ワイナリー訪問記「勝沼醸造(山梨県・甲州市)」
山梨県・甲州市にある「勝沼醸造」へ訪問しました。
全国の特約店約140店のみと限定流通をするワイナリーで、代名詞でもある「アルガブランカ」は、ブランドコンセプトでもある「変なワイン」を表現し、甲州の可能性を超越した白ワインを造られています。
勝沼醸造について
「勝沼醸造」は家族経営をされており、日本のワインで初めてEU諸国へ輸出されたワインを手掛けるワイナリーです。
1937年に勝沼の地で、初代が製糸業を営む傍らワインの個人醸造を手掛けたことが始まりでした。
創業以来「たとえ1樽でも最高のものを」という変わらぬテーマのもと、ぶどう栽培から丁寧なワイン醸造を行われています。
現在は、初代の3人の息子さんたちが「勝沼醸造」をより飛躍させるための様々な取り組みを行われています。
長男ひろたかさんは、醸造責任者で「父の夢が実現するようサポートしたい」と言われていたことが印象的でした。
二男の淳さんは、営業担当で「ワインの中にはストーリーがあり、それを買ってもらっている」と言われており、伺った当日のテイスティング時にもたくさんのお話を聞かせていただいたのですが、それぞれのワインが持つオリジナルストーリーが大変魅力的でした。
三男の翔さんは、ぶどう栽培を担当しています。ネゴシエーションにこだわり「テロワールをいちばん知ってるのは農家さん」というリスペクトの思いのもと、自社畑を持ち始めてはまだ30年とのことで、すべて有機にこだわって栽培をされています。
テラス席でのテイスティングも可能で、ぶどう畑を見渡しながら最高の時間を過ごせますね。
ワイン畑見学
ワイナリーから徒歩5分ほどのところに自社畑があり、案内していただきました。
5月末に結実(果樹が花を咲かせ、実を結ぶ過程)
8月上旬にべレゾン(果実が色づき始める)
ここからは、昼夜の寒暖差でぶどうに酸を与え、病気との闘いでいちばんデリケートな時期に入るのだそう。
9月頃に収穫に差し掛かりますが、台風シーズンと重なることから、見極めが最も神経を使うと言われていました。
台風のルートを見ながら収穫を前倒しすることもあるが、若い状態で収穫すると酸度が高くなり、台風後に収穫となると、ぶどうに水分が滞留するため糖度が下がる(水っぽいぶどうになる)ため慎重な判断が必要とされます。
アメリカ・カリフォルニア州のナパバレーなどになると、反対に降雨量が0のため、水を撒いている真逆の生活であると伺い、大変興味深かったです。
木の本数=世話の数であることから、1本の木から300房ほどだったのを200房程度に減らして、よりひとつひとつの果実に注視した栽培を行っているそうです。
創業者の想い
「勝沼醸造」で話を伺って印象に残ったことはたくさんありますが、その中でも初代の「描いた夢は叶う」という言葉が大変心に残っています。
叶った夢のひとつめが甲州ワインを「NOBUにおいて欲しかった」です。
一流のレストランに選ばれるワインを造りたい。その思いがオーナーシェフ松久氏に届き「勝沼醸造」のワインが、ワインリストにラインナップされるようになりました。
2013年にロンドン、2014年に香港、2015年にNYなど、世界各国の「NOBU」で「勝沼醸造」のワイン会が開催されています。
次に叶ったふたつめの夢が「リーデル社に甲州用のワイングラスをつくってほしい」 ということ。
こちらについても「お願いだから来て……!」と願っていたら、ある日ふと訪れてくれたのだそう。現在「勝沼醸造」の2階はリーデルグラスギャラリーとなっており、様々なリーデルグラスが展示されているほか、テイスティングルームとしても開放されています。
テイスティング
ここからはいよいよお待ちかねのテイスティングです。
なんと今回テイスティングで使用させていただいたお部屋は、何度もこちらへ伺っているコーディネーターさんも初めて入りました、と言われていたワイナリー横に立地する和室のお部屋。
なんとも贅沢な気持ちでゆったりとテイスティングをさせていただくことができたことに感謝の気持ちでいっぱいです。
テイスティングの順番は「和食のコース」をイメージされており、これがまたユニークかつ素晴らしいご提案でした。
2023 アルガ・ブランカ・クラレーザ
こちらは「和食のコース」でのポジションだと”お椀”
勝沼シュールリーというスペックで、幅広い食事に合い、究極の日常酒として「何か困ったらクラレーザ」と思ってほしい、とのこと。
果実味が豊富で、白い花の香り。甲州を楽しむきっかけとしても最適なワインだと思いました。
そして「合わせてみてください」と提供くださったのは、なんと茅乃舎のお出汁!
前述のリーデル社の甲州専用のグラスに変えていただくと、酸の質感がなめらかに、よりまろやかになり、うまみの広がる印象がお出汁と驚くほどのマリアージュでした。
また、ニンニクたっぷりの餃子との相性もやばいですよ、とありがたいアドバイスもいただきました。
和食のみならず、中華とのペアリングも楽しめる究極の甲州に出会えました。
2019 アルガブランカ・イセハラ
「勝沼醸造」で他社に先駆けて、冷凍果汁仕込みから造られる白ワイン。
2019年は気候の影響から、収穫を早めたため酸が高い印象で、もう少し熟成させてもよかったとのこと。ピーチやライムなどの重厚感ある香りの奥に、ハッカの印象を受けました。
2022 石塔
こちらは、ショップ限定の甲州ぶどうから造られる白ワイン。
比較的なだらかな平地である、甲州市・塩山(えんざん)でとれたぶどうを、ホールバンチプレスすることによって、果実本来の重さもあり、リッチな香りを残しています。
2022 アロマティックボム
契約農家さんである、三森さんの畑からとれたぶどうを使用し、現在は三男の翔さんが栽培に携わっているそうです。
スワリングするごとに華やかになっていく、ファーストノートはグレープフルーツ、その後だんだんと華やかなライチのような香りに開いていく印象を受けました。
2016 / 2019 アルガブランカ・ピッパ
最後にいただいたのは、ヴィンテージの違いでこんなにも味わいが変わるのか、と驚いたアルガブランカ・ピッパ。
シャブリの上級クラスやマコンを彷彿とさせる、酸の膜が取れて、果実の甘みやとろみがでている印象。大きなグラスでゆっくりといただきたいと思いました。樽発酵から瓶内熟成を経てリリースされることから、酸が馴染みなめらかな印象を受けました。
贅沢に2016と2019を飲み比べ。やはり、熟成の長さからくるリッチさを2016年からは感じ、まだまだ今後の熟成の楽しみを2019年に感じました。
まとめ
「勝沼醸造」では、合計6種類のテイスティングを楽しませていただきました。ちいさなワイナリーだからこそ、おひとりおひとりの方へ丁寧にワインについて伝えたい、その思いがひしひしと伝わってくる素晴らしいワイナリーでした。
ワイナリーツアーも、直営レストランでの食事付、スタッフによる説明付き、ワインサーバーからのスタンディングテイスティング、と好みに応じて3種類から選択することが可能です。
今後の課題としては「エイジングワインをどう扱うか」がキーワードだそうで、これからの3兄弟の挑戦がますます楽しみなワイナリーです。
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