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【歌舞伎鳩】菊宴月白浪・神明恵和合取組(七月大歌舞伎)

歌舞伎座新開場十周年 七月大歌舞伎
2023年7月3日(月)~28日(金)
昼の部:菊宴月白浪
夜の部:神霊矢口渡・神明恵和合取組・鎌倉八幡宮静の法楽舞



菊宴月白浪きくのえんつきのしらなみ

ざっくりとしたあらすじ
塩谷えんやの浪士が高野師直こうのもろなおを仇討ちして(忠臣蔵)一年ほどのちの話。
お取りつぶしとなっていた両家の再興のため、塩谷家は家宝の「花筐はながたみの短刀」、高野家は家宝の「菅家かんけの正筆」を献上すれば、両家のお家再興をかなえるという沙汰が出る。
塩谷判官の弟・縫之助と、高野の養子・島五郎はそれぞれ家宝を持って出向くが、いつのまにか塩谷の家宝「花筐の短刀」が偽物にすり替わっている。
そのため偽物を偽って献上しようとしたということで、縫之助は切腹となる。
ちょうどそこに現れた斧定九郎(元は塩谷の武士)は、主人に変わって切腹を引き受け、いざ切腹というその時……。
その後盗賊となり暁星五郎と名を変えた斧定九郎が、盗まれた「花筐の短刀」を取り戻し、塩谷のお家再興を目指すためにやんややんやする話です。
きちんとしたあらすじはこちら

宙乗り(学び:役者を吊り上げて舞台上や客席の上を飛ぶ演出)があるというので、面白そう〜〜〜!!!という軽い気持ちで後からチケトレで三等席を取りました(知った時には完売していたため)。
忠臣蔵の後日譚とのことで、忠臣蔵の予習が必要?となったのですが、あまりに忠臣蔵映画が多く、お手上げでした……。
今のところ目をつけているのは以下の2作(いつか見ます)。
忠臣蔵 櫻花の巻/菊花の巻(1959) 監督:松田定次 出演:片岡千恵蔵
赤穂城断絶(1978) 監督:深作欣二 出演:萬屋錦之介
おすすめ忠臣蔵映画があればぜひ教えてください。
(共有:作品評がまとまったサイト見つけた……すごい忠臣蔵愛……)


斧定九郎:市川 中車
金笄のおかる:中村 壱太郎
塩谷縫之助:中村 種之助
腰元浮橋:市川 男寅
下部与五郎:中村 歌之助
高野師泰:市川 青虎せいこ
加古川:市川 笑也


  • 序幕
    甘縄禅覚寺の場
    伊皿子町九郎兵衛浪宅の場
    山名館の場

始め〜斧定九郎が盗賊となり、高野の家宝「菅家の正筆」を奪うまで。

人が……人が多い……!
忠臣蔵の映画までは見られなかったものの、いちおう予習はしたのですが(イヤホンガイドのweb講座で)、しかし登場人物が多い……!
微妙に覚えられない。。。
一番混乱したのは唐突に出てきた「山名」……山名誰……どっちの人……?????(高野のほうの人)
おそらくどこかの台詞で解説が入っているとは思うのですが、頭フル回転で見ていたため、取りこぼしたもよう。
舞台右上(概念)に顔写真入りの相関図を出しといてもらえませんか……?
でもなんとかどうにかついていけたので、イヤホンガイド様様&予習の成果です。

始まりは人形?を模した役者さんが口上を述べて始まって、この演出も面白かった(これはもとが文楽だから?忠臣蔵がそう始まる?のようなことをイヤホンガイドのお姉さんが教えてくれました)。

これは大変野暮天でございますが、めちゃくちゃ大切な家宝を墓前に供えて(野外)、恋人といちゃこらして目を離すのは……さすがに……だめじゃないですか……? だいたいこのあとのすべてはそれのせいだぞ!

入れ替えられた後の短刀が、きちんと錆びていて、とても素晴らしい。
見るからにあれは使えない / 使っていない刀だった。

斧定九郎改め暁星五郎は秘伝の忍術の書で忍術が使えるようになるのですが、あののどさーっとなる演出は勢いが良くて面白かった。
その後すぐ幕間だったので、お掃除タイムだ!と思いました。


(休憩)

3階後列だだいたい真ん中くらい
宙乗りのワイヤーが両側に見えますね


  • 二幕目
    浅草新鳥越借家の場
    三囲堤の場
    小名木川隠れ家の場
    両国柳橋の場

加古川殺害〜与五郎が真実を知り〜縫之助が傷を負い〜本復するまで。

好青年(与五郎)が悪役になってしまい悲しい。
前の幕では純朴にお墓の世話をしていたのに……。
しかし同じ役者さんが、化粧と振る舞いであそこまでがらっと雰囲気が変わるのはすごい。役者さんってすごいなあ。

