【小説】どこにでもある恋の終わり#1
窓を開けると、春の匂いがした。
新学期に吸い込んだ、期待と不安が入り交じる匂い。
もう、緊張しながら通学路を歩き、新しいクラスの発表を見に行くなんてことはないのだけれど、この匂いを吸い込むと同じように気持ちが新たになる。
外国だと新学期は九月からだとか。
四季がはっきりしていて新たな生命が芽吹く春がきちんと訪れる日本では、四月から新生活を迎えるのがなんだか正しいような気がする。
一昨日、正確に言えば深夜零時を回っていたから昨日、恋人と別れた。いや、話し始めたのはもう少し前の時間だっただろうか。もうはっきりと覚えていない。
私たちの関係は思えば数ヶ月前から冷めていて、まずは直接会うことが減り、毎日の日課だった連絡が減り、自分は本当に恋人がいるのだろうかと、これは恋人関係なのだろうかと懐疑的になっているところだった。
ゆえに、別れを切り出せばスムーズに事が運ぶと思ったのだ。久しぶりに部屋を訪れた彼女とふたりがけのソファに腰掛けて、目を見ずに告げる。
「別れよう」
「うん、わかった」
「今までありがとう」
「こちらこそ。お幸せに」
「お幸せに」
なんて言葉を交わして、恋愛感情は失われても紳士的に、お互いの幸福を願えると甘い考えを持っていた。
だから、彼女が激しく抵抗したのには驚いた。彼女は今まで見たことがない程激昂し、涙を流し、最後には私への恨み言を重ねた。
私は戸惑いつつも、彼女への気持ちが更に冷え渡っていくのを感じた。
「やり直す気は、ないよ」と別れの念を押すと、彼女は私を睨みながら、バタバタと部屋を去っていった。
(つづく)
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