので、よりよい解決策となる。

以上、4つの理由を紹介した。こちらの理由については、Shonin et al., 2015を参考に、筆者の臨床実感のあるものをピックアップし、まとめた。

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アディクションのためのマインドフルネス

当センターでは、昨年から、アディクションのためのマインドフルネス8週間プログラム(MBRP)を開催している。こちらは、グループでの集団認知行動療法になる。アディクションを抱える方が陥りやすい、孤立と自動運転モードのどちらに対しても解決策となりえるだろう。

MBRPの臨床家用マニュアルはこちら

次回の開催は、2020年10月を予定している。MBRPについて詳しくはこちらの記事を読んでほしい。

こちらの本も素晴らしい本である。一人でできるようになっている、依存行動から抜け出すための、マインドフルネスワークブック。マインドフルネスというより、認知行動療法の本といったほうがよいだろう・・


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