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【声劇台本】暗涙
暗涙(あんるい)
リカ:暗闇。
リカ:それは、毎日真夜中にやってくる。
リカ:もっとも、自分で作るのは、大して難しくはない。
リカ:部屋の電気を消すだけ。
リカ:ただそれだけで、漆黒があっちから来てくれる。
リカ:こんばんわーってね。
リカ:最近は、ずっとこんな感じ。
リカ:なんでかって?
リカ:自分の泣き顔を、みなくて済むから。
リカ:明るい部屋で、人知れず泣くのはいいけれど……
リカ:ふとした瞬間に鏡を見ると、なんだかやるせなくなってしまう。
リカ:なんでこんなさ……顔がぐちゃぐちゃになるまで泣いてさ……
リカ:それでも頑張らなきゃいけないんだろう……
リカ:ついそんなことを考えて、
リカ:それこそもう、なんにもできなくなってしまう。
リカ:だから、その顔を見ないために、あえて、闇に来てもらうの。
リカ:常闇は、なにもかもを、やさしく包み込んでくれる。
リカ:あたしの虚無感も
リカ:グロテスクな顔も
リカ:ゴミ屋敷みたいな部屋の全貌も
リカ:ぜんぶぜーんぶ、みえなくしてくれる。
リカ:もちろん、ホントに消えてくれるわけじゃない。
リカ:ただ、ほんの少しだけ、すべてを忘れさせてくれる。
リカ:それが、どれだけ心地の良いことか……
リカ:わかってる。
リカ:こんな瞬間が、いつまでも続いてはくれない。
リカ:数時間で闇は消え去ってしまう。
リカ:ほんの少ししか、いっしょにいることができない。
リカ:だからこそ、もう……
リカ:その時に、ひたすら涙を流すしかない。
リカ:昔はよかった。
リカ:ツラければツラいって言えばよかった。
リカ:それで、なんとかなった。
リカ:でも、そんなのは過去の虚像。
リカ:今はそんなに上手くいってくれない。
リカ:少しネガティブなことを口に出すだけで、心無い言葉が返ってくる。
リカ:甘えるな
リカ:他の人は、もっと努力している
リカ:そんなんじゃこの先、どこでもやっていけない
リカ:ほんの少しだけ、本当のことを言っただけなのに……。
リカ:そんなことすらも、許してもらえないらしい。
リカ:ましてや、人の前でなんて、涙を流すこともできない。
リカ:そんなことしたら、腫れモノ扱い。
リカ:いっそのこと、全部を吐き出せたら、どれだけ楽なことか……。
リカ:学校では、こんなこと、教えてくれない。
リカ:異文化理解とか、多文化共生とか、それっぽい単語を覚えさせられたけど、そんなのは、全部嘘だし、ムリ。
リカ:だって、同じ日本人同士でも、こんなに理解してもらえないのに……
リカ:そんなの、できると思ってるの?
リカ:ならさぁ……
リカ:私のこと、もっと見てよ……。
リカ:ほんの少しでいいからさぁ……耳を傾けてよ……。
リカ:こんなこと、ここでしかいえない。
リカ:誰もいない部屋で、真っ暗な空間に向かってボソボソつぶやく。
リカ:そんなことしか、私にはできない。
リカ:毎晩こんな、よくわからないことをして、気が付くと朝が来ている。
リカ:憎たらしい。
リカ:あんたなんてキライよ……
リカ:こうして、今日も私は、暗闇で1人、目から水をこぼしている。
リカ:こんな生活、いつまで続くのかなぁ……。