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【漫画レビュー】表紙だけで人生!フレデリック・ペーターズ「青い薬」

バンドデシネ(フランス語圏のマンガ)初体験でこの本を選んだのは、あまりにも濃いオレンジの表紙が、ぱっ!と目に飛び込んできたから。

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日本の浮世絵はフランスで人気があったときくが、そのときにフランス人が驚いた紺色のようなオレンジだ。荒れる海にソファーが浮かんでいる。その上でほほ笑むふたり。
この表紙だけでほぼ人生。この本の語っているすべてがこの表紙にある。人生はたいへんだけど、目の前の幸福をみていきたい。遠くのことを考えると不安にもなる。

ソファーの上の男性が主人公で作者だ。子供を連れて離婚寸前の彼女と再会し、結婚する前後のことを描いている。
一般的な結婚と違うのは、彼女と子供はエイズに感染していたこと。

「闘病もの」。たくさんある。
ユニークなのは、息子も陽性だと告げられる「彼女の人生最悪の日」はすでにすぎていて、その人の力になろうとする作者の視点で描かれているところだ。

病名を聞いて言葉を失うところから始まり、じゃあ結婚生活を送るにはどうすればいいか、子供とはどう接すればいいのか、夜はどんなプレイならOKなのか、知ろうとする。
そのときの医者のやりとりが面白い。にたっとした笑顔がなんか怖いんだ。「ようこそ!エイズの世界に」プライベートなことも聞いてくるし「見えないような傷もあるから」ってちんちんを観察してくる。これって普通?と戸惑いながら学んでいく。

夜の行為中に不安なことがあったが、医者は
「あなたが感染する確率は、帰り道で白いサイに遭遇するのと同じくらい低い」
とジョークにする。つまり、ほぼゼロだから心配しなくていいですよ、そんな言い方をした。
でも、ふたりには存在しないはずのサイが見えてしまう。
「ふかん」で見ている人には、道ばたでサイに出会う確率なら安心できる。当事者にとっては、ゼロではない不安が頭から離れない。帰り道にサイが後ろをつけてくる。

後半で作者は、
「この物語のなかで俺が居心地がいいのは、いい役割をもらってるからじゃないか」と自問する。
闘病や貧困、障害やDV、たいへんなことを題材にした番組や本がたくさん作られる。
見てるがわは「同じ状況でも頑張ってる人がいるし」とか、かんたんに思ってしまう。
当事者じゃないから、ポジティブな言葉が出てくる。本人にとってはそうじゃない。

この漫画がいいのは、エイズなんて他人事だった作者が、
「ふかん」で見れる立場から「当事者」に自ら歩み寄るところだ。愛する人は、いつも持ってる青い薬のぶん、人生の荷物がちょっと多い。
結婚して、幼い子供はいつか「自分だけがほかと違う」ことに気づくだろう。
母子感染ってなに?本当のお父さんは?と聞いてくるかもしれない。
そんな荷物もいっしょに持って歩くことを決める、その前後の時期のことを描いている。

あとがきには、13年後の家族へのインタビューがある。
画風が変わって家族それぞれの表情の変化がわかる。
ふたりで背負った荷物は、たいせつな財産になっている。


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南ミツヒロ
読んでくれてありがとうございます。 これを書いている2020年6月13日の南光裕からお礼を言います。

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