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連載SF小説『少年トマと氷の惑星』Ⅶ.トマの願望

Ⅶ.トマの願望

 あれから、半年が経とうとしている。
 トマは、空を流れる星々を目で追うこともなく、ただただ毎日、地平線を黙って眺めるようになった。
 
「どうしたんだ、トマ。今日のスープをまだ食べてないじゃないか」
 すっかり口数が減ったのを心配して、カイムは窓辺のトマの元にやって来た。
 
「カイム、僕は待ってるんだ。また、この惑星が緑の記憶を思い出すんじゃないかって。あの暖かい世界に、僕はもう一度出かけたいんだ」
「残念だが、ティエラがまたあの曲を歌っても、何も起こらなかっただろ。あの一回きりだったんだ。奇跡ってやつだよ」
「カイムまで、そんなこと言わないで。僕には分かるんだ。あれは、きっと彼らの未来の記憶だよ。きっと、この惑星が生き返るんだ」
 そう言って、ますます窓に張り付いてしまうトマを見て、カイムはそれ以上「植物たちはもう生き返らない」とは言えなかった。
 
「なあ、トマ。そんなにここが嫌なのか? 確かに、この小屋以外は何にもない世界だが、温かい暖炉も、毎日食べるスープもあるだろう?」
 カイムにそう言われて、トマは首を横に振る。
「違うよ、カイム。ここで、カイムとティエラと暮らせることが、とっても嬉しいよ。でも、僕はもっと色んなことを知りたいんだ」
「色んなことを知るっていうのは、それは子どもではいられないってことだぞ。永遠の十歳の人ではいられなくなるってことだ。分かるか?」
 
「……僕は、大人になりたいんだ。ずっと小さな十歳なんて、嫌だよ。もっと、もっと、お話ではなくて、あの時みたいに、ちゃんと何かに触れて、生命に触れて、色んなことを感じたいんだ!」
「大人になるってのは、綺麗なことばかりじゃいられないってことだ。身体も随分変わるだろう。それでも、いいのか?」
「僕はずっと子どもでいたけれど、それは幸せだったけれど、きっと何も知らないから、何が綺麗でそうじゃないかがよく分からないんだ。綺麗なことばかりじゃないとしても、それを感じられたら、僕も『大切なもの』を見つけられると思うんだ。ティエラが泣いた日、その涙が美しかったのも、きっとティエラは綺麗じゃないこともちゃんと知っているからなんだよ」
 
「……トマ。お前は、老いることが、死ぬことが、怖くはないのか。それとも、何かがちていくことを知らないから、そんな恐れもないのか? ずっと住んでいるこの小屋も、お前が生まれるよりずっと前の、大昔の一日の記憶をずっと繰り返しているから、暖炉のまきが減っていくことも、毎日食べるスープがなくなることもない。時間を進めるということは、命を燃やすということだ。その意味が分かるか?」

「──カイム、僕は命を燃やすことを知らない!!」
 
 トマはそう叫んでカイムの胸に飛び込むと、長い時間、大きな声を上げて泣いていた。

(つづく)

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みなとせ はる
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