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【マンガ】永田カビ「これはゆがんだ食レポです」

オビにもある通り「過食嘔吐と付き合い続けて」生きている永田カビさんのグルメ漫画。

「付き合っている」がポイント。
「戦っている」ではない。

20代末に拒食症から一転して過食になり、現在は治療もカウンセリングも一旦通り越し、24時間飲酒からの入院&一生禁酒とかも通り越し、過食嘔吐しつつも生活していけるようになっているそうだ。

昔の作品は、一回脳に過食のスイッチが入ってしまうと、インスタントラーメンを熱湯につける時間もないから、そのまま食べて麺が口にささって血に染まるっていう、その状況になった人でないと描けない名場面があった。

その時期にくらべたら、今回は、菓子パンにマーガリンを容器から直に塗って、パンよりマーガリンの体積が大きくなるとか、いたって正常な食を楽しんでいる。

ぼくは永田カビ作品が出るたび欠かさず読んでいる。

デビュー作では人生すべてに苦しめられていた。
食事を楽しむなんて考えられない。
自分はものを食べる資格がない。
ケーキを食べたらバチが当たる。と、カビさん本人にも意味のわからない自分ルールに縛られていた。

今作は食っても吐いても、「死にたい」という言葉は出てこない。
酔って側溝に吐いたりしてるけど、今までの作品に比べて離れたところから自分を観察していて、明るく読める。

こんな人に「グルメ」をテーマに依頼した出版社もすごいし、しっかり永田さんもこたえている。

まず、いいのが、製品名をちゃんと出す。
「このメーカーが柔らかくて吐きやすい」と出してくる。

汁を吸ったやわらかい食べ物が好きで、お湯を入れてじっくり熟成させて完全にのびきってふやけたカップ麺が「美味しいもの」として出てくる。

集まって食事するのが苦手だから、ひとりで冷凍食品パック全部食ったりする。
誰よりも孤独なグルメだし、文句なくドカ食い大好きだ。

夏の過食嘔吐は食うのも吐くのも暑いとか、全くわからない「あるある」がたくさん出てくる。
それが、作者の身近な話をこっそり聞かせてくれたみたいで嬉しい。
異世界食堂よりも「異」な食堂はわりと近くにあった。


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南ミツヒロ
読んでくれてありがとうございます。 これを書いている2020年6月13日の南光裕からお礼を言います。