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【ゲームレビュー】パニック障害になった人が「セレステ」をクリアした

うつ、パニック障害を抱えた主人公マデリンが何百回もリトライして山を登るゲーム「セレステ」。
今さらクリアして、あまりにこのゲームが美しく面白く、夜通しやったせいで指も肩も激痛を抱えてるってのにレビューを書いている。
なぜなら私もパニック障害経験者で、症状は出てないものの薬を常に持つ身。レビューしない手はないのです。山はいいぞ!すがすがしい疲労!今ならXBOXゲームパスでも遊べる!PS5PRO買わないのに高いとか文句言うヒマがあればセレステ山に登れ!しっくりくる方向キーは必須!

私がマデリンと同じくメンタルに不調をきたしたのは、高校受験前。純粋だったから余計なことを考えすぎていきなり脳が爆発した。(どんな本を読んでもしっくりする表現がない)

たぶん一生、映画で描かれるように、閉じ込められたりストレスで神経が誤動作を起こしたら倒れる。自分の場合は薬がきいてくるまで30分、走ったりしてできるだけ余計なことを考えないようにするしかない。また、寝て意識をオフにすれば、フリーズしたパソコンを再起動したように快調になる。

それまでメンタルのトラブルは想像もできなかったけど、「うつ」のほうに遭遇した人の症状を想像できるし、勝手に戦友のように思うようになった。
長年病気と付き合うと、相手の「クセ」というか発動条件がわかってくる。今では、病気というべきかもわからない。「ハゲ」「長身」「早起き」「アニメ好き」ぐらい、自分を構成する要素でしかない。YouTubeのサムネに呼び込み文句として「発狂」「精神崩壊」って書けてしまう人は見下している。

CELESTE(セレステ)というゲームは、ジャンプで穴を越え、トゲを避けて、何度も短いスパンで落ちてはリトライを繰り返す「覚えゲー」あるいは「死にゲー」。
マデリンは、うつとパニック障害をかかえて、なぜかセレステ山に挑む。何百回も谷に落ちながら、それはまるで苦にしてないようで、山中にある鏡に現れる「もうひとりの自分のような存在」とだけ戦う。

この設定が不思議で、唯一無二なのだ。

パニック障害やうつ病の回復のために良い運動は、朝のさんぽとかだ。宇宙飛行士のテストとかでも、暗い部屋にずっと閉じ込めて耐性のあるひと以外ははじかれる。
「心が弱いやつは雪山に登れ」とか、ショック療法を勧める医者はいない。「骨折した足でキックの練習をしたら強くなれる」ぐらい、わからない。

それでもマデリンとプレイヤーは、何かを目指して山頂を目指す。
クリアしたら何かもらえるわけでもないのに山頂を目指す。「たぶん私は何かをなしとげたい」という言葉が、おかしいとも思わない。

ゲームで、はっきりしたゴールがないのがおもしろい。
ドット絵しかないファミコン時代なら「山頂の魔王に恋人をさらわれた」なんて定番設定でも許されたし、
「主人公は片足を失っているが、義足の機能で二段ジャンプができる」
「山頂に行けば神秘の力で願いがかなう」
なんて
設定のほうが、子供でもわかりやすくなる。
なのに、主人公の抱える問題を、精神面においた。ゲーム中に閉所に閉じ込められて深呼吸する場面まである。
ここに、作者の強いこだわりを感じる。

そして、実際に主人公と同じパニック障害を経験した私が「セレステ」をクリアした今思うのは、これはセラピーだ。
うつやパニック障害の深みにはまらないためには、病気のことを考えないようにしないといけない。
だが「考えないように」と意識することで考えてしまう。

セレステは、「ながらプレイ」を許さない。
耳も手も視覚も全部集中させて、思わず体ごと動いてジャンプで崖を越え、落ちる床から二段ジャンプで壁に張り付く! そこに迫る壁を素早く確認してよけて、壁を蹴り、蹴り、登り、アイテムを回収してとどめとばかりに迫るトゲをギリギリで突破!
そのとき、余計なことは頭の中から追い出される。
ゲームとプレイヤーの純粋なガチンコ対決がそこにある。
考えなくていいことを一旦忘れて目の前のものに集中する訓練にもなる。

うつの回復を遅れさせるのは、将来を気に病むことだ。
(このまま治らないかもしれない)と考えるのをやめて、目の前の好きなものに集中すればいいんだけど、たとえば騒音がすごいのに、出されたケーキがおいしくて全く気にならなかったという人間は存在しない。

セレステは目の前のケーキに集中させる環境を作り出す。トゲだらけの山をドット単位でクリアしてる最中に、将来のトゲを心配する余裕はない。
ゲームに真っ向勝負しながら、なぜかセラピーを受けているような気がした。

道中には、主人公のダークサイドを実体化する鏡がある。
離れたくても付きまとう自分というのは「鬱」もしくはネガティブな感情の擬人化だ。
基本的に、メンタル系の症状は元には戻らない。消えたり現れたりする自分の中の同居人とずっといっしょに生きていかないといけない。
ネガティブな自分をやっつけるのではなく対話することで、ゲーム的にわかりやすくジャンプ力が増える。ずっと付き合うしかないネガティブな自分と対話することで、ひとりでは行けなかった山頂に手がとどく。


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南ミツヒロ
読んでくれてありがとうございます。 これを書いている2020年6月13日の南光裕からお礼を言います。

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