【ノンフィクション】特攻服少女と1825日
「コギャル」「ヤンキー」は何となく想像できるけど、女の不良「スケバン」女だけの暴走族「レディース」がいて、彼女らの専門誌が何万部と売れ、本物のヤンキーたちが修学旅行でディズニーランドに行った帰りに編集部に来て、紙面で総長が「半端にやるぐらいなら学校行きな」と不良をさとす。
こんな時代があったのか!の連続。
少年院から出所してすぐにかつての仲間からリンチにあった、ある少女の事件をきっかけに、レディース向け雑誌「ティーンズロード」を立ち上げた編集者が当時を語る。
当時の出版社の内部と、独自の掟を作って抗争していた集団の内部事情。
あまりにも知らない話ばかり。すぐそこにあった異世界物語で、ついつい読みふけってしまう。
特攻服に「天下統一」とか刺繍した十代の女性がケンカして、負けたほうは裸にされて土下座させられ、何万もする特攻服を焼かれる。
髪を茶色にしたら駅でヤンキーの少年が駆けつけてきて、黒に戻すか自分らの仲間に入るか選ばされる。
コンプライアンスにうるさい今の社会は窮屈で、昔は自由だったと聞いたんですが。なんですかこの、学校からはずれた人たちが校則より理不尽なルールを作ってく感じは。
そんな無茶なオキテを作って生きる彼女らに、語り手の編集者もだんだん共感してしまう。
彼自身も、雑誌作りにかかわりたいのに、学歴を理由に門前払いされた過去があったからだ。SMの雑誌を手掛けていた会社になんとか拾われて、アングラ系の雑誌にかかわって、ときにはスタッフが危険な目にあったりしながらも雑誌を作ってきた。いびつでも、文化を作ってきた。
「確かに俺たちは真っ当じゃないけど、100パーセント正しいような顔してんじゃねえ」と胸に抱えてるんじゃないか。
「ティーンズロード」の表紙はわざとドン・キホーテの店内のように派手にして、紙面は家族や進路の相談など意外とまじめな読み物も多くして、グラビアを撮影するために全国各地に駆けつける。場所によっては、事件さえ起こさなければ警察も黙認して撮影させてくれることもあった。
そのレディース文化が、コギャルにあっという間に塗り返されるのが衝撃だ。それまでスカートを地面に引きずるぐらい長くしていたのが、極端に短くなって、完全に文化が塗り替えられる。
今でもマンガで「女ヤンキー」と「コギャル」は見るけど、80年代と90年代後半ぐらいで、へだたりがあるイメージだった。地続きになっているのは初めて見た。
売り上げ絶好調で、あたしらを載せろ載せろと全国から電話が殺到していたティーンズロードは、突然、不良少年から「あの雑誌だせえんだよ、絶対のせるな」と言われた。スタイリッシュな誌面にすると不良たちから苦情がくるから、わざとダサくしてきたのに。
それまで変と思っても口に出さなかったのが、みんながはっと「ヤンキーおかしくない?」と言い出して、とたんに終わっていく。
今のアイドル文化とかメイド服とか配信者文化も、新しいカリスマが
「まだやってんの?」
と言い出した瞬間にぱっと消えるのだろう。