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万年床から見上げる、嫌になるほど知っている天井と記憶の片隅にあるあの部屋。
「休みが欲しい」とは言ったが、こういうことではない。顧客が本当に求めていたものに対してかなり大雑把な回答が来たような気分だ。
例えるなら「カレーが食いたい」と言ったのに「カレー以外禁止。カスタマイズも不可」と伝えられたようなものだ。いや、多分この例えは全然正しくない。正しくもないし、面白くもない。
つまるところ、「休みたいな」とは漠然と思っていたがこんな形で強制的に休まされるとは聞いていないぞ、といった主旨のことを言いたいのだ。
無論、症状が出てから数日-具体的には2日間半くらいはそんな事を考えるヒマすらなかった。解熱剤が切れたら辛くて目が覚めて、一応体温を測ってからまた解熱剤を飲み込んで眠る。
全身が痛くて、とにかく何もできないため、ひたすら寝て過ごした。
目を覚ましている間の少しの時間、限られたエネルギーをなんとか必要な連絡に回して、スポーツドリンクを一生分飲みながら耐えた。
それも発症から4日程経てばまあまあ落ち着いては来るもので、幸い熱も収まりのどの痛みも殆どなくなった。完治とまでは言えないものの、それなりに元気ではあると思えるほどには回復した。
初日と2日目で減った体重も今度は食欲と共に回復傾向で、ましてやどこにもいけない身分では消費するエネルギーなど雀の涙。体重計とは一旦距離を置くことにした。
しかし、元気になるといよいよどうすればいいのか分からなくなってしまった。棚から湧いた10日-もとい既に残りは6日程-の休みを、どうにもできず持て余していた。
溜まったドラマ?映画?アニメ?本?たくさん消費したかったものはあるはずなのに思ったようには進まず。
外に出かけてしまいたいのにそれができないもどかしさが部屋中をぐるぐると回っていた。
「もしかして自分は出かけるのが好きなのか?」という疑問を抱くほど、外に出たくなってしまった。
しかし、そこでふと思い出す懐かしい記憶たちがドアをノックして自分を現実に返す。
今の家のドアじゃない。昔-小2から大1まで住んでいた家の、自分の部屋のドアを叩く音が聞こえてきた。
そうだ。自分はずっとこうだった。目立った友達もおらず、外に出る用事もなく、長期休みはずっとあの部屋でコソコソと1人時間を潰すだけの日々を過ごしていたんじゃないか。
幸せなことに今は休みを作っても会いたい人たちと色んなところへいったり、楽しんでいるが、僕の根っこはきっと未だにあの部屋から出ることができないでいる。
一瞬で過ぎ去る日々の中で、立ち止まったような気がしていても、気づけばもうすぐまた激流の中に飛び込まなくてはいけない時が来る。
あと2日だけ、与えられた猶予をあの頃の自分に返上するように体を起こす。どこにも行けないなりに、できることはあるさとカーテンを開けた。