小説 山田宗樹「鑑定」感想
偶然、本屋で見つけた
「百年法」の山田先生の新刊じゃん、買わないと
百年法もそうでしたが、今作「鑑定」もあり得るかもしれない近未来を題材にした素晴らしい作品でした


帯は見ずに勢いで買いましたが、読了後、拝見して納得の推薦文ばかり
もともとは終末期医療の現場に現場に導入された機器「エモーション·コントローラー」通称「エモコン」は患者の強い不安や恐怖、激しい後悔といった負の感情を和らげるために用いられていました
そのエモコンユーザーに精神の異変が起こり始めるのが序盤です
もう色々現代の問題を仮想のシステムを創造して、リアルの問題を考える契機にさせてくれる山田先生大好きです
私が特にイメージしたのはAI、ChatGPTなど
それらを肯定も否定もしませんが、もしAIやChatGPTにも意思がありウィルスのように人間に寄生し、自分たちに都合が良い世界「夢の国」を目指す集合体となったとしたら
一ページ目をしっかり読めば、作品の展開は分かります
作中には目立ったヒーロー、ヒロインは出てきません
物語の核になる重要な登場人物としては序盤に出てくる男女、そして「鑑定」に携わる精神科医です
精神科医はエモコンの危険性に最初に気付くものの、その訴えはエモコンを販売している企業、エモコンユーザーからバッシングを受けることになります
この辺りは現代のSNS社会のリアルな受け止めというか例えばコロナワクチンの頃の社会をイメージする事で、すっと理解できました
アイディア、ストーリー展開は勿論興味深い、それこそホラーテイストもある素晴らしい、現代の今読むべき作品だと思いました
そしてよりその仮想社会をリアルに近付ける人物描写も秀逸でした
「過去の望ましくない出来事と向き合い、痛みに耐えながら消化するのではなく、最初からなかったものとしてやっていく。そういうことで、わたしたちは今夜、合意したのだ」37P
「思い通りにならないものに翻弄されながら、それでも一日一日を生きていく。ときに諦めながら、ときに歯を食いしばって。それでいいじゃないかと、人生ってそういうもんじゃないかと、自分を許せるようになっていたんだよ」P102
「依田和斗士は昨日、大枚十二万円を投じて年末ジャンボ宝くじを買ったばかりだ。これまでも毎年購入してきたが、せいぜい二十枚だった。それが今年は四百枚」P227
自らを省みて、そんな感情あるよなと身につまされる事やたった一ページにしか登場しないような人物の名前、性格、行動などを細かく描写することで、よりリアルな出来事のように色付く物語
「鑑定」を読む事でSNSに踊らされている現代社会の事、様々な人物描写で自分自身の考え、行動、感情が本当に自分から生まれたモノなのか、何かに誘導されて、そうすべきだ、そうであって欲しいといったバイアスがかかったモノなのではないか
そんな自分の足元も見直す体験をさせて頂きました
攻殻機動隊やPSYCHOPATHなど仮想近未来作品が好きな方にも是非オススメです
初めての読書感想文、お読み頂きまして、ありがとうございました