授業動画と私
はじめに
新型コロナウイルスの感染拡大は、教育現場にも大きな影響を及ぼしました。各行事の中止・延期・縮小、部活動やボランティア等の特別活動・校外活動も今までのように実施することもできなくなりました。
陰寄りの学生時代を過ごしていた私からしても、今の子ども達には同情せざるを得ません。
ただ、先述のようなこと以上に深刻なのは「授業による学びの機会の減少」だと思います。
学校・塾・予備校に勤めている多くの人の一番の仕事は授業であり、そこに通う子どもの一番の目的は授業を通して学力を身に付けることです。(一部例外あり)
感染拡大のために2020年より度重なる臨時休校、また個人単位でも学校・塾・予備校を休まざるを得ず、授業を受ける機会が物理的に減ってしまいました。(さらには、グループ・ペアワークがし辛くなった)
オンライン授業の開始
そういった状況下、「学びの機会」の保証として台頭したのが「オンライン授業」です。
私自身はコロナ禍以前から、様々な場所で既に展開されているオンライン授業に着目していました。
職場で教科指導力を鍛えるような機会があまり確保されていないこともあり、月額980円時代のスタサプに加入していました。(今は退会済み)
私の担当教科は数学だったので、数学…ではなく、英語の関先生、社会の伊藤先生の授業を好んで視聴していました。
また、Youtubeでもヨビノリのたくみ先生をはじめとした様々な動画を視聴していました。
↓たくみ先生の好きな動画↓
「いつか自分も似たようなことをしたいな」、「普段の授業に動画を活用したいな」という思いを持ちつつも、ツール面・法律面(著作権等)で中々踏み出せずにいました。
コロナの影響で、幸か不幸か2020年4月位からその辺りがある程度解消され、同年5月の臨時休校をきっかけにオンライン授業を開始しました。以降、現在に至るまでオンライン授業を定期的に実施しています。
オンライン授業の形態
一般に、オンライン授業には大きく分けて2つの形態があります。
1つ目は「ライブ型授業」です。現在のところ、実施していません。
理由としては、後述する2つ目の形態と対面的な授業の悪いところ取りのように感じるからです。
実施したこともないのに深くは語れませんが、対面授業の5割もパフォーマンスが見込めないのではないか…と思っています。
一応、奥の手として(zoomやmeetのノウハウを理解して)準備していますが、積極的にやろうとは思いません。
2つ目は「オンデマンド授業」です。私は「授業動画」と呼んでおり、愛用しています。
2020年度は70〜80本は授業動画を作成し、今年度は今のところ30本程度の授業動画を配信しています。
作成の仕方も自分の中で体系化しており、もともと動画編集が趣味でもあったので、
企画・準備→撮影→編集・UP(配信)
という一連の流れをこなすスピードもそこそこに自信があります。
一本撮りならば、編集はおそらく10分そこらで終わります。(字幕等の装飾含む)
この辺りの方法も機会があれば紹介しようと思います。
授業動画(数学)の内容はどのようなものがよいのか
この2年弱の間、授業動画については以下の2つのタイプを配信しました。
①授業進行型
名の通りです。単元・章の導入として基本事項(定義・定理)の確認、新しいタイプの問題(教科書だと例や例題)の解説を動画で行います。こちらは視聴してもらわないと授業の進行に支障が出るため、視聴の必要性を出したり、視聴しやすくする工夫が必要となります。この辺りも機会があれば。
②授業復習型
①に属さないものはこちら。教科書や傍用問題集の問題の解説、長期休暇中の課題の解説。3年生だと演習系の授業が多いので、例えばプリントの左面の解説を授業で行い、その類題にあたる右面は授業動画で解説を行う等しています。こちらの視聴は任意になります。
授業動画を配信してきて、何となく感じていることがあります。
それは、
【①授業進行型】の授業動画は様々な条件に注意して実施しないと、学習に支障をきたし得る
ということです。
【①授業進行型】の動画のリスク
あるクラスの「三角関数の加法定理」の導入について、授業動画も併用して以下のように行いました。
☆授業動画
A 加法定理の公式とその使い方(sin75°等の計算)について説明。
☆対面授業
B sin75°等の計算ができるか、小テストの実施。
C「sin75°=sin(45°+30°)=sin45°+sin30°」とならないことの説明。
※グラフを用いたり、「線形性」に触れたり。
D 加法定理の証明を2パターン。(時間が足らない場合は1つは課題)
狙いとしては、
公式の紹介や使い方は機械的なので授業動画で消化しよう。
