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あつい島【詩】

「ゴムの樹液が、ぼくを、からめとろうとす   るの。動けんくて、力をふりしぼると、そっとしろと取り押さえられて、そもそも、動けんのに、ぼくは」

と笑う君のいつもはメジロのようにきょろきょろと丸い目は、溶けて高僧の皺となった。なのに桃のような頬の産毛、鳥のような唇はまるで赤ちゃんで私はじわりと泣きそうになった。

薄褐色の手の甲を何度もなでた。
かさかさとあたたかかった。



その部屋は夏の酸っぱい匂いがした。
フィリピン人のこの女はこの地で4人の息子を産んだ。
でもそんなことはもうどうでもよくて、早く故郷の砂浜にシートをひいて、眠りたいのだと言う。
熱い太陽の下、少女の頃そうしていたように、口を開け脳を焼いてしまいたかった。

「ながいりょこう」

彼女は最近痛み始めた膝をさすった。
その丸く大きな膝には弁財天の優しい微笑みがあった。
私はその神に香を炊き、毎晩魚焼きグリルで焼かれるチキンの散骨をする。

常夏の海。
じゅうじゅうと粉になるチキン。
日本にないスパイス。
ハイ!
フィリピン。

波で手をゆすぎ、私は彼女の末の息子の話をした。
彼女の瞳は少しだけ左右に揺れた。
黄ばんだ炊飯器がしゅーと沸き日本の米の香りが



「ぼくの血は、にわとりのよう。
すぐ。こっこと騒がしくなる。
日の差す暑い部屋に、ぼくを、ずっと、つかまえとってよ。
見学の人々の目が、ぼくを見て白く光る。
そうすれば、ぼくの血はぼこぼこと沸き、身体は内側から溶けていく。
とうとう外側は薄いフィルム一枚となり、唇からぷつと裂けぼくはぺしゃんこになれ。」


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七福神 オドル ママの島
あつい島
ぼくはそこにもここにもいない。

ねえ

「せんせい」


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