【読書記録】高野秀行「幻のアフリカ納豆を追え!」
危険な本だ!
ここには旅がある。出会いがある。
世界中の人が、家にこもっての生活に慣れてきたというのに。外の世界に出る驚きと喜びを思いださせようとしている。
「幻のアフリカ納豆を追え!」は、海外にも納豆があることを知った作者が、韓国とアフリカの納豆世界を探る一冊。
まずは韓国納豆「チョングッチャン」。
これまでどこの地域も
「うちの納豆が一番うまい」
と手前納豆精神を押し出してきたのに、韓国人は納豆に思い入れがない。
ソウルフードは納豆ではなく味噌と口を揃えるし、日本人も「日本にしか納豆はない」と思い込んでいた。
納豆にうるさい人を探して北上し、ついにブランド豆というべき高価な豆と納豆が見つかる。
人が少なくて汚染されてない、自然豊かな地域でとれた豆。
北朝鮮との国境に近いDMZ(非武装地帯)で栽培された豆だった。
アフリカでは、納豆を作っている地域が、アルカイダとかイスラム原理主義者とかの活動地域にガッツリ重なっている。
立ち寄るだけなら大丈夫な国でも、外国人が滞在していることが知れ渡るとまずい。
納豆を発酵させる過程をイチから取材するとなると、時間制限はかなり厳しくなる。
アフリカの辺境では大豆やコメが、すりつぶす作業の要らない「時短食材」として広まっていた。
文献には、大豆以前からアフリカを象徴する木「バオバブ」を使った納豆があるというが、存在を知るものも見つからない。
あやしい外人として秘密警察?にマークされ、
「納豆の取材に来た」と正直に答えるたびに爆笑されながら、長年の経験をもとに道を切り開いていく。
高野秀行の本は、研究の前に、旅がある。
韓国では、調子が悪いからそっとしてほしいのに、かわいい女の人が薬と水を持って押しかける展開に、「韓流ドラマか?」と笑い、
アフリカでは昼間から酒ばかり飲んでいるグループと意気投合したり、地元の「王」に「大豆など使うと味が落ちる」と言われたり、
苦労話は書いてないだけとしても、驚きと笑いと発見と別れの連続。
引きこもりに分類される自分でも、心の奥がうずくのだ。この人の人生は楽しそう、死ぬときに後悔なさそうだなあと。
前作「謎のアジア納豆」では、日本以外にも納豆があること自体が大発見として書かれていた。
今作では、世界中で多くの人が納豆を自宅でこしらえていることにいちいち驚かない。
しかし、冷静に考えるとすごい。
世界各国のひとが、豆と植物を接触させてちょうどいい温度にして、わざわざ臭くして食っている。
韓国納豆も調べるほど歴史が深くて、秀吉が朝鮮出兵をしたときは両軍とも納豆汁を食べていたかもしれない、とある。
憎しみ争う者どうしが、自分たちだけが食べていると思っていたものが、じつは同じだった。
戦国時代の日本人から見た韓国人、ましてやアフリカ人なんて、共通点があるなんて思ってない、お互いに宇宙人みたいな奴と思っていたのではないか。
しかし納豆目線で見ると日本人も韓国人もアフリカ人も、昔から葉っぱで包んで粘り気を持たせて食べてきた連中だ。
お互いに知らないだけで、同じようなものを口にして、すぐに笑いあい、打ち解け合うことができる。
納豆から見れば人はみな同じだ。