パティシエとしての「ものづくり」と、企業の「商品開発」の違い
皆さん、ページを開いていただきありがとうございます!
株式会社MiL商品開発部のパティシエ菊地 俊輔(きくち しゅんすけ)です。
元々ウェディングケーキを作るブライダルパティシエだった菊地が、どうして今ベビー・キッズのお菓子を開発しているのか・・・前回は自己紹介も兼ねて、まずは経歴をお話させていただきました。
前回の記事はこちら。
今回はパティシエとしてのものづくりと、企業における商品開発の違いをお伝えしたいと思います。
「ものづくり」と「商品開発」の違い
みなさんはパティシエの仕事と聞くと、どのようなものを想像しますか?
一般的に、メニュー開発や、日々のデザートやケーキの仕込みと提供などが主な業務ですが、ブライダルパティシエ時代には、式に合わせたオーダーケーキの打ち合わせもありました。
その他にも、スタッフ同士でのミーティングや、材料の発注、キッチンの清掃など、主業務に付随する形でさまざまな仕事があります。
こういった毎日を繰り返す中で腕を磨き、精度を上げ、より良いお菓子をお客さまに提供できるように努めています。
みなさんが思い描く「パティシエの仕事」と大きな違いはなく、イメージ通りではないでしょうか。
では、現在のベビー・キッズの商品開発ではどのような事をしているかを紹介します。
商品の企画を立てるところから始まり、商品化してもらう工場や納得のいく原料を探し、工場と二人三脚で試作品の調整をしながら、栄養分析、包材の決定、製造スケジュール管理や品質管理など、業務は非常に多岐に渡っています。(全て一人で請け負うわけではなく、各分野に精通しているチームメンバーと一緒に商品を作っています。)
各工程ごとに膨大な量の調整と打合せがありますし、常に想定外の問題が起こるので、何度も経験と思考をフル動員させて壁を乗り越え・・・ようやく世の中に商品を送り出すことができます。
出せば終わりかというとそうではなく、製造ごとに必ず試食をして、問題がないかを確認しますし、改善点があればまた一つひとつ向き合い、より良いものを届けられるように、ずっと商品と伴走をしています。
(商品開発や品質管理だけでなく、パッケージをデザインするクリエイティブチームや、どこでどう手に取ってもらうかを考えるマーケ、取扱店の開発をするセールス、商品を確実に届けるためのロジチームなど、他部署と連携して初めて販売ができます。)
商品開発は、ブライダルパティシエ時代にやっていた新メニュー開発の延長線上にあると思っていましたが、蓋を開けてみると全くの別物でした。
自分の手元で作り、目の前でお客さまが食べている姿を見て、フィードバックはレシピに即座に反映できるパティシエとは違い、企業における商品開発では、作り手も自分ではなく製造工場ですし、全国で販売され、僅かなレシピ変更でも、さまざまなステップを踏む必要があります。
よく考えれば分かるようなこの違いを、しっかり認識せずに転職した菊地はさまざまな壁にぶつかり、その結果たくさんの気付きを得ることができました。
アイディア重視のパティシエと、ニーズ重視の企業
ブライダルパティシエ時代の新メニュー開発の要は、アイディアそのものです。時期やイベントごとに新しいメニューを考えるのですが、その考え方はいわば自由です。
「時期×環境×店のブランド」に合うスイーツを自分というフィルターを通して、どう表現するか。
もちろん何でも良いという訳ではなく、自由の中にもさまざまなロジックや自分なりのルールがあります。時期ごとの新メニューであれば旬のフルーツを使ったり、イベントごとであればそのイベントの内容にあったデコレーションを考えるのが基本です。
それらの基本に加え、レストランであればコース内の他の料理との調和、パティスリーであれば全体の商品バランスを取りつつ、他にはないアイディアでオリジナリティを出し、いかに五感を刺激するかが肝になってきます。
(余談になりますが、日常生活で唯一五感を同時に刺激する行動が食事です。視覚=色・形・デザイン・プレゼンテーション、嗅覚=香り、聴覚=調理音・咀嚼音、触覚=舌触り・口溶け・温度、味覚=味で構成されます。ここを深掘りすると長くなってしまうので今回は割愛。)
