見出し画像

アメリカの価値観 VS アジアの神秘「世界しあわせ紀行」

久しぶりのテレビで「外国人の日本褒め」を浴びて気持ち悪かったけど、これを読んだら治った。
世界の人の大半は、外国人の評価がなくても、なにが誇りでなにが欠点か自分で決めるし、そもそも他人を気にしない。

これは、日本にも住んでいた鉄火巻き好きのアメリカ人記者が、「しあわせ」とされている国をめぐり、しあわせ迷路に迷い込む一冊だ。

読むだけでふつうに驚けるし、実際に旅行する100分の1かもしれないけど、ちゃんとカルチャー・ショックを受ける。

最近まで現代文明と無縁だったブータンでは、
ホテルの支配人が「夫はダライ・ラマの弟なんです」と言い出す。
「ダライ・ラマに兄弟がいたなんて」
「いいえ、前世の話です。夫はチベットの高僧の12番目の弟子なのです」
生きているときの話と死んでからの生き方がつながっている。

ブータンはアメリカ人にとって「天地がひっくりかえったような国」という表現が面白い。13が幸福な数字で、人が来たときに「バイバイ」と迎えて、マリファナはブタの餌になる。

読んだら絶対気になってしまう国はアイスランドだ。
ここに来た作者は初日から憂鬱になる。
この国は太陽がない。
ほとんど太陽が昇らない季節があって、夏にしても「極寒が多少やわらぐ季節」という認識の、氷と闇の国。

街を観察すると、闇のなかでみんな酒を飲んでいる。よく聞くが北欧は物価が高いので、家でほろ酔いになってからバーで本格的に飲む。
調査だと、ここの国民は幸福度が高いと答えたらしいが、ウソだろ? だんだん幸福度調査そのものに疑いが出てくる。

だけど、滞在してみてみないとわからないことがある。
アイスランドは愉快な国ではないけど、書物とチェスを愛し、暗さゆえに発展した文化がある。
ミュージシャンの「ビョーク」とか、人口の割にクリエイターが多い。ことばを大事にする国で、人々は詩のような会話をする。
バイキングの末裔である文化を誇り、着こなしのセンスが良く、「本のない旅をするぐらいなら裸足のほうがマシ」ということわざがある「かっこいい陰キャの国」だった。

すべての問題を笑顔で片づけてしまう国、タイで作者はダメになりかける。
タイ人は、きちんと追及しないといけない問題があっても、とりあえず大丈夫「マイ・ペン・ライ(気にしない)」で終わらせてしまう。
ドンマイより使い勝手がよく、おおらかで、生活していると頻出するマイペンライ。
この思想があまりに快適で、ゲーミング着る毛布みたいに人がダメになる国。
タイ人は良くも悪くも物事を深く考えない。幸福を追求することは幸福にならないのでは…と本の存在意義が揺れる。

何度も「アメリカの価値観VSアジアの神秘」が出会い、観察して、接触する。スリリングだ。多様性だ。
世界旅行ものを読むと、自分の眼があたらしくなる。身近なものを改めて見て「これはどこにでも当たり前にあるものじゃない、ありがたいものだ」と気づいたりする。

インドでは生まれ変わりを説かれても、すぐに受け止められない。
だけど、金と物だけで幸福になれるとも思っていないから、とりあえず話を聞く。瞑想もきちんとやる。
「こんなことで本当に幸福があるわけが・・・」と文句言いながらもやる。
毒舌キャラだったのに、たしかにやらないより幸せな気になってしまう。

幸福に慣れた体をいったんリセットするため、「不幸な国代表」モルドバという国にも寄る。
そこは、たくさん国に侵略され、生活は厳しく、文化がない。
自分たちの歴史や音楽や文学がない。マクドナルドは恵まれた人しか行けず、汚職まみれで警官も政治も隣人も信用できない。
世界で一番愛想の悪いウエイトレスがいるカフェ。
「昨日あずけたばかりなのになぜですか」と繰り返すだけで、自分の金がおろせない銀行。
そして、自分たちの力ではこの国を変えられないと、あきらめきった人たちの顔。
こんな国に、ニューヨークタイムズで記事を書いたこともある、ブラックジョークと皮肉のプロが送り込まれるとどうなるか。
「国の悪口ってこんなに書いていいんだ…」
ってぐらい正直に、この国がどれだけしんどいか書き出して、住人の本音に近づいていく。
本書がアメリカでベストセラーになったのは10年以上前。ウクライナに近いこの国はどうなっているのか。

この本のなかでは、訪れたさきざきで
「1から10までで、自分の幸福度を教えてください」
と、数字で出してもらう。つい自分もやりたくなる。たとえば3点とか低得点でも、その3の幸せは何があるから3点なのですか、と、さらなる考えにつながるおもしろい質問だ。


いいなと思ったら応援しよう!

南ミツヒロ
読んでくれてありがとうございます。 これを書いている2020年6月13日の南光裕からお礼を言います。

この記事が参加している募集