じっくり考えたり、ペアワーク・グループワーク・発問により様々な意見が生まれそうなことは授業で行おう。
って感じです。いわゆる「反転授業」をこの機会に実践してみました。
理系はそこそこに狙い通りだったのですが、文系はイマイチだったように記憶しています。
授業動画を視聴していない生徒も少数ながら居たというのもあります。
不味かったと思ったのは、先入観を与えたことによる C の反応の薄さ。
また「公式使えるんだから証明とかどうでもよくね?」という感じの雰囲気。
まぁ後者については今回に限らず発生してわけですが…。
では「証明等を授業動画に盛り込めばよいのではないか」ということにもなりそうですが、授業動画の時間が長くなってしまうので厳しいです。
くどくなってしまいそうな内容は、ただでさえ集中しにくい授業動画には適さないと考えます。(子どもの質にもよりますが)
授業のあり方
先述のような経験は幾度かあり、その度に授業のあり方について、特に授業の進行について今一度考えさせられました。
先人が積み上げてきた緻密な構造を持つ数学を授業動画でファストフード的にサクサク済まそうってのは、甘いことだと思います。
指導者のリアルタイムの適切な発問と誘導、また同じ空間・時間を共有している人と協力して新しい概念を体得する経験etc…。
これらは対面授業でしかなし得ないことであり、安全・安心に授業が行えるよう、コロナの収束を願うばかりです。
小学生のオンライン授業
コロナワクチンは現在のところ、接種対象が12歳以上となっています。仮にワクチン接種ができたとしても、「この状況で子どもを登校させたくない」と思われている小学生の子どもを持つ保護者の方も多いです。
そういった中で、国や学校や教員に対して「オンライン授業を実施してほしい」という声があがっていますが、オンライン授業が子どもに対してどれ程の効果があるか考えてもよいと思います。
以下は、かなり主観が混じります。
オンライン授業を小学校教員に求めることは、小学校教員を過小評価しているし、過大評価していると思います。
過小評価
小学校教員の多くは大学の教育学部出身で、子どもをグッと惹きつける術を様々な経験(教育心理学等の座学、現場での実習)から体得しています。
そういった術は対面的であるからこそ活きるのであって、オンライン授業ではパフォーマンスは相当落ちます。
教員が同じ空間に居るから子どもは頑張れるし、消極的な捉え方ですが第三者だからこそ子どもの監視者たり得るわけです。
過大評価
実は私自身は小学校教員はあまり好きではありません。大きな理由として多くの小学校教員は「自分の専門教科を持っていない」からです。
時折ツイッターで巻き起こる「みはじ・きはじ論争」はほぼこれに起因すると思います。
オンライン授業にすると、どうしても対面授業より時間を短く、板書等等で提示する情報量を少なくせざるを得ません。そうなると「教授する内容を精選する」必要が出てきます。この作業が小学校教員の多くはできないのではないか…と邪推します。
小学校卒業後に子どもが学んでいく内容を教員がしっかりと把握し、そこから逆算して何を蔑ろにしてはいけないか。これについて、全教科を個人レベルで掌握するのは難しいと思います。
「カリキュラムを消化しないといけない」というプレッシャーもあると思いますが、無計画にオンライン授業を実施するのは非常に危険です。子どもの将来の学習に対し、ステルス性の地雷を設置することに繋がりかねません。
もちろんオンライン授業に限った話ではありません。目的・目標を履き違えて、害悪な「みはじ・きはじ」を教えてしまうと、以下のような地雷が将来爆発します。
学校に行かず、家にこもって宿題だけを機械的にこなすよりはオンライン授業は見かけ上は「やった方がマシ」なのかもしれません。
しかし、強引に教授内容をコンパクトにまとめてしまった結果により生産された「やらない方がマシ」なオンライン授業も、全国にたくさんあると考えます。
さいごに
今の自分では力量が足りないため、授業動画を②授業復習型に限定して配信している状況です。
あくまで授業動画は対面授業の補強であり、自分にとっては反転学習として活用するのも敷居が高いです。
また、保護者が自分の子どもが学校で勉強できていないことを憂いて、玉石混合のYoutubeを利用するのも耳にします。非常に危険だと思います。
試行錯誤感のない、「裏技」等という耳触りの良い言葉を用いた、おおよそ「数学」から程遠い有害動画にあたる可能性がありますので。
以上となります。見ていただいて、ありがとうございました。
♡を押してくれると、次の記事の作成意欲に繋がります。よろしくお願いします。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?