【読書】爽快でスッキリ
「世の中、そううまくはいかないものだ」
ニュース番組を見るたびに、そう思ってしまうのは何とも悲しいものです。
詐欺や裏金問題など、日々聞こえてくるのは暗い気持ちにさせる報道が
多いです。
そんな世の中で陰鬱な気持ちになっている大人の方々に、
ぜひ読んでいただきたい作品があります。
読めば、きっと心が少し軽くなるはずです。
森絵都『カザアナ』(朝日文庫)
舞台は、観光産業に力を注ぐ日本政府が日本古来の文化伝統を重んじ、
他国文化を感じるものを排除しようと動く近未来。
政府に情報や生活を管理され、常に監視の目にさらされた日本で、
不思議な力をもつ庭師集団“カザアナ”の3人と、
日本の“鎖国化”に反発する3人家族のお話です。
本のタイトルにもなっている“カザアナ”の3人は、
実は古(いにしえ)より伝わる自然由来の力を持ち、
普段はその力を活用して依頼者の庭の植物を世話している集団なのです。
里宇(りう)と弟の早久(さく)は、
アイルランド人の父親と日本人の母親の間に生まれた中学生です。
父親が亡くなって数年後のある日、
里宇が“カザアナ”のメンバーの岩瀬香瑠(いわせ かおる)に
声を掛けられるところからお話は始まります。
日本古来の文化へ統制を進める社会の中で逞しく生きる3人家族と、
ちょっぴりお茶目な庭師3人の掛け合いが微笑ましいです。
この小説の魅力はずばり、「現実に起こりそう」と感じさせる設定の
数々です。
たとえば、登場人物たちが活用する近未来的なデバイスやシステムは、
現代にすでにあるものにとても近しいです。
AIの家庭教師にスマートウォッチ、監視役のドローン等――。
それらによって、よりこのストーリーが子どもにも大人にも馴染みやすく、
身近なものであると感じさせられました。
現実世界との類似点をいくつも含めているからこそ、
政府に監視された社会の怖さや、
現実にもそういうことが起こるんじゃないかという危機感も湧いてきます。
里宇や早久は、父親と母親がもともと政府のやり方に
反感を抱いている記者という家庭で育ったこともあって、
学校や地域社会、そしてしまいには政府相手に反発運動を起こします。
母親の由阿(ゆあ)と3人で、カザアナの不思議な力を借りて
一つ一つの問題に立ち向かっていく姿は、どれも爽快で、
ちょっぴり笑えるものでした。
子どもでも読めるぐらいに軽やかな勧善懲悪ストーリーですが、
「おかしい、間違っている」と思ったことに対して、
自ら行動を起こす大切さや勇気を大人にも伝えてくれる作品でした。