
ヤラセ番組の汚名をすすげ!クレイジージャーニーVS「酒を主食とする人々」
高野秀行「酒を主食とする人々」を読みました。
この人の本は全部いい。
「面白い」と「人生観変わるほど面白い」と「ある意味おもしろい」の3種類しかないので、全部買ってもいい。
今作ではテレビ番組「クレイジージャーニー」のスタッフとともに、エチオピアの「酒飲み民族」を探す。
子どもも妊婦も、酒ばかり飲んでいるのに健康的にすごしているという、特殊なのに今どきネットの情報が全く出てこない民だ。
旅の目的は、謎の民族と接触して、酒ばかり飲む生活を体験すること。
そして、厳しい時間と予算内で番組を成立させること。
これが重要。
なぜなら「クレイジージャーニー」はいちどヤラセで終了している。
希少動物を見つける旅で、一部の動物を事前に用意していた。
ほかの危険地帯ロケを命がけでやっていたのに、本気で取り組んでいた研究者たちにも迷惑をかけてしまった。
だから、絶対ウソをつかずに見ごたえのある映像を撮らないといけない。
スタッフひとりだと誘惑に負ける可能性があるから、ヤラセ以降はもう一人のスタッフが同行することになったそうだ。
いっぽう、作者の高野さんの原点も、過剰な演出で「ヤラセ番組」の代名詞になった「水曜スペシャル」だったはず。
探検隊が未知の部族や生物を探していたら、落石や原住民が攻めてくる、といった演出を信じて、高野さんは「あれヤラセだぞ」と言われながらも「ヤラセの中の真実」を探してジャングルの奥地に行ったのだ。
演出やヤラセはあっても、100パー創作じゃなければ、その元になった話はあるだろうと。
その人が、なんの因果か現代の「ヤラセ番組」になってしまったクレイジージャーニーの企画で、まだ見ぬ真実を求めて旅をする側になった。
資金を出してもらう以上、「何もなし」では済まされないし、もちろん再度のヤラセも許されない。
高野さん一行はエチオピアの「酒のみ民族」の村にたどり着く。
しかし、受け入れ側も、先進国が求めている「アフリカらしさ」がわかっているから、ポリタンクの代わりに土器を使い、地元のひととは違う快適な住居を用意しているなど、真実の生活を見せてくれないのだ。
ヤラセ番組とヤラセ村のだまし合いみたいになった取材。
番組スタッフ一行は「演出」を見抜いて、村人の「ホント」に踏み込めるのか。
読みながら、ネッシーの写真や、捕まった宇宙人の写真や、ノストラダムスの大予言の周辺のことを思い出した。
UMAや新発見は、やらせ、演出、誤解と表裏一体だ。
高野さんは、古代アフリカの風情が残る暮らしを紹介されて、さいしょのうちはなんて素敵なところだと思っていたが、しだいに違和感を覚える。家族がよそよそしいし、水をくむところを見せてくれない。
異変を探すゲーム「8番出口」みたいに「8番エチオピア」のとんでもない異変を見抜いた高野さん。残り少ない日程で、あわてて滞在先の変更を申し出る。
エチオピアの名誉のために言っとくが、彼らのウソに悪意はない。
日本人でも、外国人に浴衣を着せてスシ食って喜んでくれると嬉しい。
海外の取材陣に「ふだんの生活を見せて」と言われて、ほんとにすっぴんでカップ麺食って昼寝できる奴はやばいだろう。
善意とマジメさが嘘を生み出すことがある。
テレビ放送は無事に終わったがでは、面白いけど本筋とはなれたところや、説明がいるところはばっさりカットするしかない。
アフリカ食生活を知りたいのにアレルギーが見つかって、珍しい食べ物で七転八倒したり、受け入れ先の少女との交流があったり、番組には入りきらない、細かいおもしろエピソードがたくさんある。
「ひょうたんで酒を飲むと、両手で持って、視線が上がって空が見える」
というのが、細かいけど実際に体験した人ならではで、好きだ。
いいなと思ったら応援しよう!
