就活版「失敗の本質」ー私の就活反省記
東西線の茅場町駅のホームのベンチで、iphoneに耳を当てて流れてくる音声を聞いていた。金融業界とりわけ証券会社の多くがこの駅の周りに本社を立地している。だがその日の私は茅場町で面接を受けていたわけではなかった。大手町で最終面接を受けた後、まっすぐ駅に行ったが内容の振り返りのために東西線を途中で降りたのだった。
ー志望動機は?
ー学生時代力を入れたことは?
ー部活動で壁にぶつかった時どのような取り組みを?
この辺りまでは良かった。後半の質問で答えに詰まっているところに差しかかると私は聞くのをやめた。
最終面接の際、リクルートスーツのポケットにiphoneで録音をしていた。
本当は、良くない。
これまでそんなことをしたことは無かったのに何故そんなことをしたかと言えば、何度もお祈りを食らう中、最後に残ったこの企業でも落選してしまったら、そう思うと少しでも何か次に繋がる結果を残すために面接の音声を録音するという行動に出てしまっていた。
そのくらい追い詰められていた。
周りの同期が4月の第一週、遅くともGW前には続々と内々定を獲得しているのに、私は6月の最終週になっても結果が出ていなかった。
春用に買っていたリクルートスーツは分厚く、ネクタイを締めた自身の姿はクールビズの装いで行き交う人々の中で誰がみても就活生としか見えない。
黒いジャケットの背中にはじっとりと、汗が染み込んでいた。
その翌週、1本の電話で私の新卒就活は終わった。
「最終面接の結果、Mさんに内定を出すことに決めました。
…弊社に入社していただけますか。」
電話口の声の主はやや低い声で私にそう言った。人事担当者もこの瞬間はやはり緊張するらしい。
「…はい、よろしくお願いします」
私は努めて明るく答えたつもりだった。
後悔が無いと言えば嘘になる。第一志望どころか、数十社のエントリー先全てから「お祈り」をされ、何とか探し当てたのがこの内定先だった。満足できる内定先かどうかよりも、この就活という終わらない戦線に立ち続けることへの疲れと拒否感が勝ってしまった。
私のこの時の決断は結果から言えば間違っていたという事になるのだろう。新卒入社したその会社を私はちょうど6年後の夏に退職した。
私の新卒就活は完全に失敗した
新卒就活を振り返り、総括してみると結論から言えば「失敗」だったと言わざるを得ないだろう。当時は現在ほどの売り手市場ではなかったが、色々と紐解いてみると、0:100くらいで私の就活の仕方・やり方に失敗の本質があった。
私の後の世代からは新卒就活における売り手市場化が進んでおり、ある時期まで自身の就活についてはタイミングが悪かったように捉えていた。確かにリーマンショック・東日本大震災のような経済的に大きな影響を与える出来事は大卒の求人倍率に少なからず影響を与える。
だが社会情勢によらず、しっかりと対策した人は就職できているのが事実で、希望通りの就職ができなかった原因は余程のことがない限り、売り手側の問題を反省する必要があると思う。
私自身の新卒就活を振り返ると、自分で気づけば、あるいはトライすれば結果を変えることができたであろう点はいくつもあった。この事はこれから新卒就活に挑まれる方、現在も就職活動をしている方、さらには現在社会人で転職を考えている方にも役に立つと信じている。
失敗には原因がある。結果とそれに至るプロセスが何であったかを分析することは極めて重要だ。
敗戦の要因を分析したかの名著「失敗の本質」のお名前をお借りした上で、個人的ではあるが分析を進めてみたい。
周りより進んでいるつもりの大間違い
第一に挙げられる問題としては自分が大学卒業後の進路について、周りの同期よりも進んでいると誤解していたことだ。
大学時代、私は体育会の部活に所属していた。二つ上の先輩の就職活動が始まった際に学内で企業の説明会が開かれていたのだが、当時1年生の時点で私はこの説明会に先輩に「自分も行かせてください」とお願いして参加させてもらっていた。 また公務員就職を特集したセミナーもあり、これにも参加したりと情報収集を相当に早い段階で行っていた。企業の説明会は3年生からであったが、公務員の就職を考えていた2年生の冬の時点で既に行ける説明会には出席をするようにしていた。
「もう就活始めてるの?」とか「意識高いな〜」と言われる事で、私は早めに進路について動いている自分に安心感を覚えるようになっていた。そもそも体育会の部活動に所属していることでいい就職は出来るだろうという漠然とした思いもあった。
過去に戻れるのなら、私は過去の自分をハンマーでフルスイングすることだろう。
結局のところ、これらは全てやっているつもり、周りよりも早く進んでいるつもりの就活でしかなく、意味が無かったと言わざるを得ない。そういった行動のみに満足しており何にも繋がっていないからだ。
例えばあなたが高校野球の選手だったとして、どういう選手になりたいかを全く考えずにとりあえずランニングだけをしてみて、練習に満足している。こうした練習には意味がないことはよくわかると思う。
私がしていたことはまさにそうなのだ。
この後にも続く私の就活での失敗の数々も基本的な問題は大体ここに集約されている。
本格的な就活が始まる以前から既に問題は起きていたということである。
・目標・目指すべき結果がぼやけており、それに対するプロセスが繋がっていない
1年生・2年生の段階ではそもそもどういった企業・業界にいくかが定まった状態ではない。それは当然のことだろう。早期に就活的なことをしていたにも拘らず3年生の12月のいよいよ本番を間近に控えたところで絞り込みが出来ておらず、志望業界がぼんやりとしていたのだった。
結果として起きた事は次のような事だ。3年生までは地方公務員への就職を考えていたが、本格的な就活のスタートをきっかけに民間志望へ転換。その中で石油元売・金融を中心に選考を進めていたものの、4月中に全ての企業で落選をしてしまった(当時は就活の説明会解禁は12月、4月に名目上の面接解禁という流れだった)。
受け方についても問題があっただろう。公務員は安定している印象があるので市役所や警察消防等、銀行は部活動の先輩が受けているので…という風に表面的な企業選びしかしていない。石油元売に至っては当時流行していた「海賊と呼ばれた男」を読んだからだった。
どうすればよかったのか?
