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『骨灰』冲方丁 書評#2

東京の土はどこも、骨まで焼かれたものの骸(むくろ)が混じっているといっても過言ではないでしょう。…数百年もかけて、ずうっと積み重なってきたんですから

今回は、冲方丁さんの小説『骨灰(こっぱい)』を紹介します。

あらすじ

大手デベロッパーの社員・松永光弘(まつながみつひろ)はSNS上のつぶやきがきっかけで地下深くにある現場の安全確認に訪れます。そのつぶやきには、「いるだけで病気になる」「火が出た」「作業員全員入院」「人骨が出た」といった看過できない内容が含まれていました。現場にある大きな”穴”に拘束されている人物を見つけ、その人を解放したことで、主人公にはさまざまな恐怖が襲い掛かる、という現代を舞台にしたホラー作品になっています。

見どころ

家を建てたことのある方なら経験があると思いますが、建設工事を始める時には神職の方にお願いしてお祓いをしてもらう習慣があります。建設会社ではそういった祭祀になじみが深く、祭壇の設置・管理などに費用が掛かっているそうです。この作品は、今でも残っているそうした習慣に絡めて、主人公たちの日常に”骨灰”つまり土地やそこに眠る死者の呪い・祟りが入りこんでくるというお話でした。筆者は東京に住んでいるわけではないのですが、自分が住んでいる地域にも祟りがあるんじゃないか、と思わせるじわじわくるホラーを楽しめます。

感じたこと

著者の冲方丁さんの作品を過去に楽しんだという理由でこの作品を選んだのですが、ふだんホラー作品を読まないためもあって、自分がホラーを読んでいるということに途中まで気づいていませんでした。そのくらい日常生活の隙間に入り込んでくる感じの怖さで、読んでいる途中は夜中に家の中で無駄にきょろきょろしてしまったりと挙動不審になりました。
自分が普段見ている大きな建物も、呪いを抑えるための犠牲を捧げた上で建っているのかもしれないな…とふと考えるようになりました。そして、土地を”鎮める”ための犠牲をささげる描写から、やっぱり一番怖いのは生きている人間なんだ、とも思ってしまいました。

まとめ

自分と家族に襲い掛かる正体不明の恐怖、楽しめそうだなと思った方はぜひチャレンジしてみてください。

※ヘッダーは稲垣純也さんにお借りしました


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