前置きが長くなってしまいましたが、要はパティシエの新メニュー開発は自由なアイディアを基にオリジナルでおいしいものを作るのが大切であるということ。
とてもシンプルですが、「ものづくり」のベクトルはお客さまに向いていると同時に、表現者である自分にも向いていると思います。
(パティシエとして優秀な方は、ここのバランス感が優れている or 圧倒的なカリスマ性でベクトルが100%自分でも成立するタイプが多い気がします。)
一方、企業の商品開発における企画について。
パティシエの新メニュー開発は自由な着想を元に表現するアイディアであるのに対して、企業での商品開発における企画には明確な目的があり、綿密に計画を立て商品を生むわけですから、ニーズの理解と分析が非常に大切です。
どんなにオリジナリティの溢れるおいしい商品を作っても、市場や顧客のニーズと合っていなければ、それは商品企画開発として正解とは言えないです。商品開発のベクトルはあくまでも市場や顧客にのみ向いているべきなのです。
ニーズの理解と分析が要となる理由のひとつに、市場や顧客層の幅の違いがあると思います。
レストランやブライダルでは、来店されたお客さまに満足していただけるようにアプローチするのに対し、メーカーとして作るベビーキッズおやつは全国の小売りや自社ECで販売されるため、子どものおやつにどういう課題があって、何が求められているのかを知るところから始まります。
また、ターゲット層を考えても、食べるのは赤ちゃんやまだ小さな子どもなので、繊細な調整が必要です。
調査と分析によって、ニーズを洗い出し、よりピンポイントに商品の核を絞っていくことが商品企画の第一歩として最も大切なのだと学びました。
調査と分析方法の差異
もちろんレストランやブライダルパティシエでも、メニュー考案のための調査や分析は行いますが、どちらかといえば、提供後の改善スピードがものをいう世界です。
コース料理のレストランデザートであれば、開発段階で料理長やソムリエや支配人に味見をしてもらってフィードバックを得たり、新メニュー提供後はお客さまの反応を見たり、直接感想を伺ったりします。
いただいた声は即座にレシピに反映され、翌日には改善されたデザートが提供されます。即座に対応できるからこそ精緻な調査や分析は必要としてないのかもしれません。
基本的に、顔が見える距離感にお客さまがいるので、提供範囲こそ狭いですが、狭いからこそ小回りが効きます。
現在の会社に移り、開発における調査や分析対象の幅広さと深さ、慎重さに驚きを感じました。
先に挙げた通り、直接顔を知らない多くのお客さまが相手になるということや、対象が赤ちゃん・子どもであること、工場を介した製造では即座に改善を反映させるのが難しいというのが、大きな理由です。
調査課題は、定量調査で全体的に広く傾向を知り、定性調査で個の理解を深めていきます。それらの情報を元に、商品の想定スペックを導き出し、さらにアンケートやインタビューでの分析を行っていき、商品が形になる前にニーズに合う想定スペックが絞られていきます。
こうして味や訴求だけでなく、商品名や価格、量目などさまざまなことが決定されていきます。
現場で働くパティシエを始め、料理人の友人たちに伝えたい。企業のマーケティング調査はスゴイ!と。
試作をする前から明確な商品スペックが浮彫りになっていくので、シェフやパティシエがマーケティングを覚えたらとても強みになると思います。
とはいえ、この想定の商品スペックに引っ張られ過ぎないようにするのもプロの務めなのだと、揺るぎない信念を持っている先輩シェフの姿を見て感じます。
調査や分析の方法などは自分自身もまだまだ勉強中なので、また別の機会にお話できればと思います。
今回はパティシエとしてのものづくりと、企業の商品開発の違いをお伝えいたしました。
また次回も、菊地が経験した商品開発での気付きと学び、苦悩を綴っていきたいと思います。
読んでいただき、ありがとうございました!