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【遺稿シリーズ】第十四夜〜詩人の恋人

みこちゃん家の仏壇の下から、某文豪の未発表の遺稿が見つかったので掲載しました
(゜0゜)

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こんな夢を見た。

いつも深夜の公園に目障りなる老婆がいた。

目はいつも地面の方を向いていて、小銭が落ちていないかを探しているようだった。
小銭がないとなると、吸いさしたシケモクを拾っては、大事そうにポケットからマッチを取り出して火を付けて吸っていた。

恋人たちは、老婆を気味悪がって、せっかくのランデブーを中断してベンチから去っていった。

俺はある夜に、たまらなくなって、老婆にこう言った。

「ばあさん、なんだって、若い人のランデブーを毎晩じゃまするんだい。それは野暮っていうものだろう」

老婆は上目遣いに俺を見た。

「あんたはあれだろ、詩人だろう」

「そうさよく分かったね」

「みれば分かるさ。たくさんの人間を見てきたからね」

「へえ、そうかい」

「ああ。九十九年も生きてくればいろいろとあるさ」

「そんなに生きてきて、こんな婆さんになっちまったんだな」

「なんだい、それじゃまるで私が醜女(しこめ)みたいじゃないか」

「いやそうは言わないよ。ただ美しいカップルの逢瀬を邪魔するのは、詩的ではないなと思っただけさ」

婆さんはランデブーが終了したベンチに腰を下ろして俺を見上げた。

「あんたはそんな考えだから、いくら詩を書いても売れやしないんだよ」

「じゃあ、婆さんの若かった時の話でもしてくれよ。きっと男に持てたんだろう」

「当たり前さ。詩人の恋人がいた」

「そうなのか」

婆さんはまるで少女のように、思い出を語りだした。

驚いたことに醜女だった婆さんの顔がみるみるうちに、若やいできて、まるで二十歳くらいの乙女のようになっていった。
皺は消え、頬には赤みがさし、腰は伸び、胸は張りを取り戻し、上目遣いからは卑屈さが消えて、艶めかしさが漂った。

老婆の口からは、まるで詩のように、淀みない切ない思い出話が次から次へと宙に舞った。

「そしてね、戦争に取られたときに、最後にあの人は言ったのさ」

「何をだい」

俺は無性に胸が高鳴ってくるのを感じながら、そういった。

「お忘れですか」

さっきまでの老婆が、まるで男を知らない少女のようにそう言った。

「百年たったらまたきっと会える」

俺はそう自分から言った。

「思い出してくれたんですね」

俺はやっと合点がいった。

「今日はお前の誕生日だったな」

「はい。百歳になりました」

「待たせたね」

「あっという間でした」

俺は詩人であることをやめようと決意した。

この女と再び生きていこう。

そう思った瞬間に

「詩を百年書き続けなさい」

美しい娘は再びだんだんと老婆になっていき

そして、消えてしまった。

少なくとも百年は詩を書いていこう。

俺は一人、娘のぬくもりの残るベンチに腰掛けてそう決意した。

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嘘ですみこちゃんのオリジナルでしたー(^-^)
第十一夜、十三夜に引き続き、またまた夏目漱石でしたー

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