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【歌舞伎鳩:番外編】三人吉三(五月シネマ歌舞伎)【感想】

先にパロディのような演劇を見ていましたが、あれが結構忠実に話を進めていたことをようやく知った。確かにこの演目を見ると、どうにかこうにかハッピーエンドにしたいかもしれない。
以下引用はあらすじ。

──三人だから、 生きられた
節分の夜、同じ吉三の名を持つ三人の盗賊が出会い、義兄弟の血盃を交す──
僧侶崩れの和尚吉三(中村勘九郎)、男に生まれながらも振袖姿のお嬢吉三(中村七之助)、浪人のお坊吉三(尾上松也)。
数奇な運命に導かれ翻弄されながらも、がむしゃらに命を賭して生きる三人。
名刀「庚申丸」と「百両の金」が様々な人々の手を巡りもたらす悲劇の連鎖……。

NEWシネマ歌舞伎 三人吉三 / シネマ歌舞伎

三人の吉三にまつわるあらゆる巡り合わせを絡めて構成されている話で、もうこれがうまく作られているのがただただすごいなあと、そこばかりに目がいきますね。途中で和尚に全ての情報が集約されてしまうところ、ここで観客にも全ての因果を理解させるように作られているのが構成の妙。
三人の吉三が同等に主役なのかなとは思うけれど、もろもろ合わせての群像劇として仕上がっているので、見ていて誰に肩入れするということはないのかもしれない。

しかし一番不憫なのはお登勢と十三では……? 他の方々は同様に因果だなあと思うものの、直接的にはなんの瑕疵もない2人の末路が可哀想。殺すことなくない? と思ってしまうけれども、それで一生事実を隠されたままなのも……うーん……。出会ってしまったことがただただ不幸という感じですね。

庚申塚で三人が出会う場面がよくかかるらしいということだけ知っていて見ていましたが、そりゃあ、そうかもしれない。この場面が一番華やかで、これから何が起こるのだろうという期待感が高いですもんね。ここを過ぎてしまうともうあとは……死にゆくだけ……。。。
この映画版ではこの出会いの場面で、本物の水が張ってあるのが幻想的で良かった。大詰の雪の場面もそうですが、しんと静かな中に緊張感のある自然物が湛えられている場面がいくつかあり、情景にぐっと引き込んでくれる演出が良い。

大詰ではものすごいドカ雪が降りはじめ、見ていてちょっと面白くなりかけましたが、あれがあることで舞台上に雪原が現れる。その雪の中で折り重なる三人の死体の虚しさと美しさよ。あらゆる因果や業を身のうちに溜め込みながら生きてきて、出会ってしまった三人の同じ名前の男たちが、決められた運命に従って死んでいく……。次もう一度見たら結末が変わったりすまいかと思わざるを得ない最後でした。

そのほか細かいこと

  • 八百屋の娘として育てられた、名をお七、というお嬢吉三の説明で、八百屋お七……?となりましたが、ほんとうに発想元が八百屋お七なんですね。それを発想元としてこの因果な盗賊の話を描き出すのはなかなか想像がつかない。なんならお七もといお嬢吉三は男になっているし……。

  • お嬢吉三は男なので、女のふりを止めるとすぐに男っぽい仕草になるのがすごい。また着物のつくりが足捌きがしやすいように作られているっぽかった。襦袢はもしかすると袴みたいになっていたのかも?衣装も工夫がたくさんあって面白い。

  • お坊吉三のことを、僧職のお坊だと思い込んでいたのですが、これボンボンの方ですね? 良家の子息の方だったのか……(今更)。

最後を知っていて見るとなると結構重たい話で、見るのに覚悟が必要な気がするけれども、どの場面も力強く、物語の構成も面白いため、実際に劇場でも見てみたいなあと思いました。



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