【歌舞伎鳩】マハーバーラタ戦記・松浦の太鼓ほか(吉例顔見世大歌舞伎)
歌舞伎座新開場十周年 吉例顔見世大歌舞伎
2023年11月2日(木)~25日(土)
昼の部:マハーバーラタ戦記
夜の部:松浦の太鼓・鎌倉三代記・顔見世季花姿繪(春調娘七種・三社祭・教草吉原雀)
いつもは昼の部、夜の部、どちらかしか見ていないわけですが、ついに……両方……見ました……。ぶっ通しで一日いたわけではないのでまだ……。
ズブの素鳩ですのでご先達の反応やらを見ながら毎月見る演目を決めており、11月は昼の部!といって早々お切符を取っていたわけでございますが、もうなんだかんだと生活をしているうちに我慢がならなくなって、夜の部も追いました。やったね。
昼の部
極付印度伝 マハーバーラタ戦記
ざっくりとしたあらすじ:
古代インド。神々が見下ろす人間界では、人間たちが始終争いをしている。これらをどうにかするため、信心深い汲手姫に半人半神の子を生ませ、その子供たちに争いを止める宿命を負わせることとした。
太陽神が産ませた子供は、武力を持つことなく世界を平定する宿命を負った迦楼奈。
帝釈天が産ませた子供は、武力を持って世界を平定する宿命を負った阿龍樹雷。
ガンジス川のほとり、太陽神は汲手姫の前に姿を現し迦楼奈を産ませるが、結婚もしていない汲手姫は、嘆きながらも迦楼奈を川へと流す。ある夫婦に育てられ、天性の弓の才を持った青年に成長した迦楼奈は、太陽神よりお告げを受けて、世界を平定するために旅に出る……。
きちんとしたあらすじはこちら。
迦楼奈/シヴァ神:尾上菊之助
太陽神:坂東弥十郎
帝釈天:中村錦之助
汲手姫:中村米吉
阿龍樹雷王子:中村隼人
鶴妖朶王女/ラクシュミー:中村芝のぶ
那羅延天:尾上菊五郎
こういう活劇的なお話は見ていて楽しいので良いですね。純粋にわくわくさせてくれるし面白かった。
序盤は迦楼奈不憫すぎないか……?と思っていて、中盤から微妙に感情移入できない主人公だな……など思っていました。すべての物語にこれは言えることなんですが、全部懇切丁寧に説明してあげたらこんなことにはならんじゃんか、という気持ちがある。
迦楼奈の行先は途中で検討がついたので、汲手姫への向き合い方などももちろん理解はできるのですが、それにしても汲手姫、可哀想では……。そもそものところで言うと、神々、汲手姫一人に何人産ませてんの。神話というのはそういうものだが、やりたい放題すぎる。
争いを止めるために結局争いを生んで、最終的に神々が、よしよし、まあこれで大丈夫っぽいから寝よ!になるの、全ての元凶はあなたたちでは……?という気持ちにもなってくる(神話というものは略)。途中で助けてあげなよ自分らの子供だろ!
