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M(マグニチュード)9地震に備えて私たちがすべきこと(読書メモ)

「大地変動の時代」に入った日本列島

近年、日本列島で毎月のように頻発している地震は、2つの大きな歴史的サイクルから生じている。1つは1000年ぶりの日本列島が経験しつつある「大地変動の時代」で、もう1つはほぼ規則正しく太平洋で起きる巨大地震の再来である。
具体的には、2011年に起きた東日本大震災により地殻変動が活動期に入ったことと、約百年おきに襲ってくる南海トラフ巨大地震による地盤の変動である。

四つのプレートがひしめき合う日本列島

日本列島は世界でも特異な地下構造をもつ地域にあり、4枚の動きつつあるプレートに囲まれている。太平洋側では「海のプレート」である太平洋プレートとフィリピン海プレートが、また日本海側には「陸のプレート」である北米プレートとユーラシアプレートがある。

このようなプレート境界ではしばしば大きな地震が発生し、大津波をともなうこともある。すなわち、地震による揺れと津波という2つの災害を連続して起こすのである。

地震が発生するメカニズム

日本列島で起きる地震は発生場所やメカニズムによって、大きく「海溝型地震」と「内陸地震」(=直下型地震)に分けられる。近年、日本各地で頻発しているのは内陸地震で、地表から20キロメートル以浅で起きる。

東日本大震災によって、日本列島が含まれる大陸プレートにかかる応力が変わってしまった。それまでは太平洋プレートが北米プレートの下に沈み込むことで地下の岩盤を押していたストレスが、M9.0の巨大地震によってプレート間の固着域が破壊され急変した。

その結果、M3〜6規模の地震の数は年間で震災前の約5倍に急増した。それだけでなく、少なくとも今後数十年はこのペースで内陸地震が続くだろう。こうして東日本大震災を契機に始まった地盤の変位は、日本列島に2000本以上ある活断層の活動度を上げて「大地変動の時代」をもたらしたのである。

首都圏の下には3枚のプレート(岩板)がひしめき合っており、世界的にも地震の起きやすい変動地域にある。具体的には北米プレートという陸のプレート上に乗っているが、その下ではフィリピン海プレートという海のプレートが南から沈み込み、その深部に太平洋プレートという海のプレートが東からもぐり込んでいる。

こうした3枚のプレート境界が一気に滑ったり、プレート内部の岩盤が割れたりすることで、さまざまなタイプの地震を起こしてきた。

千葉県東方沖では近年、陸側と海側のプレートの境界がゆっくりとずれ動く「スロースリップ」(ゆっくりすべり)が起きている。

今後このスロースリップに誘発されてM6台の地震が起き、最大震度5強の強い揺れが襲ってくる可能性がある。こうした状況が、首都圏内の19か所にわたる震源域を持つ首都直下地震を引き起こす要因として警戒されている。

甚大な被害を及ぼす「首都直下地震」

首都圏では関東大震災以来M7クラスの直下型地震が起きていない。1923年に発生した関東大震災の発生から100年以上経過したため、これから活動期に入る可能性が指摘されている。

現代の首都圏は大正時代や元禄時代と異なり、ハイテクの大都市ならではの甚大な被害が見込まれる。侵入した津波は地震で破壊された堤防の隙間をぬって首都圏東部のゼロメートル地帯を襲う。都心には網の目のように地下鉄が通っているので、地下街とともにその浸水対策が急がれる。

さらに震度6強以上の強い揺れによって、東京湾の埋立地や川崎市や横浜市などの沿岸域では激しい「液状化」(軟弱な砂質地盤が液体のようになる現象)が起きると予想される。国の被害想定では最大の死者数3万1000人、また全壊棟数は39万棟に達すると推計されている。

いつ起きてもおかしくない首都直下地震

首都圏の下では北米プレート、フィリピン海プレート、太平洋プレートという3枚のプレートがひしめき合っており、世界的にも地震の起きやすい変動帯にある。

これらのプレート境界が激しくずれたり、またプレートの内部が大きく割れたりすることで、五つの異なるタイプの地震が発生する。これらをまとめて首都直下地震と呼んでいるが、起きる深さやメカニズムは多岐にわたるため地上での被害もさまざまである。

地震以上の犠牲者を出す危険な災害

1923年の関東大震災では犠牲者の9割が地震後に起きた火災で亡くなった。また、阪神・淡路大震災では8割が地震直後に起きた建物の倒壊によって亡くなり、東日本大震災では92%が巨大津波による溺死だった。

大都市を襲う直下型地震での最大の問題は、建物倒壊など直接の被害にまらず、火災など巨大災害を引き起こす点にある。大正時代と比べると現在の方が、複合型の危険性ははるかに大きい。

減災の第一のポイントは、直下型地震の後に必ず起きる大規模な火災への対策である。高層ビルが多い都心部では、ビル風によって竜巻状の炎をともなう火災が次々と発生し、地震以上の犠牲者を出す危険性がある。

人口の密集した都市部の直下型地震では、地震発生後の間接的な人的被害が大きな問題となる。地震がいったん収まると家路に就こうとする人々が道路を埋め尽くす。ところが車道には車が渋滞し、歩道も人で溢れかえっている。