「やってるつもり就活」の恐ろしいところは、普通にエントリーや選考は進んでいくことである。だが志望動機や企業でしたいこと、自分がしてきた事が確りとリンクしておらず結果面接の場に出ると「浅い」学生に見えてしまう。これが4年生になっていよいよ内定を懸けた面接に臨んで失敗すると取り返しのつかない事になる。
このような状態からは一刻も早く抜け出す必要がある。民間を選ぶにせよ、公務員を選ぶにせよ、本格的な企業へのインターンシップ、エントリーまでに業界と企業や官庁について徹底的な洗い出しが必要だったと思う。早く始めれば良い、と言うものでは無い。
たとえるならば志望業界・企業を決めるということは山を登る前の地図の確認である。これがめちゃくちゃな状態、いい加減な状態では当然結果は悪くなる。
質の高い業界・企業・職種研究を時間があるうちにすること。これが私がするべきだった事の一つである。
もう一度新卒就活をするなら企業選びをどう取り組むか
今回私が反省をした内容を基に、もう一度新卒就活をするならどうするかを考えていく。これは私ならば、という視点であるので必ずしも正解かは分からないが、以下に述べるやり方が業界に対する理解とエントリーシートを読む人事担当者・採用面接官の納得感を向上させることは間違いないだろう。
先ほど記載した通り、「海賊と呼ばれた男」を読んで石油元売業界に興味を持っていた。これは資源のない国日本にエネルギーをもたらすことの使命感を感じたためである。私の場合この時にJXTG(現:ENEOS)と出光興産しか受けていなかった。石油=この二社としか考えていなかったのがまず業界研究として甘いし浅すぎる。
・日本にエネルギーを持ってくる
という視点で仕事を選ぶのであれば、石油という業界をプロセスごとに分解していく必要がある。エネルギーには開発と精製販売という大きな区分けをすることができる。
地面の下や海底に埋まる原油を掘り、開発する側の企業と掘り出された原油を運ぶ商社、そして日本国内で精製し販売する企業がある。
自身がどのポジションからエネルギーに関わるかを広く検討する。
そうすると、このような企業選びになるだろう。
開発サイド
・INPEX(旧:国際石油開発帝石)
・石油資源開発
・JX石油開発
・三井石油開発
開発・トレードサイド(商社)
・伊藤忠商事
・三菱商事
・三井物産
・丸紅
・住友商事
精製元売
・ENEOS
・出光興産
・コスモエネルギーHD
そのほかに関連業界として日揮、千代田化工建設といった会社も志望企業に加えるだろう。
これらの会社をリストアップし、それぞれの売上・経常利益の推移、収益構造、事務系就職での職種を調べていく。採用サイトやIR情報で分かることもあるが、分からない部分はOB OG訪問で補完を行う。
このようにリストアップした中で以下のような分析を行い自分の志望動機をブラッシュアップする。私が勝手に「ブレークダウン方式」と呼んでいるやり方が良い。企業を選ぶ時になぜを3回繰り返すことで、その企業を選ぶ理由につながるというもの。
①何故エネルギー業界を選ぶのか?
②何故エネルギー業界の中で開発/商社/石油元売を選ぶのか?
③何故INPEX(伊藤忠商事、出光興産etc)を選ぶのか?
当然これらには自身の体験や学生時代に打ち込んできたことを織り交ぜることでより説得力に満ちた志望動機となっていくことは間違いない。
また、こうした志望動機や、自身が関わりたい仕事が現実にマッチしているのか大学のキャリアセンターでフィードバックを受けたりOB OG訪問で確認をすることも非常に重要である。
これが約10年前に出来なかったことに本当に後悔しかない、という思いである。
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