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花の匂いの道案内【短編】

新しくできた友だちの家に誘われた。
街の図書館で偶然仲良くなった子だ。
めったに友だちの家に誘われない私はとても嬉しくなった。
おまけにその子は明るくておしゃれなとても感じのいい子なのだ。
「うちの住所はヒミツね。案内メールをおくるから」
家を出る直前に届いた道案内は『花の匂いの道案内』と書かれた手書きのメモを写した画像だった。
最寄りの駅を降りて、交番の横の道を曲がった後は
花の匂いが順番に書き込んであって、
最後に自分の家のイラストが描いてあり、
「花の匂いを辿ってきてね(≧∇≦)」と書かれていた。
え、これで辿り着ける?
もしかしたら来るなってことだったらどうしよう…
友だちに誘われ慣れていない私は不安になった。
おかしいと思った。
あんなおしゃれな子が日曜の午後に私を家に呼んでくれるなんて。
はりきって早起きしてお土産に持っていくために
得意な小さいメロンパンを焼いた私って…。
パンが好きだって言ってたあの子に、なるべく焼きたてを持って行きたくて、
ギリギリに焼けるように昨日から時間配分を考えて上手くいくかずっとドキドキしていた。
その焼きたてメロンパンが入った手提げ袋をぎゅっと握って、私は駅に降り立ちとにかく交番をみつけた。曲がるべき交番の横の道もみつけた。
「交番→沈丁花」
最初にそう書いてあった。交番の横の道にたってくんくんと鼻を動かす。
沈丁花の匂いがした。
私はゆっくりゆっくり、匂いをかぎながら進む。
あ、この沈丁花が匂っていたのだな。
白い家の庭に沈丁花を見つけて嬉しくなる。
沈丁花の匂い、さようなら。…ええと、次は…
「沈丁花→水仙」
水仙の匂い、水仙の匂い…くんくん。
あった。水仙の匂い。
私は曲がり角を右に曲がる。
少し先の空き地にたくさんの水仙が咲いている。
「水仙→蝋梅(ろうばい)」
蝋梅って知らない。
私は立ち止まってスマホで画像検索する。匂いは検索できない。
見たことのない不思議な黄色っぽい花だ。
蝋細工のような梅?
どんな匂いだろう?梅みたい?
水仙の残りの香りを名残惜しく、また不安になって歩き進むとすぐに分かった。
きっとこれが蝋梅の匂い。
強めの甘い香り。
きょろきょろして進むとさっき確認したとおりの花の咲く家があった。低い板塀から枝が飛び出している。
少し顔を寄せて匂いを吸い込む。ああ素敵。
蝋梅で気分が落ち着いた私はゆっくり進む。
「蝋梅→柊南天」
ひいらぎなんてん!これは知ってる!
おばあちゃんの家の玄関の横にあって小さい白い花がとても良い匂いだ。
私は安心して優しく吹く風の中の匂いを探る。
一つ角を曲がり細い道へ入る。
「最後はミモザ」
細い道のつき当たりに、イラスト通りの家があった。
色のはげた水色の屋根の茶色い小さな家。
黄色い花の咲く大きな木が見える。ミモザだ。
そう思った時にドアが開き、友だちがにっこり笑いながら出てきた。
「いらっしゃい!楽しかった?
花の匂いの道案内。
そういうの、好きじゃないかな~って思ったんだ~」
私は注意深く、すごく嬉しそうな顔でほほえんだ。
「うん。楽しかった。
春の匂いのフルコースだった。
これね、来る前に焼いたパン。
どうぞ」
「えー自分で焼いたの?
何パン?すぐ食べたいな~。
早く入って!
一緒に食べよう」
私はミモザを見上げて「きれいだね」と言いながら
こっそり目のふちの涙を指先でぬぐった。
嬉しくてちょっぴり出てしまったのだ。
「ミモザ好き?帰りに切ってあげるよ!
これ匂いしないけどねえ、外国のミモザはすごく良い匂いがするんだって…」
にぎやかにしゃべり続ける彼女と一緒に私は彼女の家に入った。
玄関は何かの花の匂いがするような気がした。

(了)


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