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【読書日記】アンジュと頭獅王

「アンジュと頭獅王」 吉田修一;作

アンジュ恋しや ほうれほれ
頭獅王恋しや ほうれほれ

「安寿と厨子王」については「山椒太夫」が有名だそうだが、そちらも読んだことはない。ただ、私、このあらすじを知っている。なぜか…
有名だから。
いや。
読みながら思い出した。これも父の読み聞かせで記憶に残っていた。

別れ別れになった母親が子どもたちを思い、
目が見えないながら

アンジュ恋しや ほうれほれ
頭獅王恋しや ほうれほれ

と歌う場面。
父がお布団の中で歌ってくれた場面を思い出した。父が何を元に語って聞かせてくれたのかは不明だが、大体のあらすじは覚えており、これもまた「説経集」を元に現代語訳しているとのことで、大まかなあらすじ通り。
しかし、やはり吉田修一。途中から大胆なアレンジがかかっていることは「安寿と厨子王」の伝説を知らなくてもわかるはず。
ほほう。そう来たか、と唸りたくなる。
吉田さんが現代語訳をするのって珍しいなあと思っていたのだが、そのアレンジを見て納得というか…吉田さんのホームページにて担当の編集者さんの言葉にもある通り、本のデザインも細部まで凝っている。

記憶の中で、父は「アンジュ恋しやほうれほれ 厨子王恋しやほうれほれ」をそれは切なく情感込めて読み上げていたな、と思い出し、なんだかおかしくなる。
変わり者の父は、おばあちゃんの法要もきちんとしないし、お墓参りも忘れがち、母にいつも薄情だなんだと罵られているのだが、映画や本を見ては一人涙している様子が、記憶に残っている。情に脆いんだか、なんなんだか…きっと母からすればそういうところも余計に腹立たしいのだろうが、映画「関のやたっぺ」や「幸せの黄色いハンカチ」「遙かなる山の呼び声」などの泣けるシーンを繰り返し見せられた以外は、今のところ私に被害は被っていないので、現実的な被害を被っている母ほどには怒りはない。
そう、思えば父は何も娘のために読み聞かせをしてやろう、とか寝かせつけをしてやろうという思いがあったわけではない。ただ、自分が「面白い」と思った本やシーンを人に話したかったのだ。
それは私もよくわかる。
このnoteを続けているのもそのためなのだから。
カエルの子はカエル。やはり父の血を受け継いでいるなあと思う今日この頃だ。

そして、三つ子の魂百まで、で幼い頃にお布団の中で読み聞かせてもらった記憶はいつまでも私の中に残っている。


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朝月広海
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