あの柵を飛び越えて
久々に目の前のことに感動した。知らんサークルの、知らんバンドの、知らんカバー曲なのに。
日々色んなライブを見ているわけだけれど、こんな感情になったのは久しぶりだ。もちろん、毎日のライブでもテンションは上がるし、楽しいと思う瞬間だって沢山ある。
でも、今日のはなんだか別格だった。
帰り道、早速カバーされていた曲のオリジナルを聴いてみる。こんなことを言ったらアーティストに失礼だけど、なんだか物足りない。さっき聴いた知らん人の歌の方が、どうやら響いてしまっている。
もちろん、好きなアーティストのライブに行った時には僕も感動する。それはもう、しっかりと。
でも、それともまた違うんだ。なんというか、この一瞬、この瞬間に何かを懸けているような、そんな気がしてならなかった。
カバー曲で、しかもセトリは2曲だけなんて状況でこんなに感動することなんて、滅多にない。いや、今までで一度しかない。今日が2度目だ。
1度目は中1の頃。『誕生日会』なるイベントで、物心がついてから初めて目の前で汗だくになりながら歌う人間を見て釘付けになった。
5歳も歳の離れた先輩の歌が、息をする間も無く突き刺さったのだ。
あの時も同じだった。オリジナルよりも先輩のカバーの方が力があった気がしてならないのだ。
僕は未だに、先輩と僕らを隔てていた柵(正確には手すりのようなものだけど)の向こう側を目指している。いつまで経っても越えられなくて、見るたびに高くなっていくその柵はきっと思い出の中でさらに美しくなってまたその背を伸ばすだろう。
それでも、いつの日かあの柵を飛び越えていきたいと思った。
今日、それを目の当たりにしたのだ。彼女らはいとも容易いかのように軽々と飛び越えた。
終わった後に、つい声をかけてしまった。
「めちゃくちゃよかったですね」
お世辞でない、本心だ。
「最近見た中で1番です」は流石に周りに申し訳ないので慎んだ。
「いつかそっち側に行きたいです」とは口が裂けても言えないが、心の中で唱えておいた。