これからどうやって食べていけばいい? ~デンマークの農家さんに聞くこれからの食べ方~
環境への配慮が高い国として有名なデンマーク。
一方で、この国の食分野は日本ではあまり知られていないのではないでしょうか。
そこで今回は、デンマークの食に関する取り組みをデンマークのロラン島に住むニールセン北村朋子さんと、実際にデンマークで農業を行っている方に生中継でお話を聞いてきました!
今回参加したのは連続講義形式のイベントです。詳しくはこちら↓
生産者の方や、自分が口にするものについて考えてみたいという方にとって新たな視点が得られる内容になっていると思います。ぜひ、これからの作り方・食べ方の参考にしてみてください。
エネルギーの次は、食の改革
再エネ先進国のデンマークでは、2030年までに70%の温室効果ガスを削減することが2020年の議会で決定しました。(1990年比)
これを受けてエネルギー分野同様、食の分野も温室効果ガス削減のために変えていこうという動きが始まっています。
一方で、食はすごく身近だからこそ地味だし、私の一回の食事を変えるだけで環境にいい影響を与えられるんだろうかと、自分の影響力の小ささを感じてしまうこともあるかと思います。
実際に私も「わたしが気を付けても、地球に対してあまり力になれないんじゃないか」と考えてしまい無力感を感じてしまうことがあります。
一方デンマークでは、温室効果ガス削減の目標を達成するためにはエネルギー分野の取り組みだけでは間に合わず、毎日の食事をどう食べるかも非常に重要だということで、2020年夏に温室効果ガス削減のために食べ方の提案リストが紹介されました。
デンマーク・気候エネルギー省と環境食糧省による「食いしん坊のための気候変動適応ヒント22」
直接的に気候変動や食糧生産に大きな影響を及ぼすことの一つが牛など大型家畜の飼育。温室効果ガスの排出や、水・飼料用穀物の大量消費などの問題があります。
そのため今後は、魚介類やチキンを食べ、極力牛・豚・羊を食べる量を減らしていこうという方向性が示されています。
その他には、
「旬のものを食べよう。」
「根菜を使った伝統的な料理を見直してみよう。」
「冷蔵庫の中身で、どれだけ美味しいものが作れるかゲームをしてみよう。」
などなどだれでも気軽にできるような取り組みが、かわいらしいイラストと短い文章で提案されています。
政府が「こういうふうに食べよう」と提案しないといけないほど、地球やばいんだよ。という報道の仕方でテレビや新聞をはじめとするメディアで一斉に取り上げられました。
ニールセンさんによると、デンマークで知らない人はいないというほどの浸透ぶりだとか。
世界の1割が飢餓状態
実際にどれくらい世界の食の現状は、危機的状況なのか知っている方は少ないのではないでしょうか。
現在、地球上で飢えている人は6億9千万人。世界の人口の約1割を占めています。
さらに2050年までには世界の人口は90億人になる予想で、状況はさらに厳しくなることが容易に想像できるかと思います。
ちなみに現在の世界の人口は、約76億人(※1)です。
※1 WHOによる2020年版の世界保健統計(World Health Statistics)参照
では、今までのように食べ物が余る地域と、食べ物が足りない地域が存在する状況を減らしていくためには、わたしたちは今後どうやって食べていけばいいのでしょうか。
その答えを探るためにここからは、デンマークのロラン島でシェフ兼野菜農家のAsgerさん(以下、あすかさん)の生中継ゲストトークの様子をお伝えしていきます。
Asger Lünekilde Knudsen
27歳。シェフとしてコペンハーゲンのレストラン56°に10年勤務した後、現在は独立し、ロラン島のSøllested農園内のDen Grønne Verden(The Green World)レストランのシェフ兼野菜農家。
イベント当日は日本人参加者が質問し、ニールセンさんがデンマーク語に訳しあすかさんが答え、それをニールセンさんが日本語に訳すという形式でした。
現場で手を動かしている海外の方の話を直接聞けることはすごく貴重な機会だと思います。
また、全くわからない言語を耳にする機会は普段ないので、参加者のみなさんがニコニコしたり、少し戸惑いながら日本語に訳されるのを待っている状況も新鮮でした笑
お父さんが2005年から始めた農園で、現在働いているあすかさん。
お父さんが子供のころは、家族分以上の食べ物を賄える家庭菜園をやっており、当時の街のあり方や人とのつながりは健康的で心地よかったとのこと。
そういった背景があるなかで、金融危機など経済状況が変わっていくのであれば、「もう一度健康的な社会をつくるために、自分から変わろう」と決心しました。
現在その意思を引き継いでレストランのシェフ兼農家として活動しているあすかさん。
そんな現場で活動するあすかさんは、人口増加や気候変動による食糧危機が起こるかもしれないこの地球の未来をどう考えているのでしょうか?
参加者からの質問にあすかさんは、このように答えてくれました。
食べる私たち、作ることができる私たちが作る人たちを全力でサポートしたり、自分たちの手でほしいものを作っていくことが大事。
スーパーには多くの外国から輸入された食べ物があるけど、それを作った国にはお金が入る代わりに、食べ物としての役割を果たせない状況が生まれてしまいます。
自分たちが暮らす土地で育てやすい作物は何なのか?
都市部でそういったものを作れない人にどのように新鮮なままお裾分けできるか?
考えていく必要があるとのことでした。
特に食べ物が食べ物としての役割を果たせないという状況があるということが、私にとって新鮮な視点でした。
作り手として自分は何を作っているのか。
誰のためにそれを作っているのか。
食べる側として、自分は何を口にしているか。
まず、自分の行動や目の前のモノを観察することが大事なのではないでしょうか。
お互いが見えるから、ムダが減る
あすかさんの農場では直売所を併設しており、野菜を買いに来るお客さんと直接話し、野菜の調理方法や保存方法を伝えています。
直接販売することで作りすぎないように調節することができるのです。一方スーパーを通して販売すると、多めに作って余ってしまう状況が生まれやすくなってしまいます。
たしかに、仲介する人が多ければ多いほど、余裕を持つために多めに用意しておこうと考えてしまいますよね。
お互いに観察できる距離感にいることで、作りすぎたり、食品をムダにすることが少なくなるのではないでしょうか。
最後に、あすかさんから日本の参加者に向けてこんなメッセージをくれました。
周りにいる農家さんや動物が幸せな状態かどうか、厳しい目で見てみてください。
自分が買う食材にも厳しい目を向け、本当に大地が喜ぶ育て方をしている人から食材を買えているか?
そういう人を支援できているか?
日常のなかで気にしてみてください。
そして自分で作ることができるかどうか考えて、ぜひ自分自身で野菜を作ってみてください。
(イベントの紹介はここまで)
いかがだったでしょうか?
具体的にこんな食材を買って、こんなふうに食べたらいいんだよというような答えはありませんでしたが、自分が作っているもの・食べているもの、自分の行動を観察してみることから、自分なりの食べものとの付き合い方を探っていけるのではないでしょうか。
自分の身体の状態も、社会の動きも変わり続けるものなので、特定の作り方・食べ方に固着しすぎずに時々でも食べものに向き合ってみることが大事そうです。
ちなみに、今回参加したイベントは連続講義形式で単発での参加もできます。次回は、教育&家族をテーマに、デンマークのジャーナリストで、ホイススコーレマガジン・Højskolebladet 編集長のSofie Buch Hoyerさんからお話しをお聞きします。
気になった方は、ぜひこちらから確認してみてくださいね。
https://nielsen-folkehojskole.studio.site/