婚活と占いに何百万も課金していたら、ライターになっていた
「前世は、西洋の魔女です。魔女として恐れられていたあなたは魔女狩りに遭い、処刑されました。封じ込められた魔力を現世に持ち込んでしまったため、婚活は難航します」
私はただ、結婚したかっただけ。婚活を頑張っても思うような結果が出なかった私は、藁にもすがる思いで占い師の元を訪れた。
「いつ結婚できますか」と占い師に聞いただけなのに、返ってきた言葉は大変おぞましいものだった。魔力を追い払う方法について、インターネットで検索をする日々が続く。調べた情報によると、前世のカルマが災いとなり、現世の幸せを妨げる恐れがあるらしい。
恐怖におののいた私は、どうやら前世のカルマを鎮める効果があるらしいドリーン・バーチュー の「カルマリリーシングCD ~カルマの解放」というCDを購入し、毎日瞑想を続けた。
CDの説明によると、音楽を聴くことで過去生で受けた清貧、禁欲、受難の誓いを断ち切り、今生のトラウマや人間関係を癒すサポートを受けられるらしい。穏やかな音楽に耳を傾けつつ、ふと自身の前世を振り返る。思い起こせば私には、前世の記憶などない。
どうやって過去生に思いを馳せれば良いのだろうか。そもそも記憶のないものを消そうとしても、最初からそこに無かったものではないか。見えないものに思いを馳せるよりも、目の前にある現実を受け入れて一歩前に進むことが大事だと。自分でよくわかっていたはず。では、なぜそれが出来なかったのか。
私はただ、現実に目を向けるのが怖かったのだ。
占い師を頼ったのは、この時ばかりではない。他の占いにも足を運んだし、パワーストーンなどの怪しいグッズも大量に購入した。婚活は一向に進まないというのに、どんどん怪しい人になっていく。自分はどこに向かっているのだろうか。
3万円で購入したパワーストーンブレスレットを見るなり、ふぅと重い溜息をつく。パワーストーンの効果が感じられないと、新しいブレスが欲しくなる。そうやって幾多ものパワーストーンブレスを購入し続けた私は、より一層怪しくなっていく。
「また、新しいパワーストーン買ったんだ……」
腕に光るブレスを見るなり、友達は呆れた様子で顔を顰めた。心配させているのはわかっている。けど、自分の今を癒すにはこんな手段しか思いつかなかったのだ。
このままではいけない。結婚できないまま、どんどんパワーストーンブレスレットだけが増えていく。そこで私は、もう一度友人に相談をすることにした。なぜ私は結婚できないのかと。
理想が高い。もっと理想を落とせ。結婚相談所へ行った方がいい。周りの意見を要約すると、結婚できない理由と結婚できる方法は、その3つに絞られた。どの意見も、あの頃の私にとっては耳を塞ぎたくなるものばかり。
きっと私は結婚したいんじゃなくて、理想のパートナーを手に入れたかったのだろう。だったら、そう言えばよかったのか。いや多分、そう伝えても同じことを指摘されていたはずだ。
もちろんずっと「たられば」を言っていた訳ではない。タッキーのようなパートナーが欲しい。そんな、夢物語のような話ばかり言っていた訳じゃない。婚活パーティー、マッチングアプリ、合コン、街コン。それなりに婚活もしていた。気の進まない相手からのデートにも応じていたし、その数だけ腹を壊した。私の体は正直なので、無理をすると体のどこかが故障するのだ。
婚活にかかった金額を、ふと振り返る。マッチングアプリは無料だったし、婚活パーティーだと女性の参加費用は安いケースが多い。ひとつひとつの課金額は少ないが、20歳から36歳まで婚活が続いたので数百万はかかっていると思う。
唯一試さなかったのは、結婚相談所。理由は申し込もうとした結婚相談所に連絡をしたら「うちはお金かかるけど、大丈夫?ボランティアじゃないからね」と釘を刺されたから。そう言われるなり、「ここはあなたの来る場所ではない」と、言われたような気がした。
声だけで、この女はお金を持っていないと思われたのだろうか。あの頃の私は、34歳。OLとして長く勤めていたし、貯金がなかった訳ではない。けれども、相談所の方からすれば「積極的にお金を出してくれそうな女性ではない」と、声色で感じたのかもしれない。
婚活での出来事は、ブログに綴っていた。理由は、友達に伝えてもロクに話を聞いてもらえないから。ブログの世界では、複数の読者から「婚活、頑張ってください」と言われる。今度婚活で出会った人とデートに行くと報告すれば「おめでとうございます」と、たくさんの人にお祝いされた。
きっと私は、誰かに「頑張ってね」とだけ言って欲しかったのだろう。そして、応援されたかったのだ。婚活している自分を、誰かに否定されたくなかったんだ。あの頃の私は、それだけのために、婚活ブログを更新していたような気がする。
婚活なんて、承認欲求を満たす目的でやればやるほど泥沼だというのに。婚活への苦労、努力。誰かに認めてもらってどうとなるものでもないのに、私はそれを求めてネットの海へと吐き出して行く。
