病気をしない生活習慣とは?(読書メモ)
がんは予防できるのか
がんは生きる上での宿命である
がんは、基本的には、遺伝子の変異によって生じる病気です。我々の体の細胞は、ACGTという四種類の文字が60億個並んだ遺伝情報を持っていて、それが全遺伝情報=ゲノムです。
がんゲノムをはじめとする、これまでのがん研究から、がんの発症に直接的に関係する遺伝子変異と、そうではない遺伝子変異のあることがわかっています。そして、がんの直接的原因になりうる遺伝子の変異が「ドライバー遺伝子変異」、それ以外が「パッセンジャー遺伝子変異」と名づけられています。
ドライバー=運転手とパッセンジャー=乗客なので、暴走族に喩えてみるとわかりやすいかもしれません。ドライバー遺伝子変異が、がん細胞の悪さをぶいぶいと突っ走らせるヤンキーの運転手で、パッセンジャー遺伝子変異は隣で何もせずおとなしく乗っかっているだけの乗客、というイメージでしょうか。
細胞が増殖する、すなわち分裂するとき、DNAの量も二倍に複製されなければなりません。でないと、分裂のたびに細胞あたりのゲノム、すなわち、遺伝情報が半分になって、細胞がたち行かなくなってしまいます。そのDNA複製の際に、どうしても変異が生じてしまうのです。その頻度はとても低いのですが、ゲノムの文字は60億個もありますから、総数でいうと結構な数になってしまいます。その際、どの遺伝子に変異が生じるかはランダムなので、運悪くドライバー遺伝子に変異が生じることもあります。そして、それが、一個の細胞の中で蓄積していくと、がんが発症するのです。
ヒトが生きるには、細胞が分裂し続けなければなりません。歳をとればとるほど、当然、細胞分裂の回数が累積してきます。それは、遺伝子変異の数が増えるということを意味します。その結果として、複数のドライバー遺伝子に変異が生じて、がんになってしまう、ということなのです。
タバコは絶対やめましょう
世の中には、変異を引き起こす物質というのが存在します。そのような物質を体に入れれば、当然、変異の率が高くなって、がんが発症しやすくなります。それが喫煙者たちです。
タバコの煙には何種類もの発がん性物質が含まれていて、なんと、欧米では肺がんのうち90%もがタバコが原因だとされています。日本人では少し率が低いとされていますが、それでもかなりのものです。タバコは肺がんだけではなく、ほかにも、口腔、食道、膵臓、膀胱の発がんも促すことがわかっています。さらに、アルコールを摂取しながら吸うと、口腔や食道の発がんに相乗的な効果が出てしまいます。
ピロリ菌と胃がん
欧米人に比べて、日本人に胃がんが多いことは昔から知られていました。その理由はよくわからなかったのですが、今では、おそらくピロリ菌の感染が主な原因だろうとされています。ピロリ菌は、細胞に突然変異を直接引き起こして胃がんを作るのではありません。そうではなくて、慢性炎症を介して胃の発がんを促進します。
ピロリ菌を除去すると胃がんの発生率が低下することがわかっていますので、除菌が勧められています。しかし、除菌できたからといって胃がんのリスクが必ず下がるわけではありません。除菌後も、ピロリ菌が感染していた名残のようなものが胃粘膜の細胞に残り、ピロリ菌に感染したことのない人よりもリスクが高止まりする可能性も指摘されています。なので、除菌したら胃がんのリスクは下がるけれども、完全に安心っちゅうわけではないので、注意が必要です。
ウィルスとがん
<がんの原因となりうる感染症四天王>
①ピロリ菌
②ヒトパピローマウイルス
③B型肝炎ウイルス
④C型肝炎ウイルス
現在、日本人の肝がんの9割がウイルス性だとされています。B型・C型肝炎ウイルスによる慢性肝炎が克服されれば、現状の1割とまではいかないかもしれませんが、肝臓がんの頻度が激減することは確実とされています。
