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余白が生み出す食品業界の未来:商品開発におけるイノベーションとリノベーション

こんにちは。株式会社MiL 代表の杉岡侑也です。

MiLは、2018年に創業し「the kindest (カインデスト)」という子育て家族に向けたライフスタイルブランドを展開しています。

今回は、事業や商品の開発に関する話をしたいと思います。



イノベーションの原点は、余白と遊び心

読者の皆様の中にも、新規事業、開発担当を担う方がいらっしゃるのではないでしょうか。

世の中に残り、語られ続けるような事業、ブランド、商品を開発し続ける人は一体どんな目線で仕事をしているのか?

今回は、食品業界の偉大なリーダー企業であるネスレへのリスペクトの意味も含め、元社長の高岡さんがよく使う二つの言葉の定義を借りて、整理してみたいと思います。


それは、「イノベーション」と「リノベーション」という言葉です。
定義に言及してみると、

イノベーション:
消費者が「解決できないだろうな(そもそも諦めてる)と思っている課題(想定範囲外)」を解決してしまうサービスや商品

リノベーション:
消費者が「解決してほしいなと思っている課題(想定範囲内)」を解決するサービスや商品

こんな感じです。

継続的に価値を出し続け成長する企業にはこの両輪が必要ですが、今の日本の食産業においてこの両輪をバランスよく回すことがいかに難しいかということを、私も日々身をもって体感しています。

商品企画において、顧客やマーケットのニーズを具体化するために行われる手段(インタビューやアンケートなどが該当します)は、基本的にリノベーションを実現するための手段です。

イノベーションを実現しようと考える場合、これらだけでは計画の立案や進行には限界があります。なぜなら、顧客が本当に求めている答えは、顧客がまだ知らない課題、言語化できていない課題だから。既存の手段ではなかなか見つけることができないからです。

人々がまだ気付いていない課題や欲求を満たす、驚きをもたらすような商品が登場する瞬間には、「これこそが求めていたものだった!」と感じることがあります。
世の中の常識を大きく変えるような飛躍的なイノベーションを生むには、何が必要なのでしょうか。

新しいテクノロジーやツールの進化、異なる業界や分野のアイディアの結びつき、ユーザーエクスペリエンス(UX)の再設計・・・さまざまな手段が考えられますが、私はその発想の全てのベースになるのは、「あったらいいな」と想像を掻き立てるような、純粋な遊び心だと考えています。


没頭できることや、夢中になれるもの。

そういったピュアなワクワクで耕された畑には、知らず知らずのうちにたくさんの企画の種が撒かれ、「あったらいいな」という想いの強さで、将来的に芽を出すのではないか・・・と。

王道とも言える、タスク管理をベースとするような逆算的な仕事の進め方からは、ピュアな着想をベースにしたイノベーション的商品は、残念ながら生まれにくいでしょう。

食品業界における開発担当はエース職種だと言われます。だからこそ真面目に目の前のタスクをこなし、スピードも精度も高く業務をこなすのでしょう。
ですが、イノベーションを生む仕事に通ずるのは、日々の業務の中から解き放たれ、いかにインプットや思考、純粋な自分の遊び心を仕事に持ち込む時間的な余白を作れるかと真剣に向き合うことだと考えています。

自分の好奇心や興味がかき立てられるような一次情報に触れ続ける中で、「あったらいいな」と思える何かを妄想し続ける時間が、イノベーションに繋がるのではないでしょうか。


ビジネスマンがイノベーションを起こすための、最初の一歩とは?