恋や婚活に迷いが生じる度に、占いにも頼ったし、怪しいパワーストーンもたくさん購入した。占いで救われたのは、迷った心を少し楽にしてくれたことかもしれない。占い師は友人ではないから、第三者目線でアドバイスをくれる。
その第三者目線が、とても心地いい。私が相談した占い師たちは、理想を下げろとか、結婚相談所へ行けだの。そんな乱暴はアドバイスをする人は1人もいなかった。占い師によっては、前世のカルマや守護霊から原因を辿ってくれた。
もちろん占いとは当たるも八卦、当たらぬも八卦なものであり、形のないものである。けれど、占いから新たな気づきを得ることもあるし、救われることもあった。占いでいい結果が出れば、明日も頑張ることができる。希望を購入できたと思えば、それは価値があるものではないだろうか。
そもそもあの頃の私からすれば、占い師が人生について真面目に考え、答えを導き出してくれるという行為そのものが、大変ありがたいものだった。
◇
必死に婚活をしていた頃、街コン会場で1人の男性と出会った。彫りの深い顔立ちの男性に一目惚れした私は、「初めまして」と声をかける。彼は私の一声に、一瞬怪訝な顔をした。
「僕は参加者じゃありません。スタッフです……」
彼は参加者ではなく、イベント会社の社長だった。社長は「僕は無理だけど、いいイベントがあればまた紹介するよ」と言って、私の前に携帯を差し出す。
社長の話によると、どうやら美人の彼女がいてラブラブらしい。一目惚れの恋は一瞬にして砕け散ったが、話の流れで連絡先を交換する。その後、彼のLINEタイムラインで「ライター募集」を見かけた私は、面白そうだと思って応募する。
当時運営していた婚活ブログを見せたら、「君は天才だ」と言われて即採用となった。彼は文章のプロではないので、文章力云々についてはわからなかったと思うけれども。いろんな事業を展開している会社の社長だったので、読者がたくさんいるブログを書いている私を見て、「この人は、客寄せができる記事を書けそう」とでも思ったのだろう。とりあえず、一目惚れした男性に褒められた私は、頬を紅潮させて喜んだ。
婚活を必死に頑張って、ただブログに綴っていただけなのに。まさか、その経験がライターデビューに役立つ日が来るとは。人生、どこでどうなるかわからないものだ。
それからの私は婚活、占いに関する記事を数多く執筆してきた。
ライター業の他にも、私はココナラで占いサービスを提供し始めた。占いを始めた理由は、X(旧Twitter)で手相を見て欲しいという呟きに対し、私が解答したことが話題となったからこそ。
そこで手相鑑定をした方から「インターネットでサービスを提供してみたらどうか」と提案をいただき、試しに販売することになった。SNSで話題になったことと、口コミ効果であっという間に売れた。
売上はもちろん有難いけれども、それ以上に相談サービスを利用してくださった方々から感謝のメッセージをもらえたり、言葉の節々からすっきりした様子が伺えたのは嬉しかった。
その頃の売り上げなどがきっかけとなり、占いに関するライターの仕事が舞い込むようになった。
今では夢占いの記事を検索すると、私の記事が必ずヒットするという声もあちこちからいただくようになる。
婚活をしていたあの頃、夢を見たら必ずメモしていた。そして、すぐ夢占いをしていたように思う。あの頃の習慣が、まさかこんな形で報われるなんて思いもしなかった。
必死に恋をし、玉砕して。婚活が上手くいかないからと、占いに頼り続けていたあの頃。周りからは「いい加減に目を覚ましなさい」と腐るほど怒られた。
人生は占いじゃなくて、自分で道を切り開かないといけないのだと。そう叱られたことは、星の数ほどある。もちろん、その意見は間違っていない。それに私も、本来ならそうしたかった。できなかったのは、私が現実に目を背けたかったからだ。
30代半ばになって、何をいっているのかと思われるのかもしれないけれど。あの頃の私はまだ、理想の人と出会い、結婚したいと思っていた。結婚に夢を抱いていたのだ。
残酷な話かもしれないが、女性は歳を重ねるたびに妊娠適齢期が過ぎてしまうため、婚活で不利になってしまう。理由は、将来的に子どもが欲しいと考える男性が多いからこそ。
自分の立場はどんどん不利になると、頭ではわかっているというのに。いろんな人と出会った分だけ、理想ばかりが高くなる。理想と現実の隙間を埋められない自分を知るにつれ、深い溝へと落ちていく。
溝の縁で必死にもがき、彷徨っていたあの頃。もう浮かぶことはないと思っていた。それでもがむしゃらに生きていれば、それらが点と線となってのちのち役に立つこともある。そして今は、そんな私も結婚して子どもにも恵まれた。
今、頑張っても報われないと嘆いている方々へ捧ぐ。その頑張りは、今後違う形で役に立つかもしれない。どうかその時のために、必死に生きてみてはどうだろうか。理想の形で夢は叶わないかもしれないけれど、予期せぬ方向で報われることだってあるかもしれないのだ。
悩んでいたあの頃の私に伝えたい。報われない婚活を繰り返し、占いに明け暮れ、たくさん悩んだあの頃は、決して無駄ではなかったよと。