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礼文島、北の果ての岬にて


2024年9月21日(土)

礼文島最北端の岬、スコトン岬へと向かう。
以前はここが日本最北端とされていた時期もあるみたいだけど、測量の結果、宗谷岬の方が北だと分かったらしい。
ちなみに、宗谷岬の更に先に弁天島という無人島があって、厳密にはそこが最北端だそう。

スコトン岬へ向かうバスは、島の東側の海沿いに続く道路をひたすら北へと向かって走っていく。
南の端の方にあるフェリーターミナルのバス停からは1時間程。
西側は海のそばまで迫る山、丘陵、そして断崖絶壁が続いていて、車が走れる道路は無い。
一方、バスの走れる道路が整備された東側の道路沿いには結構な頻度で小さい漁港がある。
利尻島は少ししか見れていないけど、利尻島の方が人の手の加わっていない自然海岸が多くて、礼文島の方が漁港が多い印象を受ける。
利尻島はどこか一部に固まっていたりするんだろうか?
そして、礼文富士がドッシリと中央に構える利尻島に対して、礼文島は小さな山と丘陵の起伏が連続する複雑な地形をしている。
調べてみると、利尻島と礼文島の地質に関する情報はいっぱい出てくる。
礼文島は海底への堆積と海底火山の活動によって出来た地形が隆起した島だそうで、約2万年前の最終氷期の時の氷河の働きで、高山のように、起伏がなだらかに連続する地形になっているらしい。
それに加えて、気温が低く、強風で丈の高い草が生えづらい等、いくつもの条件が重なって、礼文島にはレブンアツモリソウのような礼文島でしか見られない種も含め、多様な高山植物が繁栄しているとか。
そんな高山植物たちに彩られる礼文島は「花の浮島」と呼ばれている。

どこまでも広がる空と海に囲まれ、山と丘陵が連なる様はまるでどこか違う国のよう。
日本にこんな場所があったのか、と思う。
どこか違う国と言ったけど、もしかしたらどこの国にもこんな場所はなくて、どこか違う世界みたいと言った方が正確かもしれない。

宿泊した「民宿スコトン岬」は、そんな礼文島の本当に北の端っこの、崖を下った海のそばにある。
大波が来たら宿全体が波をかぶりそうなぐらい海に近くてびっくりした。
部屋の窓から外をのぞくと、すぐ海だ。
部屋の中にいても波の音が聞こえる。
こんな所に建つ宿があるなんて。
本当に驚かされることばかりだ。

最寄りのスーパーまでは、徒歩で1時間半はかかる。
食材はあらかじめ買ってくるか、宿と同じく岬にあって同じ会社が運営している売店で買っておくしかない。
あまりにも人里離れているので、夜になると、なんだか金田一少年の事件簿とかコナンみたいな、ミステリーものの事件を思い出してなんだか不安になった。

礼文島の天気は変わりやすいらしい。
散策をしていると、突然の雨に打たれる。
ひたすら自然で、しかもひたすら丈の低い草が生えているだけなので、雨宿り出来る建物も木も無い。
幸い、そんなに大雨にはならず、しばらくするとまた晴れてきた。
これも良い想い出となる。

以前NHKで、礼文島の鮑古丹(あわびこたん)という集落に一人暮らす(一人暮らしというだけでなく、本当に集落に一人しかいない)、漁師で詩人の浜下福蔵さんのドキュメンタリー(https://www.nhk.jp/p/ts/P7Y318V769/)を放送していた。
こんな人がいるのかと驚いたので、以来、浜下さんのことをずっと覚えていた。
たまたま散策していたコースの近くに鮑古丹があったので寄ってみる(写真は鮑古丹を見下ろす図。対岸の辺りが鮑古丹らしい)。
一件だけある民家。
ここで浜下さんはずっと一人、漁をして詩を書いていたのか。
人がいないので当然お店も無く、本当に何も無い。
海しか無い。
番組で、「一人は寂しい」と涙を流していたけど、東京に暮らす僕からすると、本当に想像を絶するぐらい寂しい場所だ。
しかも、厳しい。
晴れている時は美しくて良い場所だなぁと呑気に思っていたけど、急変する天気に直面して、その厳しさを味わった。
これが冬だったらどんなにつらいことだろうか。
しかし、90歳を過ぎても一人生き、じぶんなりの生き方を全うするあの生き様、生きる力は、こういう場所だからこそ育まれたものなのかもしれない。
自分のぬるさを感じる。
自分が生きていく上で、何度も思い出すであろう出来事だった。

樺太の方に沈んでいく夕日を見る。
圧倒的なスケール。
明日は秋分の日。
昔から、人が太陽の力に特別な思いを抱いていた、この昼と夜が同じ長さになるタイミングで、この太陽を見るという運命。
全身に夕日を浴びて、何かの力をもらったような不思議な感覚になる。

夕食は自炊なので、礼文島で穫れたホッケの干物とちゃんちゃん焼きを作って食べた。
美味しい。
東京で食べるホッケと全然違うなぁ・・・。

夜も深まり、月が上る。
中秋の名月から少し欠けた月。
波打ち際まで行って、波音を聞きながら、打ち寄せる波と月を見て、そして眠った。

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