春を生き抜く

春風に絡まって動けないでいる私は、
天国を思い浮かべるように、
今年の夏を待っているようです。
石につまずく人の影に手を伸ばして、
もう歩かなくてもいいよと慰めるつもりで、
本当は光に照らされてこぼれてしまった誰かの愛に触れたかった。
めったに泣かないけれど、本当は毎日泣いていたいのです。
そうして、砂埃の舞う乾いた春を終わらせて、
涙に濡れたみずみずしい大気やコンクリートや葉っぱで、
ひとつの季節を一からつくり上げたい。

昨日から雨が降っている。
遠く、ジャングルの奥地では虎が唸っている。
その眼は、私を見つめている。
それは時々、強烈な眠気となって、食欲となって、
そして春風となって、噛み付いてくる。
生きるしかないのです、
泣きながら、
死んだように眠ること、
空腹で胃が痛むこと、
触れたことのない愛を恋しく思う孤独を、
決して手放したくはないのです。

傷口から大きく脈を打つように血が流れて、
世界が私と拍動する。
生きている。
心の底からそう呼べる季節が、やってくる。

どうかいつまでも、私の命を狙っていて。

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