加古川(定九郎の妻・籠釣瓶の八ツ橋がなぜか干渉してきて名前が覚えられない)、格好良い姐さんが出てきたと思ったのに5分で死んでしまった。
加古川がすっぽんから出入りしたことで、なるほど死者もそこから出入りOKなのかと分かったんですが、それにしても死者ってそんなに役としてたくさんいるんですか……?
辰の年、辰の日、辰の時刻の揃った時に生まれた人間の血が、病気の本復に必要という話、なんでなんだろう。

殺された加古川が化けて出て、自らの血を使えというやりとりをするところ(加古川こそが三つの辰の揃った生まれだったため)、とても感動的でした。
夫と家のために自らの血 / 死体を差し出す加古川と、お家のために、勘当されてまで一緒になった妻(加古川は他家の娘)の胸を貫く斧定九郎。
この一連の場面のドラマチックさはぐっと胸を打ちました。

両国柳橋の場で、星五郎が追手に追われている時、亡くなった加古川が空に現れて逃すシーン、加古川が舞台上で傘で吊られているのですが、あの宙乗りをふわふわと呼ぶらしい。なにそれかわいい。
そしてあれはどう身体を支えているんだ……?
まさか傘を持った腕だけで体重を支えているわけではあるまいし。
この加古川のふわふわ他良いシーンが結構見切れていて、三階席だと奥まったところとか、舞台のほんとうに上の方などは見えないんだな〜と勉強になりました。
この数ヶ月で初めて見えないところが出てきたかもしれない(覚えてないだけかも)。
この時、舞台後ろでは花火のCGっぽい映像が投影されていて、そういうこともやるんだな〜と思った。
まあ初音ミクちゃんと歌舞伎してたりするし、古典的な演目でもいろいろな技術を取り入れているんですね。

そういえばやはり定式幕は立体的に見えなかったので、あれはやっぱり新橋演舞場だけなのかも。 


(休憩)


  • 大詰め
    本所石原町石屋の場
    牛の御前祭礼の場
    専蔵寺大屋根の場

前幕の加古川のシーンでものすごく感動したんですが……
これは野暮、大変に野暮を言いますけど、その加古川のシーンの後に、金笄のおかる(女伊達)が操を立てている「昔暗闇の中で一度だけ契った顔も知らない忘れられない男」に定九郎が該当しているのは、どうなんですか……??? それは????? いや加古川(妻)は……??? 
さっきまでめちゃくちゃ感動していたのに、この鳩の気持ちをどうしてくれる……!?!?!?
おかるが身の上話をしている段階で想像がついてはいたものの……ついていたけどさあ……もう何も信じられない……(笑)
これはこれで単独の話であれば特に気にも留めないのですが(顔も知らんのによくずっと惚れたままでとは思うものの)、加古川の話と混ぜちゃうから! ノイズがすごい!
こういうのがあるから昔の話は面白いですね。
現代の感覚からすると、めちゃくちゃじゃんと思ってしまう……。

(それはそれとして)
おかるが定九郎と再会し、一度出会った時に持たされていた半笄(二本で一対)が揃った後、たぶん一対になったかんざしをおかるが髪に挿していたのが良かった。おかるはけなげ。結ばれて良かったね。

最後の最後にお目当ての宙乗り!
思っていたよりスピード感はなかったが、飛んでいる間、全方位に視線をくれるので、全方面ファンサだ……と思いました。
きちんと全方位から見られても完璧なように演じられているので役者さんはすごい。
しかし大凧、足を乗せるところくらいしか足場がなく、命綱をしているとはいえあれに乗って見得を切るのはすごいな〜! かなり高いし怖そう。度胸が必要。
両宙乗りというものだったらしいので、下手側から3階?4階?まで上がり、上手側から舞台に降りて行った。
上がったと思ったら背後でどたどた足音が横切っていって下に降りていったので、4階の廊下?を、めちゃくちゃ走ったんだろうな。
大凧が風に煽られて、傘で降りるコミカルなくだりも楽しかった。

ラストはざぶとんを投げまくるので、これも見ていて楽しかった。
とても豪快。専蔵寺(おそらく浅草寺)の屋根の上でやりたい放題である。最終的には物理攻撃が勝つのだ……。

そういえばよくわからないところで笑いが起きている印象だったんだけど、鳩が何か見逃しているのか、はたまた忠臣蔵のパロディが散りばめられており何か笑いどころがあるのか?わかりませんでした。

また、定九郎が見得を切る時、声?息?を出すのが三階まで聞こえていた。
ほかの役者さんでは聞いたことがないような気がするので、こういったところにも役者さんの演じ方の違いが出るんですかね。

話としては色々つっこみどころが多かった気もするんですが、楽しませようとする工夫がたくさん盛り込まれていて、その通りでとても楽しかった。
たのしい!終わり!だったので、わくわくのまま歌舞伎座を出ました。