1つめ、ワイド画面タッチ操作の「iPod」。2つめ、「革命的携帯電話」。3つめ、「画期的ネット通信機器」。3つです。タッチ操作iPod、革命的携帯電話、画期的ネット通信機器。iPod、電話、ネット通信機器。 iPod、電話……おわかりですね? 独立した3つの機器ではなく、ひとつなのです。
名前は、iPhone。
本日、アップルが電話を再発明します。

これは、2007年、AppleがiPhoneを発表したときのスティーブ・ジョブズの有名なプレゼン(日本語訳)より一部抜粋したものです。

世の中に驚きを与え、受け入れられ、ユーザーの体験を圧倒的に変えていく商品を作るというのは、企画者にとっても会社にとっても、非常に魅力的なことだと思います。
そのようなイノベーションは一瞬で今までの常識を過去に置き去りにします。

では、ファーストステップとして、我々は何をすべきなのでしょうか?

日常的にオフィスや自宅で勤務している方々に、食品業界の一端を担う立場にいる私からの提案は、まずオフィスから出ること。机から、PCから離れること。

生産者と対話するために実際に現地へ訪れたり、商品が製造される場所に足を運んだり、全然違う業界の展示会に赴いたり。
自分の「当たり前の環境」から離れて世の中を見ると、私たちの感性を揺さぶる感動で社会は溢れています。
まずは個人の心の中に新たな風を吹き込み、多様な視点で事象をとらえる感覚を磨くことは、本当に大切だと思います。

イーロンマスクは「テスラは移動するAIだ」と言います。

テスラは自動車を作ったわけではなく、移動体験そのもの、車が提供する独特のUXにフォーカスし、今までの移動における当たり前の再定義にチャレンジした。
「車を造る」のではなく、車を使用する目的や、車がもたらす体験を問い直した。

車に乗る目的って何だっけ?車がもたらす体験って何だっけ?と、運転中の安全や快適さ、そして移動の方法そのものの抽象度を上げ再構築し、そこから、車のUXを根本から変える方法を考案することで、「ハンドルを持ち、前を見て自ら運転することが車移動である」という当たり前を覆し、全く新しい車(移動)体験を生み出したのです。

先鋭的なコンセプトカーとして話題を集め、高性能高級EVとして成功してきたテスラですが、車業界では新興企業でした。
異なる業界やバックグラウンドを持つ人々が、さまざまな業界における新たなテクノロジーを持ち込み、物事を新たな視点から見つめ、問い直す(抽象化する)ことで、革新的なイノベーションが生まるという例の一つだと思います。
(さらにイーロンマスクのビジョンである「テスラをエネルギー企業にする」という別次元の目標については、またどこかで触れたいと思います。)

おそらく、食品産業においても同じことが言えるでしょう。

ピュアな好奇心から「当たり前の状況」を疑い、従来とは異なるアングルから物事を考え、行動できる人材やチームが、新しいイノベーションを生み出していくのです。


MiLは食品業界に属しているため、食に関する興味関心やバックグラウンドを持つメンバーが多いです。
当然、彼らの持つ経験とアイデンティティは価値あるものであり、the kindestを推し進めてきた原動力そのものですが、一方で、「食べる」という行為がもたらす体験を、新たな視点や柔軟なアイデアから捉える必要性も強く感じています。

日々の業務に全力で取り組みながらも、今100%で向き合っている仕事から少しだけ離れて、別の角度から「食べる」という行為を観察するような、微風でも脳に新しい風が吹き込まれるような体験を繰り返すことで、新たな視点を養い、豊かなアイデアを生み出す土壌を耕してほしいと思っています。


私個人の話をすると、食の業界でキャリアを積んできているわけではないこともあり、今の業界で見ているもの全てが新鮮に映ります。

「食べる」という行為が持つ意味とは何か。常日頃考察していますが、食の目的は本当に人それぞれで、その多様性に非常に強い興味を抱いています。

ランチを例に考えてみましょう。

栄養的な訴求をしたようなプロダクトを好み、仕事をしながら片手間にとるランチは、「栄養摂取」という目的で行われています。
一方で、友人とたっぷり時間をかけてコースを楽しむ場合、食事行為に「エンターテイメント」や「繋がり」を求めています。