こうしたとき、多数の人が押し合うことで将棋倒しになる「群衆雪崩(なだれ)」が起きる。人が密集した場所で一人が倒れることで周りがなだれを打つように転倒してしまう現象である。転倒した人の後ろや左右から次々と人が引き込まれて大勢が圧死する。

「首都直下地震」に対して東京都は「地域危険度一覧表」を公表している。地震による直接的な建物倒壊、間接的に発生する火災による延焼、発災後の避難救助に対する困難度という3点による危険度を数値化し、ランク1から5の5段階で分類されている。

M9地震① 南海トラフ巨大地震の脅威

近い将来、国家を揺るがす危機として「南海トラフ巨大地震」という激甚災害が予想されている。地震は陸上で起きるだけでなく海底でも発生する。日本列島は太平洋側から2枚のプレートで押されており、海底の巨大地震はこの動きに支配されて起きる。

南海トラフ巨大地震の規模はM9.1であり、2004年にインドネシアのスマトラ島沖で起きた巨大地震と同じである。この地震では高さ30メートルを超える巨大津波が発生し、インド洋全域で25万人以上の犠牲者を出した。

国が行った南海トラフ巨大地震の被害想定では、海岸を襲う津波は34メートルに達するとされる。また巨大津波が一番早いところでは2〜3分後に襲ってくる。

地震としては、九州から関東までの広い範囲に震度6弱以上の大揺れをもたらす。特に、震度7を被る地域は、10県にまたがった総計151市区町村に達する。国の想定では、犠牲者総数が最大33万人、全壊する建物238万棟、津波によって浸水する面積は約1000平方キロメートルとされている。

南海トラフ巨大地震が太平洋ベルト地帯を直撃することは確実で、被災地域が産業や経済の中心であることを考えると、東日本大震災よりも一桁大きい災害になる可能性が高い。内閣府の試算では南海トラフ巨大地震は日本の総人口の半数に当たる6800万人が被災する。

M9地震② 九州・沖縄沖 琉球海溝地震

九州から南西へ沖縄を通り南西諸島まで続く海域には、M9クラスの震源域がある。南海トラフの南西端では陥没地形の方向が南に傾き、長さ1000キロの琉球海溝に連続する。この琉球海溝は南西諸島に西端で台湾に続くが、南海トラフと同様にフィリピン海プレートの沈み込みによって巨大地震が起こると想定されている。

政府の地震調査委員会は、2022年3月に琉球海溝で起きる海溝型巨大地震に関する長期評価を公表し、南西諸島周辺でM8の巨大地震が起きる可能性があるとした。

具体的には琉球海溝に沿って並ぶ震源域で、最大高30メートルの大津波と、震度7の強い揺れが発生するという。また今後30年以内にM7地震が起きる確率は、与那国島周辺で90%以上、また沖縄本島に近い南西諸島北西沖で60%程度と評価した。

M9地震③ 日本海溝・千島海溝地震

岩手県沖から北海道日高地方沖合の日本海溝沿いにある震源域と、襟裳岬から千島海沿いの震源域の2つで発生する地震の予測が、詳細に行われた。地震の規模を表すマグニチュードでは前者がM9.1、また後者はM9.3が想定された。

これは2011年の東日本大震災を引き起こしたM9.0や、2030年代に起きる可能性の高い南海トラフ巨大地震のM9.1を上回る非常に大きなものである。すなわち、日本列島の北方に再び超巨大地震が襲来すると言っても過言ではない。

海底で地震が起きるメカニズムは、日本海溝と千島海溝は、太平洋プレートが日本列島を乗せた北米プレートの下に沈み込む場所にある。こうした2枚のプレート境界面が一気にずれるとM9クラスの巨大地震が起き、同時に隆起した海底に沿って大津波が発生する。

国の地震調査委員会は千島海溝沿いを震源とするM8.8以上の地震が30年以内に起きる確率を、最大40%と見積もった。

北海道から東北北部の太平洋沖でマグニチュード9クラスの巨大地震が起きると、震度7の強い揺れと最大で30メートル近い大津波が押し寄せる。具体的に見ると、北海道・襟裳岬の東方沖を震源域とした場合には、厚岸町で震度7、えりも町は震度6強の揺れに襲われる。特に、冬の深夜の地震発生で津波避難率が20%と低い場合に、最大の被害が想定される。

その結果、日本海溝沿いの地震では犠牲者数が19万9000人、全壊・焼失棟数が22万棟となる。また千島海溝沿いの地震では犠牲者数が10万人、全壊・焼失棟数が8万4千棟となる。いずれも東日本大震災による死者数や経済的被害を大幅に超え、南海トラフ巨大地震に匹敵する甚大なものだ。

いま私たちがすべきこと

本書では「南海トラフ巨大地震は今から約十年後に起きる」、「被害規模は東日本大震災より一桁大きい」「総人口の半数6800万人が被災する」という予測を大胆に提示した。

読者はこの三項目だけでよいので、皆さんの家族・友人・会社・コミュニティの方々へしっかり伝えていただきたい。

もし各人が自分の命を守ることを真剣に考えなければ、本当に命を失う状況となる。今から準備に着手すれば犠牲者の8割、インフラ被害の6割まで減らせると試算されている。「自分の身は自分で守る」はあらゆる防災の基本なのである。

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