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【読書】オトナにもちょうど良いキュン

最近、恋愛系のテレビドラマや小説を見てもいまいち
ピンとこなくなってきたな・・・と、
自分の心の擦れ具合に、ちょっぴり悲しさを感じます。

昔は、あんなに少女漫画を読み漁って、主人公やその友人たちに
感情移入し、胸躍らせたり、心を締め付けられたりしていた
というのに・・・。
大人になると、様々な現実を知ってしまって、
子供の頃に抱いていた、そういうキラキラした感情を
失ってしまうんでしょうか。

今となっては少女漫画チックな甘~い恋愛モノの話に触れると、
むしろ少しの胸焼けを起こしてしまう私ですが、
今回は、そんな世間慣れしてきた大人でも気軽に読める、
そんな恋愛小説を紹介させていただきます。

もし私のように、恋愛モノ離れが進んでいる方がいらっしゃいましたら、
こちらの作品を機に、少しだけあの青春時代のときめきを
思い出していただければと思います。

三浦しをん『愛なき世界』上・下(中公文庫)

舞台は、T大学(モデルは、あの東大とのことです。T大と聞いただけで、
ピンと来ますよね)。
主人公は、そのT大近くにある洋食屋の料理人見習い、藤丸陽太。

この彼が非常に良いキャラをしているんです。

とにかく仕事に真面目で一生懸命。そして明るく元気。

そんな彼が出前でT大の研究室を訪れたところから、物語が動き出します。研究室の入り口の扉がうまく開かず、藤丸が苦戦しているところに、
救世主・木村紗英が登場し、藤丸が一瞬で恋に落ちます。

小ざっぱりとした服装の彼女は、それまでも何度か藤丸が働く洋食屋に
来たことがあり、同席していた学生や教授への配膳を手伝ったりと
気遣いの上手な人物で、藤丸も以前から気にはなっていたのです。

しかし、藤丸が惹かれていくその相手・木村は、
実は恋愛には一切興味がありません。
彼女が唯一愛しているのは、「植物学」なのですーー。

洋食屋の元気でちょっといい加減な亭主、
生活力がほとんどない殺し屋のような見た目の教授や、
サボテン命で植物を育てる天才の後輩学生と、
他の登場人物も個性的かつ魅力があります。

時折出てくる植物についての説明は、読んでいるだけで豆知識になるので、小説を読みながらちょっとした教養も身に付きます(ただし、
分野はやはり植物に限りますが)。

しをん先生のスゴい!と思わせられるところは、
藤丸の職業病ともとれる感想や表現が所々に盛り込まれている点です。

憧れの木村についての描写として、「風鈴のように涼しい声」、
「つるりとしていて、ほのかに朱が差したかかと」といった表現が
出てきます。
普段から、料理という繊細さを必要とする仕事をしている彼だからこそ、こういった細かい点に気づくのではないでしょうか。
彼がいかに仕事に真摯に取り組んでいるかが伺える要素だと思います。

対して、木村が中心の話では、ほとんどが植物に関するお話になります。
彼女の頭の中がいかに研究のことでいっぱいなのかが伝わってきます。

間接的に人の特徴を伝えてくるなんて、流石の表現力です。

本作は、ただ藤丸の恋に胸がきゅんとなるだけではなく、
藤丸と洋食屋の亭主との軽快な掛け合いや、木村の後輩との会話など、
思わず笑いが口から漏れ出てしまう場面もあります。

渇いてしまった恋愛心にじょうろで水を与えてもらえた一冊です。

もし心を少し掴まれるようなあの恋の感覚をもう一度感じたいのでしたら、
リハビリ(?)感覚でこちらの作品を読んでみてはいかがでしょうか。

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