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物書きにとっての「パンドラの匣」を開けてみた



引越し作業中。
ウォークインクローゼットの片隅に佇む1冊の冊子と目が合った。

ただの冊子ではない。


絵柄に時代を感じる


卒業文集だ。

そういえば、こっちに持ってきていたんだっけ。
すっかり忘れていたなぁ。

中学時代。
体育大会の応援団に参加して学ランに裸足でグラウンドを駆け回ったり。
校内合唱コンクールで指導したり。
部活でもたくさん歌って。
選挙管理委員として生徒会選挙を取り仕切ったり。
野外学習と修学旅行も忘れてはいけない。

……それから、当時の担任に恋をして、ラブレターを送って告白してみたり。


思い返すとなかなか甘酸っぱい青春を送っていた。


でも、卒業文集に何を書いたか……。
まったく覚えていない。内容を忘れてしまったせいで、何が出てくるかわからない……パンドラの匣みたいになってしまった。

これ、うっかり開いたら

「あの頃の自分恥ずかしい…………。」

って災厄ならぬ羞恥が飛び出してこないだろうか。
いや、そうなりそう。


でも、ちょっと……
ううん、かなーーーり内容が気になる。

当時、何を書いたんだろうか??
何を感じていたんだろうか??

冊子と対峙して数十秒。

期待と不安が混ざりあったまま、
そっと、ページを捲ってみた。

そうそう、絵の上手な子がとにかく可愛く彩ってくれたよなぁ……。
紙の上で絵と文字が楽しそうに踊っている。

パラパラと捲ってみると、この頃はゴールデンボンバーが流行っていたのかな?
「キリショー」とか「樽美酒」の文字がチラホラ。
今でも人気のエアロックバンド。
当時の女子中学生の人気を得ていたようだった。


捲って捲って……後半の方にあった。
文集に寄せた作品が。
文字を辿ろうと文章に集中した。

かけがえのないもの
ゆづ        

かけがえのないもの。それは、その人において失いがたく、とても大切なものです。私は、○○中で生活した3年間で、たくさんのかけがえのないものを手にすることができました。

1段落目

うわぁぁぁぁぁぁぁ!!
思わず、冊子閉じたよね!!
だって、自分の予想になかったテーマで書かれているんだもの!!

いや、でも……。
言いたいことはわかるのだ。
失いたくないものってたくさんあるよね。
わかる。
特に、学生時代に得たものは、大人時代に引き継がれていく。
友だちとか、好きだったものとか……。
思い出すと懐かしいような不思議な気持ちになるし、会うことがあるならば、それも大切なことだもんね。

その1つに、自分の心があります。○○中に入学した当初、私の心は固く閉じ、誰に対しても一歩ひいた関わり方をしていました。しかし、今では誰に対しても明るく関わることができています。自分の心が、大きく成長したのです。そんな心の成長ができたのは、母・年齢を問わない友人・○○中の環境・先生方のおかげだと思っています。そして、その全てが私にとって大切な存在であり、かけがえのないものです。失いたくありません。

2段落目前半

思い返すとそうだったかも?
女子特有のグループに属さずフラフラしていたかもしれない。

中学に入ってから、交流の範囲も増えて楽しく過ごしていた。
みんな、よくしてくれた。
それを、失いたくはなかったんだ。

でも、全ての人とのつながりをもち続けることができないのが、現実です。いつかは、忘れてしまうのかもしれないと考えることもあります。だけど、私はその現実と闘い、永遠にかけがえのないものを心に残したいと思います。かけがえのないものは、私の心の支えです。

2段落目終盤

忘れて、なくなってしまうような気がして怖かったのかな。
実際に、卒業文集に何を書いたかなんて、まったく覚えてなかったし。
自分の存在証明が欲しかったのかな。

大丈夫だよ、忘れてないよ。
普段からずっと考えるなんてことはないけれど、心の中に残っているよ。
これからもずっと残り続けるよ。

そのまま、最後の一文に目をやる。

さて、あなたにはかけがえのないものが、ありますか?

最終段落は1文


薄々、気がついていたけれど。
これは、卒業文集じゃない。
エッセイだ。

15歳の自分が同級生へ。
そして、未来の自分へ書き記したエッセイだった。

その幼きエッセイストに伝えよう。
かけがえのないもの、たくさんあるよ。
合唱や読書、書くことという自分を潤す行為。
一緒に歌う仲間、聴き手としての仲間、メンタルを整え合う仲間、生活を共にする仲間。
そして、このnoteで出会った書き手、読み手としての仲間。

そのすべてが大好きで愛しくて……どうしようもない「かけがえのないもの」だ。


ひょっこり出てきた卒業文集。
恥ずかしいな……って思いながら手に取ってみたけれど、気づいたら愛おしさで溢れていた。

パンドラの匣は開けると全ての災いが飛び出してきて、閉めた後に匣に残ったのは希望、と言われている。

けれど、この匣は懐かしさと愛おしさで溢れかえっていた。

恥ずかしくなんてなかった。
この文字に彼女は想いを込めたんだ。
みんな、自分にとって大切なんだよって。


さて、あなたにはかけがえのないものはありますか?


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