つっこみまくってはいるんですが、めちゃくちゃ楽しみました。
大道具! 大道具の資料集・全画集を今すぐに出してほしい。六曲屏風的なものを活用されていて、それがまた良い感じに神話的に見える。廻り舞台で転換する時は、屏風の裏表で見せてるのかな?と思っていたが、たぶん背中合わせで2つ置いてあったのだと思う。
ラストの良いところで、それまで動かさなかった屏風を動かして、舞台中央に六角形の柱を作ったのがもう面白くて、うっかりどう動いてるのかを考えだして一瞬話が飛んだ。
背景などの描写もバティックっぽい模様だったりして、歌舞伎としての日本の雰囲気と、原作となっているインドの雰囲気をものすごく綺麗に隣り合わせているのが良かった。
迦楼奈と阿龍樹雷の一騎打ちのシーン、舞台装置も面白かったのですが、演出も面白く、戦車が走り回る中、射た矢を大きな旗に描いて、それを持って走り回ることで表現しているのがとても面白かった。舞台上という限られた場所の中で、奥行きを広く取り、走り回ることによって、広い大地での一騎打ちを目の前に現してくれる。そしてこの最後、万感の思いの抱擁にハッとした顔の阿龍樹雷……。迦楼奈の旅の行き着く先が、推測されていようとも、ぐっとくるものがありますね。
そのほか細かいところ
・象もっと見たかった! 歌舞伎が出してくる馬のこと大好きなので、象のことも大変好きです。
・鶴妖朶王女、生きてきた境遇とそこから発した信念と、迦楼奈に出会って違う生き方もあったのかもしれないと気付かされる悲哀、あらゆるものに呪われたような身から発される最期の呪い……。ものすごく良い悪役だった……。こちらが主役となっても良いくらい素晴らしい。なによりとても格好良い。
・マントラ、結構なんでもできて便利。
・参考:RRRはさすがに驚いたというか、そんなところから持ってくるのか……というのが面白かった。結局観ていないので、今こそ観るべきか……。
珍しく3階A席の下手側にいたのですが、上手の仮花道がほぼ見えなかった……! なんかやってる……ということしかわからない……。花道にずらっと並んだりすることがあったので、B席よりはある程度人数は見えていたように思うけれども、もしかしたら花道の視界の確保はB席の方ができるのかも。舞台上はもちろん普通に見えます。
横にある入り口付近に立ち見で大向こうさんがおり、こんなところにいることもあるのか……と思った。
夜の部
松浦の太鼓
ざっくりとしたあらすじ:
松の廊下の刃傷沙汰からおよそ一年(忠臣蔵)。大高源吾と同門であった松浦鎮信は、赤穂浪士が未だ仇討ちをしないことに業を煮やしていた。
屋敷での句会の中、松浦候は、同席していた俳人・宝井其角から源吾に昨日会ったという話を聞く。笹売りに身を落とした源吾の話は松浦候を不機嫌にさせるが、其角の投げかけた句に「明日待たるゝその宝船」と源吾が続けたという話を聞くと、途端に上機嫌となる。その時、隣の吉良邸から陣太鼓の音が……。
きちんとしたあらすじはこちら。
不機嫌松浦候、にこにこ松浦候、わくわく松浦候、松浦候、とても可愛い。
理論は大人のそれなのに、喜怒哀楽の出し方が子供みたいで、ばか!ばか!など言う。ものすごく愛嬌があって面白おかしく、そして可愛い。感情が全部表情に出ており、他の人が話しているのに目が離せず、ずっと視線を釘付けにしてくる。
しかし屋敷の主人が我先に討ち入りの加勢に行こうとされるの、臣下としてはたまったもんじゃないよなと思いました。見ていてものすごく楽しいのですが笑 はしゃいでいるのだけれども好人物で愛嬌があるため、そんな無茶をしようとしても許されている感じがする。何はともあれ可愛い。
屋敷の主人の乗る馬なので、鞍なども豪華な黒い毛の馬が出てきたのが好き。はしゃぐ松浦候、必死に止める家臣たち、わたわたする馬。ともかく落ち着いて松浦候が馬を降りた後、馬飼の人?が馬の鼻面を撫でて落ち着かせていたのが、芸が細かくてとても良かった。主人も可愛けりゃあ馬も可愛い。可愛いって何回書きましたか?