ヒトパピローマウィルスにはいろいろな種類がいて、なかには凶悪なのがいて、子宮頸がんなどの悪性腫瘍をひきおこします。ピロリ菌や肝炎ウイルスによる発がんが主として慢性炎症によるものであるのに対して、ヒトパピローマウイルスによる発がんメカニズムは全く違うものです。
ドライバー遺伝子の中には「がん抑制遺伝子」というのがあります。それに由来するタンパク質は細胞増殖にブレーキをかける働きを持っています。その遺伝子に異常があると、細胞増殖のブレーキが効かなくなり、がんになりやすくなってしまうのです。
子宮頸がんワクチンは、その名前から、がんに対するワクチンと勘違いしておられる人が多いかもしれませんが、ヒトパピローマウイルスに対するワクチン、すなわち、ウイルス感染に対するワクチンにすぎません。子宮頸がんの7割ほどがヒトパピローマウイルスによるとされていますから、その感染を防いだら、子宮頸がんをかなり防ぐことができるはずです。
発がんリスクを考える
国際がん研究機関(IARC)は、発がん性リスクをグループ1から3に分けて公表しています、グループ1は「ヒトに対する発癌性が認められる、化学物質、混合物、環境」で、まちがいなく発がん性が認められるというカテゴリーです。
タバコ、ピロリ菌、B型・C型肝炎ウイルス、ヒトパピローマウイルスがはいっているのは当然です。他に、いくつもの抗がん剤や放射線がはいっているのもわかります。アスベスト、ベンゼンやヒ素などもはいっています。
何にびっくりしたかというと、アルコール飲料や加工肉がグループ1にはいっていることです。いろいろな研究があって、統計的に、アルコールを摂取する人の方が、がん、特に大腸がん、肝臓がん、乳がん、になりやすいことが報告されています。ただし、過剰飲酒が悪いのは明らかとはいえ、どれくらい飲んだらどの程度がんになりやすくなるかはあまりわかっていません。
世界的に見ると、がん症例全体のなんと約3.6%もがアルコール摂取に起因するとされているということなので、かなりの数値です。おそらく、アルコールが代謝されてできるアセトアルデヒドがDNAに傷をつけるためとされています。
紫外線
紫外線はDNAに傷をつけて、発がんのリスクになるので、太陽光の曝露もグループ1にはいっています。紫外線=UV(ultravilet)は、波長の長いUVAと波長の短いUVBに分けられます。日光浴で肌が真っ赤に焼けたり、DNAに変異がはいって発がんの原因になるのはUVBの方です。
DNAに変異を生じさせる可能性があるのですから、体にとって必ずしも好ましいことではありません。過度に日焼けするのは注意したほうがいいでしょう。
ビタミンDは、日光の紫外線を使って皮膚で合成されます。ですから、あまりに日を浴びないでいると、ビタミンDが乏して、子どもでは「くる病」、大人では「骨軟化症」になってしまいます。皮膚がんのリスクがあがるからとかいう理由で、極端な紫外線対策をとると欠乏症になる可能性があります。
食べ物とがん
加工肉も気になります。ただ、発がんに関係あるというのは、疫学調査によるものであって、加工肉に含まれる何が発がんに影響をおよぼしているのかはわかっていません。国立がん研究センターは「平均的な摂取の範囲内であれば、食肉や加工肉がリスクに与える影響は、無いか、あっても少ない」というスタンスをとっています。世界保健機関(WHO)も、IARCの報告について、「がんのリスクを減らすために加工肉の摂取を適量にすることを奨励したものであり、加工肉を一切食べないよう求めるものではない」とアナウンスしています。
加工肉に限らず、食生活ががんと関係があるのは間違いありません。しかし、あくまでも疫学からの推計であって、何を食べたらダメで、何を食べたら良い、というようなことがわかっている訳ではありません。
一方で、がんにならない食事とか、がんが治る食事とかいった類の本が結構出されています。残念ながら、科学的な根拠はほとんどないと考えたほうがええでしょう。食事が発がんに影響を与えているのは間違いないとはいえ、確実に予防できたり、ましてや、がんを治癒できたりする食べ物はあらへんのです。