(午前の部おしまい)


神明恵和合取組かみのめぐみわごうのとりくみ

ざっくりとしたあらすじ:品川の遊郭で相撲取りと鳶が喧嘩になりかける。
そこを収めたのは「め組」の鳶頭・辰五郎
丸く収めるために一度は引き下がったものの、侮辱された恨みは忘れられない。
後日、芝居小屋の前で再度鳶と相撲取りが喧嘩になりかけるものの、ここでも芝居の興行主・喜太郎に止められてしまう。
ついに相撲取りへの仕返しを心に決めた辰五郎は、兄貴分の喜三郎に暇乞いをして家に帰る。
仕返しをしようともしない夫の不甲斐ない様子を見かねた女房・お仲に愛想を尽かされかけるが、自ら用意していた離縁状を持ち出し訳を話し、女房子供に別れを告げて、決着をつけるための喧嘩に出かけて行く……。
きちんとしたあらすじはこちら

通称「め組の喧嘩」。
午前の部を見ていた(&指定席を取り損ねた)ので、一幕見自由席に初めて入りました。
午前の部の両宙乗りのため、結構な席数が潰されていた?
午前の部見終わった時には切符完売していたので、幕見の切符を取るのはやっぱり争奪戦ですね。
*「め組の喧嘩」と聞くと、違うと分かってはいるもののずっと脳内の右の隅で鈴木雅之が「めっ!」と言ってくるので、この際この呪いを皆さまにもお裾分けします。メッ!


め組辰五郎:市川 團十郎
女房お仲:中村 雀右衛門じゃくえもん
江戸座喜太郎:河原崎 権十郎
四ツ車大八:市川 右團次
九竜山浪右衛門:市川 男女蔵おめぞう
焚出し喜三郎:中村 又五郎
尾花屋女房おくら:中村 魁春


市川團十郎、あんなにお顔立ちがよろしかったんですね……?
あんまり気にして見たことがなかったので知らなかったんですが、大変美しかった。
今回の演目では苦悩しつつも男気を通そうとする格好良い鳶の役(辰五郎)でしたが、全然違う優男のような役柄とかも見てみたいですね。
あと異様に顔の良い芸者の方がいた……遊郭の場で2列目中央あたりに座っていた……探してみたんですが、お名前がわからない。

もちろん最後の鳶vsお相撲さんのところが一番の見どころ(楽しい)だけど、そこに至るまでの話の構成も、辰五郎の心情の動きが描き出されていて良かった。
ぐっと我慢して仲間を宥めつつも、人には何も言わぬまま仕返ししようとする心情の動き。
台詞にはなくても、表情所作にそれらが表現されているところが素晴らしいですね。

女房・お仲は、不甲斐ない(ように見える)夫にとても強く出るけれども、それでこそ鳶の若い衆を従えている男の妻だなあという気骨が感じられてこちらも良かった。
そしてその辰五郎とお仲を繋ぐのが二人の子供、というのがベタだけどいいですね。王道です。
離縁状を破る子供、無邪気で可愛い。
そしてその子に取り縋られて、さすがに耐えきれなくなりそうな辰五郎の身振り。
あそこだけは、心が先に身体に滲み出ていて、じんとしました。

ラストの喧嘩シーン、鳶もお相撲さんも入り混じり、大人数がわちゃわちゃ喧嘩をしていて、勢いあるな〜大人数だな〜と思っていたのですが、一階正面のお席とかから見ると、もっと熱気も見えるのかもしれないと思った。
幕見席だと舞台からは遠く、上から眺めることになるので、よく言えば全体が見渡せるのですが、どうしても客観的な見え方になってしまう。
一階で舞台上の人物と同じくらいの視線で、もしくは少し下から見上げるように見れば、舞台の奥の方で何をやっているのかが見えないというか、きちんと人数が折り重なって見えると思われるので、喧嘩の迫力が段違いだろうな〜。
七月の演目は、一階席で見ると、全体的に楽しめそうな演目がたくさんでした。

お相撲さんの身体、ボディースーツのようなもので表現しているのが面白かった。この公演の時だけ太るわけにもいかないしね。
また鳶の刺青もボディスーツだった。確かにいちいち描くよりよっぽど早い。
表現の素朴な工夫がたくさんあって楽しい演目でした。

映像にも少し出ていますが、水盃の盃をめちゃくちゃに叩き割る……!
迫力があって良いですね。血の気の多さの表現。


おまけ

歌舞伎の演目?を描いたのポストカードが売店に売っているんですが、その歌舞伎座verのものがとても良い。
劇場の良さわくわく感とがすべて描かれていて大変素敵です。
かぶきねこづくし」というシリーズのようです(作者:吉田愛)。


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