大団円的な終わり方に見えるけれども、その浪士たちはこれから切腹するわけで、それが武士の誉。現代的な価値観であると少し引っ掛かりがあるけれども、それが忠義というところでチューニングをすると、とても清々しい姿だなと思いました。
クライマックスに向かって、松浦候につられて高揚していくこのわくわく感、とても面白かった。お気に入り演目のひとつになりました。
そのほか細かいところ
・其角と源吾の服装の差が面白かった。其角の履いている高下駄、鼻緒のあたりに雪除け?っぽくカバーがかけてあって、生活の知恵……!と思った。確かに草履とか下駄ってつま先寒いよね(雪の降る場面でした)。
・お縫(中村米吉)が、松浦邸の句会の際に、隅の方でお茶の準備をしていたんだけれど、きちんと裏の作法で点てていて驚いた。そうかそういう風俗も演出に繋がってくるんだな……。貴人用の高坏、知ってはいたが実際に使われるのはこういう場面なのか!と気づきを得た。あと米吉さんってとても声がいいんだな、今更ですが。
松浦の太鼓をやっていたおかげで、熊本銘菓「誉の陣太鼓」が売店に売っており、喜び勇んで買いました。このお菓子大好き。東京ではあまり見かけないので劇場に入ってすぐに買った。持って帰ってすぐに食べた。
鎌倉三代記
ざっくりとしたあらすじ:京方と鎌倉方にて争いの最中。
北条時政(鎌倉方)の娘・時姫が好いた男は敵方の三浦之助。戦に出ている三浦之助の家に時姫は押しかけ女房をして、三浦之介の母・長門の世話をしている。ところへ三浦之助が手負ながらも戦場から帰還。甲斐甲斐しい時姫の様子に、しかし三浦之助は心を許さない。
時姫を取り戻しに来た使者に、長門を手にかけて戻るように伝えられるが、時姫は自害を選ぶ……。
きちんとしたあらすじはこちら。
寝っ……寝た……初めて寝てしまった……。
祇園祭礼信仰記をやっていたときに、女方の大役のひとつがこの「鎌倉三代記」の時姫、というのを聞いていたため、見たかったのだけれども、なんとまさかの劇場で眠る鳩になってしまいました……。。。寝……。。。。。。
こうなんか、台詞を交互に言うというか、あのテンポ感が眠りを誘いました。松浦の太鼓2時間→休憩→鎌倉三代記2時間、という時間配分もあったかも。あと厚着して行ったら暑かった。歌舞伎座ってかなり良い感じに空調効いてますよね、いつも思うんだけど。
敵方の大将の娘が自分のことを好きになってくれて、沿うてくれと言うまでだからと言って、己と沿うことを条件に父親殺しをさせようとするの、それはさすがにあんまりじゃない? この場面ではその約束を取り付けるまでで終わるのだけど、これこの後どうすんの……と眠い目ながら思いました。
その男も這々の体だし、父親殺しをしてその上旦那まで死なれたらもう時姫には帰る場所も何もないじゃん、それを操として死ぬのが庭訓ですか? そんなのあまりに身勝手というか、卑怯では…………。時代の倫理観とすれば、それが美談なんだろうか……。
そのほか細かいこと
・各々が台詞を言いながら、義太夫と掛け合うのが面白かった。
鳩がよく己の小説で
「(台詞)」台詞
という書き方をするのだけれども、このテンポ感がまさにこの上記の表記と合っていた。ちなみに鳩の小説に頻出するこの表記法、読者に伝わっているのかは不明(伝わっていない気もする)。
・いろんな人が井戸から出てくる。万能井戸。
顔見世季花姿繪
華やかな舞踊三題
春調娘七種
十郎のなよやかな振りと、五郎の力強い振り、静御前のしなやかな振りの違いが見ていて面白かった。
・静御前の人、お顔が小さくて現代的な可愛らしい雰囲気があった。
・実際には関わりのないだろう曽我兄弟と静御前を、時代感のみで並べちゃうところ、嫌いではない。
三社祭
もう少し詳しい演目案内はこちら。
小気味良いダイナミックな踊りで、見ていて楽しかった。小道具をぽんぽん投げるし、それを逸らさない演者も、ちゃんと受け取る黒子さんもすごい。
「善」「悪」のお面をつけて踊るのは、前衛的に見えるけど、初演当時はどういう位置付けだったんだろう。
舞台中央の迫りのところの舟に乗って出てきて、また同じ舟に乗って帰っていくので、どことなく宮崎空港の時計が思い起こされた。動きを止めて出入りするのがまたそれっぽい。
教草吉原雀
鳥売りの男実は雀の精:中村又五郎
鳥刺し実は鷹狩の侍:中村歌昇
鳥売りの女実は雀の精:片岡孝太郎
鳥売り、実は雀!は発想が面白いと思ったけど、鳥売りというと雀を売ってるものだったのかな?
衣装がたくさん変わっていくのが華やかで見応えがあった(ぶっかえりがちょっと引っかかって、もたっとしたのを初めて見た)。
鳥刺し、字面と、鳥を捕る人、ということはわかっていたのだけれども、ほんとうに竿の先に餅をくっつけて鳥をとるという方法を取っていたのか……。なにか比喩的な名称なのかと思っていた。すごい技術がいりそう。
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