前者は生命維持、後者はエンタメやコミュニケーション。昼食として、同じ「食べる」という行為を実行していますが、全く別の目的と意味があるわけです。

このような多様性を持つ「食べる」に対応するため、世の中には無数のプロダクトが存在すべきでしょう。
ですが、小売業界では長らく大量生産と均一性が求められてきたため、細かいニーズに対応するプロダクトを提供することが難しくなっていたことを、過去の記事で言及しました。

多くの人たちが目的として持っている「食べる」にフィットするものしかプロダクトになりにくい現状があり、ニーズの一部しかカバーできていない状況です。
私は、この状況を変えていきたいのです。

多様な生き方が認められる時代において、食ももっと多様であっていい。それを支える食産業にチャレンジしたいと思っています。


本を読む、人に会う。
新しい世界に触れる入り口は意外と近くにありふれていますが、私が大切にしているのは一次情報に触れるということ。
レストランに行くことも、食材から自分で作ってみることも、その一つかもしれません。
(先日初めてバーミキュラでパンを作り、レシピのmlとgに翻弄される初歩的なミスで想像の斜め上をいくパンが焼き上がりましたが、そういう失敗自体も肥やしになっています。)


MiLが体現してきたイノベーションとは

MiLは設立から約5年半が経ちましたが、イノベーションをどれだけ生み出してきたかという観点で考えると、正直なところ2~3個程度です。

その中でも特筆すべきイノベーションは、the kindestというブランドそのもの。

MiL、the kindestブランドが提供しているのは「商品」ではありません。

ランチを例に挙げたように、多様性のある「食べる」目的も、離乳期の赤ちゃんを対象に考える場合、健やかな子どもの成長に繋がることが基本です。
その想いを実現するために、商品販売という「点」のお付き合いではなく、生後5ヶ月頃から1才半までの約1年間の離乳期を含む、赤ちゃんの命が宿ってからの1000日の食育期間を「線」と捉え、丸ごと寄り添う「サービス」を設計してきました。

the kindestが目指してきたのは、“離乳食を作る手間”を買っていただくのではなく、子どもの成長とともに変化する食課題に寄り添うサービス全般を購入いただくことです。

成長段階に応じた育児や離乳食に関連するさまざまな悩みに寄り添い、情報を提供し、ともに解決していく。
不足しがちな栄養素を先回りし提案し、成長に合わせてチャレンジしてほしい食材を家族に合わせて案内する。

このUX(顧客体験)を通して、子育て家族に寄り添う「サービス」を提供することを目指し、“物質的なもの”を売ることに全力を注いでいた食品業界において、売るべきは商品だけではない、サービスだ!と言い切ったことは、小さながらも大きな意味を持つイノベーションだと言えます。


MiLでは、ビジネスモデルそのものから疑う食産業のイノベーションを、まさに現在進行形で推進し続けています。
新しいモデルは理解が進むまで時間がかかることもあり、プレッシャーもありますが、遊び心を保ち、無駄を愛する組織文化を大切にし、イノベーションを継続していきたいと考えています。


最後に、食品業界の仲間たちに伝えたい。

無駄を愛そう。
脳みそを動かそう。
身体で感じよう。

そのために、必要な余白を作ろう。

日本の食産業で、たくさんのイノベーションを起こしていきましょう。


私たちは常識を疑い、新しい当たり前を作ろうとする仲間を絶賛募集中です。
当社の挑戦は続きます。引き続き、応援よろしくお願いします。


杉岡 侑也(すぎおか ゆうや)
株式会社MiLの代表取締役社長。1991年、大阪府生まれ。
二度の起業、EXITを経験した後、"自分らしい人生を食から実現する"を使命とし、フードテック×ウェルネスのスタートアップであるMiLを創立。世界を変えるイノベーターとして、Forbes 30 UNDER 30 Asia 2020、JAPAN両紙に選ばれ、日々奮闘中。

photo :著作者 Freepik

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