がんになりにくい生活習慣
肥満は、生活習慣のリスクになるだけでなく、発がんのリスクでもあります。英国で524万人という膨大な人数を対象に、BMIの値と22種類の悪性腫瘍の関係についての大規模研究がおこなわれました。その結果、胆嚢がん、腎がん、子宮頸がん、甲状腺がん、大腸がん、白血病など、10種類のがんで、肥満によって発がんリスクが向上することが明らかになっています。
日本では欧米ほど肥満と発がんの関連は大きくないのではないかとされています。それでも、大腸がんなどでは、肥満により発がんリスクが上昇することがわかっています。一方で、やせすぎも発がんのリスクになることが報告されています。BMI値でいうと、男女ともに、やや太り気味といったあたりが、がんによる死亡率がいちばん低くなっています。
国立がん研究センターのホームページに「科学的根拠に基づくがん予防」というのがあります。(https://ganjoho.jp/public/pre_scr/cause_prevention/evidence_based.html)
喫煙
たばこは吸わない。他人のたばこの煙を避ける。飲酒
飲むなら、節度のある飲酒をする。食事
食事は偏らずバランスよくとる。
・塩蔵食品、食塩の摂取は最小限にする。
・野菜や果物不足にならない。
・飲食物を熱い状態でとらない。身体活動
日常生活を活動的に。体形
体重を適正な範囲に。感染
肝炎ウイルス感染検査と適切な措置を。
機会があればピロリ菌感染検査を。
(できるだけ)風邪をひかない暮らし
風邪をひかない極意
風邪をひくには、ウイルスに感染せねばならんのです。逆に考えたら、ウイルスにさらされなかったら風邪をひかない、ということになります。
ウイルスの侵入部位は、上気道、すなわち口や帳です。そこへウイルスがやって来るのは、飛沫か接触です。風邪の主要症状に咳があるので、なんとなく飛沫によると考えがちですが、むしろ接触の方がメインだと考えられています。
重要なのは手洗いです。外から帰ったら、あるいは、屋内でも、風邪の人が触ったような場所を触れた後には、しっかり手洗い。普通の石鹸で十分なのですが、指や手のひらといった部位それぞれを15〜20秒は洗わないとウイルスは落ちません。できるだけ手洗いするのが望ましいのです。
風邪をひいたらどうするか
いくら気をつけても、風邪をひくときはひきます。感染してしまったらどうしたらいいか。では、風邪を治す方法があるのか、というと、ありません。
これまで調べられたサプリメントは、有名なビタミンCを含めてどれも大きな効果がありません。日本では生姜湯や卵酒、アメリカではチキンスープを摂ったりします。多少気持ちよくなる、とか、水分の補給になる、というような効果はあるかもしれませんが、風邪が早く治るわけではありません。
鼻水、咳、頭痛、などといった症状を和らげるお薬は必要に応じて服用すればもちろん有効です。タミフルのようにインフルエンザウイルスに対する薬剤はありますが、いわゆる風邪のウイルスに効くような抗ウイルス薬はありません。抗生物質は不要です。飲んではいけません。一般的な抗生物質は細菌に対するものですから、ウイルスには効果がゼロです。その上、副作用が出る可能性がありますし、耐性菌=抗生物質が効かない細菌、を産み出す危険性もあります。ただし、自分ではウイルス性の風邪と思っていても、それ以外の病気で、抗生物質の投与が必要な場合もあるので、そこはお忘れなく。
まとめ
風邪をひかないためには、ウイルスに接触しなければいい。とはいうものの、季節になれば、人の集まるところ、多かれ少なかれウイルスがあるはずです。できるだけウイルスを体の中に入れないようにする必要があります。それには手洗いがいちばん大事。
普段から、対人関係をたくさん持つようにしておく。しっかり睡眠をとって、適度な運動をして、慢性的なストレスをため込まないようにしておく。すなわち、日常的に健康的にいい人を目指していればいいのであります。