【映画鳩】関心領域【感想】
予告の時点から、絵作りはスタイリッシュなものの悪趣味だなあと思っており、その印象は覆ることはなかった。それ以上でも、それ以下でもない。悪趣味極まるけれども、それを突きつけられるように見る映画です。
(注:以下ネタバレあります)
アウシュビッツ強制収容所の真隣に住んでいた、ドイツ人将校家族の視点で流れていく話です。ただずっと、その家族の生活が映し出されていくのみ。ほんとうに普段の生活、父は仕事に行き、母は家のことをやったり子どもたちを学校に送り出したり。父子連れ立って川に遊びに行ったり、家族でホームパーティーをしたりもします。
ただずっとその背後で、不穏な音が聞こえてくる。人の足音のような音、苦悶のような声、銃声、怒鳴り声。背景では列車が行き過ぎ、焼却炉から煙が絶えず溢れ、川には人骨と灰が流れてくる。これは鳩は浅学のため読み取れていなかったのですが、収容所に入所させられる際に強奪した品物を、品定めする場面もあります(つまり何気ない日常に当然のようにそれが組み込まれているのですね)。
子どもたちのうちのひとりだけが、この周囲の状況に不安感があるような素振りを見せますが、その他の人々は、その状況が当然のごとく生活しており、何も気にしていません。もしかして本当に、収容所内がどれだけ苛烈なことになっているのか、想像もつかないのかもしれないけれど、そこで人が殺されていることは大人ならば全員分かっているはずなのに。
その家で暮らす子どもが無意識に、どこからか聞こえてくる何かしらの苦悶の音を声真似したりするほどに近いのに、母親はそんな場所を天国と信じてやまない残酷さ。川遊びをしていて付着した人骨と灰を穢れのように扱うことはするのに、それでもその家を子育てに最適な環境と思う、その神経が本当に分からなかった。
物語の中盤、母親の母(子どもたちから見れば祖母)がこの家を訪れ、長期滞在の予定だったのに、滞在数日でその環境に耐えきれずに黙って帰ってしまいます。
その置き手紙を読んだ母が不機嫌になるのは、結局のところ本当はその場所があまりに悍ましい場所だということを、心のどこかでは分かっているからではないのでしょうか。
そしてその感覚と心情こそがタイトルの「関心領域」なのでしょう。関心のある領域を自ら決めてしまって、信じている。関心がないと決めたことに関しては何をどうしても信じないし、見ることをしない。見事なタイトルですね。そしてこれが画面の絵作りにも反映されています。関心のないものはほとんど映らない。画面としてはスタイリッシュに見えるのが皮肉です。
本編は静かに淡々と日常生活を覗き見ているだけというような構成なので、正直集中力も切れるし、飽きもします。でもきっとそこで飽きるのが、良くないことだと突きつけてくるようでした。関心の幅を狭めてはいけない。見ないふりをしてはいけない……。
また、ほぼ何の説明もないため、観客の知識量を試されている感じもあります。観客の持っている知識を信頼していると言ってもいい。焼却炉で燃やされる"荷"が何なのか、何度も横切っていく蒸気機関車は何を運んでいるのか。知らなければ分からない。"カナダ"や、りんごを置く少女のことは鳩は知りませんでしたから、後から調べて知ったわけですが、この自発的に調べる、調べさせるように仕向ける(そして正しく歴史を知る)、ということもこの映画の趣旨のひとつだったのかもしれないと、後になって思いました。
内容は本当に重たい。でも見てみるのには良い映画だと思います。きっとどこか配信に入っているでしょうから、どうぞ、己の関心領域を客観視してみて。内容は内容ですが、映画自体の絵作りとしてはスタイリッシュで美しいですよ。
追記:配信には入っていないようですが、まだ上映している館があるようです。