【直木賞】人生の分岐点「しろがねの葉」
「これはこういう話です」と簡単に語らせてくれない厚みのある!(物理的な意味じゃなくて)
石見の銀山とそれにかかわる女性の一生の話。
女の人生の話、といえそう。現在に通じる女性の生きづらさの物語、といえばまとまりそうだけど、それだけではもったいない。
富と病を生み出す銀山があって、主人公の女の子ウメは生まれつき夜目がきき、暗闇を恐れない才能がある。
銀山の闇の恐ろしさ、万病に効くが達人にしか掘り出せない秘薬など、時代小説だけどファンタジー要素もある気がする。
しかし、昔の人は生活の周りに妖怪や悪霊が身近にいるものとして生きていたのだから、「リアル」に昔の人の感性で時代小説を描くと「ファンタジー」になるのかもしれない。時代劇とはファンタジー。
女という理由で働かせてくれないウメに、
「なるほど、これは男社会である銀山でウメが見くびられつつ才能を生かして働く話なんだ」
と思ったら銀山に深入りさせてくれないまま話はすすむ。
つらい女の人生。男もつらい。自分たちが追いつめていることに気づいていない。男衆は銀山で銀を掘ることが「男」の証明であって、何か悪いもの吸って早死にしてるのに、次々と屈強な体を見せびらかして病に倒れ、女にひざまくらされて、おっぱいに吸い付いて、苦しい咳をして死んでいく。
狭い世界の話で、ウメから見た故郷と銀山で栄えた町しか出てこない。
この住人にとってそれが世界のすべて。
だけど、一回だけ中盤で海に行く場面があって、どう生きていくのか決めていいよってはっきり問われる場面がある。
ウメは迷わず銀山に戻るんだけど、読者から見れば「そこ」の答えひとつ、行動がひとつ違っていたら、想像もつかない海外にだって行けたかもしれない。明らかに人生の大きな分岐点だったことに読者しか気づかず、狭い世界での生活を続けていく。それがなんだか切なかった。