#それでもスポーツで生きていく・#3
スポーツ界の『生きづらさ』と自立への道筋
連載第3回。今回は下記《日本スポーツの自立を阻む5つの要因》の3つめ、スポーツ界の組織が上意下達の「ピラミッド型」です、というお話です。
≪ 日本スポーツの自立を阻む5つの要因 ≫
1.日本のスポーツ界は本当に「稼げません」
2.「やりがい搾取」が横行しています
3.組織が上意下達の「ピラミッド型」です
4.「経営上層部がサロン化」しています
5.現場からの「叩き上げ経営トップがいません」
スポーツ界の「上意下達」について
実のところクラブやリーグ、協会によって組織形態はまちまちなので、一概に括って話すのは暴論かもしれません。
しかしながら、スポーツの企業文化、いや産業文化とでもいいましょうか?「体育会特有の上下関係」。これが非常に強い世界、ということには、あまり異論はないのではないか、と。
過去の投稿に少し書いたけれど、僕は高校から文化系の部活に入り、小学生の頃からやっていた野球を辞めました。理由は硬球になること(ヘタレ!)と、厳しい上下関係が苦手だから。
( 体育会系の悪しきしきたりの軽い被害に遭遇した記憶は中学時代に1、2度程度ですが、文化系の自由な空気のほうが肌に合っていました。)
それでも好きを追い求めたら、いつの間にか気づいた時には、この体育会色の強いスポーツ界に身を置いていました。比較的優しい方々には恵まれましたが…
「統制の強い組織」に身を置くと人は病む
これも、自分を殺し切ってポチになる生き方が身に染みている人には全く当てはまらないと思うのですが、一般に「統制の強い組織」に属するほど、人は足腰の強さを失い、自立した生き方ができなくなります。
そして、強いもの、現実の苦しさを忘れさせてくれるものに依存するようになりがちなのです。
これは、うつ病やアダルトチルドレン(AC)の病理とよく似ています。反抗期もなく親の期待の範囲内で人生を演じる子が、社会に出て、自立した立ち振舞いをすることができず、適応障害に陥っていく。
家父長制的な上意下達の組織に身を置くこと、( すべてがダメとは言わないし、皆がダメになるわけではないのだけれど ) 高リスクではあります。
( ※写真 : 甲子園博物館にて。かつての甲子園のスター桑田真澄氏も、高校球児時代に受けた様々な理不尽を著書『野球を学問する』のなかで懐述しています。 )
スポーツ界の典型的な経営組織
僕は、2013年にスポーツマネジメント系の大学院に通った際、スポーツ経営学のなかでも、特に経営組織論に関心をもち学んでいました。
先行研究を学ぶ過程で、当時のスポーツマネジメント、スポーツマーケティング関連の書籍は大概目を通しており、概ねスポーツビジネスを行うプロスポーツクラブが、標準的に以下のような組織で運営されているものと、整理しております。
( 出典 : 自らの修士論文『スポーツ組織におけるビジネスオペレーション』より )
プロスポーツ組織は、最も意思決定の権限を持つオーナーを頂点に、全体を統括する球団代表のもと、事業の収益を上げるビジネスオペレーション組織、競技の結果を出すチームオペレーション組織により成り立っています。
理念を形にする機能である現場に多く人数を割く組織ですが、オーナーや球団代表の意思決定がワンマン的になる危険性を孕んでいる組織でもあります。
アマチュアスポーツ組織は、当時はあまり検討していなかったのですが、昨今色々出入りさせていただくなかで見えてきたのは以下のような組織です。
( Googleで「スポーツ 協会 組織図」と検索したところ、僕の地元・豊田の隣、岡崎市体育協会の組織図が出てきました。典型的組織形態と思います。 )
公益で事業を行う関係で、意思決定を合議で行うからか、トップに人員が厚い組織図になります。
評議員だけでも数十人、理事会メンバーも十数人、という組織が多いのではないでしょうか。ここで決まった方向性を実現する事務局は、多くても10人、少ないと1~2人ということもザラだと思います。
アマチュアの場合、人数比率が「逆ピラミッド」になる、というイメージはありますが、いずれも意思決定のパワーは純然たる「ピラミッド型」と言って良いでしょう。
こちらの組織の場合、事務局や各委員会の業務に、役員は口は出すけど、手は一切かけません。大会本番になると冷房の効いた本部室に大会役員が入り浸る「寄り合い」が形成されるのが、典型的な組織の姿となります。( 厳しい物言いで恐縮致します。)
「ピラミッド型」組織の弊害
プロスポーツ、アマチュアスポーツ、いずれの組織であっても、末端の現場戦力は、上層部の風見鶏になりがちです。
プロスポーツ組織では、オーナーや球団代表の意向次第で、構成メンバー自体を粛清し、入れ替えてしまうケースも多々起こります。ある上層部の元で、能力を存分に発揮していた人が、トップの交代と共にパワーを失うようなケース、過去に何度も見てきました。
アマチュアスポーツ組織に多く見られる「合議型ピラミッド組織」の場合、いつまでたっても業務の仕様が定まらず、実行段階になっても、細部がうやむやのまま進行し、結果ぶっ壊れていく。そんな経験をお持ちの方、僕以外にもいらっしゃるかもしれません。
スポーツの運営組織は、概ね古いので、上記2パターンのどちらかで、だいたい説明がつく気がします。
どのような組織が望ましいのか
一般の経営学でも、「ピラミッド型」vs.「ネットワーク型」というような議論や、最近では『ティール組織』と言われるような画期的な経営手法が議論されています。
スポーツ界でも、サッカーJFLに所属するFC今治・オーナーの岡田武史氏のように、『ティール組織』の手法を参考に経営に取り組んでいる例もあります。
メモ不要。読めば思考が走り出す本
(岡田武史:今治.夢スポーツ)
|英治出版オンライン @eijionline|note(ノート)
僕は、まだスポーツ界の経営者が、スポーツ組織を運営する際に、どのような末端業務で全体が成り立っているのか、あまり理解が充分でない状況で経営をされているような印象を持っています。
スポーツ組織末端の業務連関の最大効率化が、組織成長の鍵、と個人的には思っているのですが、こうしたスポーツ界への提言は、後々整理してお伝えしたく考えています。
今は、さわりだけお伝えし、次のテーマ「経営上層部がサロン化」のお話に移っていきます。
スポーツエッセイスト
岡田浩志