かみさまのはなし
僕がちょうど7歳の頃、僕はかみさまと一緒にいた。
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そのかみさまが自己紹介してくれたわけではないが、僕はかみさまだとわかっていた。
かみさまといることは、とても楽しかった。
かみさまといっても、あれそれと願い事を叶えてくれるわけでない。
僕が欲しいおもちゃをお願いすると。さっと気配を消した。
僕がテストで100点をとりたいとお願いすると。そっと気配を消した。
僕がカレーライスが毎日続くようにお願いすると。すっと気配を消した。
かみさまが気配を消すのが寂しくて、いつしかお願い事をする事をやめた。
かみさまは願い事を叶えられなかったわけではなかったとおもう。僕の願いの大抵は、かみさまが叶える必要のない願いだったのだろう。
月が大きい夜は、よく二人で月の舟に乗って空を飛んだ。
僕の家は、あっという間に小さくなり。
雲の上から雲を眺め、大気圏を抜け、
星が流れるようなスピードで、宇宙の端まで行った。
宇宙の端につくと、その端から宇宙を眺めたり、その端の先を眺めた。
僕は、宇宙の端から宇宙を眺めるのが好きだった。
かみさまは、宇宙の端の先を眺めるのが好きだった。
宇宙に朝は来ないのかと、宇宙の端に座って何時間も朝を待った事もあった。
帰り道は、いつもあっという間だった。
宇宙の端を抜けると、僕に戻る。僕はそれが嫌でいつも駄々をこねた。月の舟は方向を変えられない。
僕らは、その端を越えて帰るしかなかった。宇宙の端を越える瞬間は、波が弾ける音がした。どこからかあらわれた太陽みたいな大きな光が唸りを上げて僕らの周りをぐるぐるまわった。やがて大きな光は僕らになって。その光は、僕に戻る。
いつの日からか、かみさまは、ずっと気配を消している。それは今の僕がかみさまが叶える必要のないものを願い過ぎているからだろう。
太陽みたいな大きな光がうねりをあげてぐるぐる回る。波が弾ける音がする。
今日は月が大きい。月の舟の出発だ。