大岡信『折々のうた 三六五日』岩波文庫
大岡信の「折々のうた」から、365篇を選んで一年の毎日当てていったもの。毎日少しずつ読んでいってとても豊かな気持ちになった。日本に短詩があるってありがたいこと。自分が共感する歌が、驚くほど昔に歌われたものだとわかると新鮮な驚きを感じる。特に、古語らしき語句がなくて現代語のように読めるものが作者を見ると平安時代の人だったりすると、その時代の人間をとても身近に感じる。どんな時代の人も同じ人間だ。
大岡さんの解説は正直、簡単すぎるものもあった。古い歌は意味がわからない語句もあり、あまり古文が得意ではいわたしとしてはきっちり現代語訳をつけてほしいと思うのだ。また、歌の解釈が大岡さんと自分とではかなり違うものもたまにあった。女性詩人(歌人)の場合が多かったかな。短い歌は短いがために読む人がそれぞれに想像するのが楽しい。歌はハープのようなもので、吹く風によって違う音色を立てる。
自分用のメモとして好きな歌を写します。
・こしかたゆくすゑ雪あかりする 種田山頭火
・てふてふが一匹韃靼海峡を渡って行った。 安西冬衛
・群鶏の数を離れて風中に一羽立つ鶏の眼ぞ澄める 宮柊二
・永き日のにはとり柵を越えにけり 芝 不器男
・春の夜の夢の浮き橋とだえして嶺(みね)にわかるる横雲の空 藤原定家
・ねがはくは花のもとにて春死なむその如月の望月のころ 西行
・シルレア紀の地層は査(とほ)きそのかみを海の蠍の我も棲みけむ 明石海人
・湧きいづる泉の水の盛りあがりくづるとすれやなほ盛りあがる 窪田空穂
・世の中は夢か現か現とも夢とも知らずありてなければ よみ人 知らず
・あの夏の数かぎりなきそしてまたたった一つの表情をせよ 小野茂樹
・虹自身時間はありと思ひけり 阿部青鞋
・戦争が廊下の奥に立ってゐた 渡辺白泉
・祭笛吹くとき男佳(よ)かりける 橋本多佳子
・おさへねば浮き出しさうな良夜なり 平井照敏
・世の中にまじらぬとにはあらねどもひとり遊びぞ我はまされる 良寛
・空をあゆむ朗朗と月ひとり 荻原井泉水
・憂きことを海月(くらげ)に語る海鼠(なまこ)かな 黒柳召波
終わり。