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第97回箱根駅伝おうち観戦記

大学入学を機に箱根駅伝を見るようになった私にとって、初めてのおうち観戦となった第97回箱根駅伝。というわけで今回も、おうち観戦記という大義名分のもと母校・早稲田大学の選手を褒めちぎるだけの記事を書くことにしました。

◆往路

1区 井川龍人 1時間3分17秒 区間5位
2区 太田直希 1時間8分17秒 区間13位
3区 中谷雄飛 1時間3分29秒 区間6位
4区 鈴木創士 1時間3分3秒  区間3位
5区 諸冨湧  1時間17分6秒 区間19位
往路 5時間35分12秒 11位

1区・井川くん(スポ科2年・九州学院)

第96回箱根駅伝では3区区間14位となりライバルの田澤くん(駒澤2年)に完敗し、雪辱を誓っていた井川くん。今季はフォームの見直しを始め、1年時に甘くなっていたという走り込みの量も一気に増やしていました。冬場は毎日30km、多い時には40~50kmも走っていたようです。高校時代よりも練習量が減っていたという昨シーズンですら箱根予選会ではチーム内2位で走破しており、ポテンシャルは抜群。真面目に練習することで着実にパワーアップしてくれました。

当日変更にて1区に投入された井川くんは終始落ち着いてレースを進めていました。超スローペースの牽制合戦で難しい展開でしたが、さすがは高校時代からの1区スペシャリスト。10000mの持ちタイムも良い有力ランナーでありながら、前に押し出されることなく痺れを切らして引っ張ってしまうこともなく、絶妙な位置取りで他校の選手を徹底マークしていたのは見事でした。これは距離を踏んでおりペースの上げ下げに対応できる自負があったことが大きいのではないでしょうか。ラスト2kmあたりから表情は苦しそうになりましたが、先頭からわずか17秒差の区間5位と上々の出来。それでいて「持ち味のスパートを発揮できなかった」と悔しそうにしていたのが印象的でした。

大きな故障もなく、たった一年でまた世代トップまで盛り返したところに井川くんの強さを感じます。発言では気合で乗り切るタイプのように見えますが、意外と冷静に課題分析できるのも彼の頼もしいところ。全日本では2区区間5位で中谷くんに良い位置で繋いでおきながら「本当は自分のところでトップに立ちたかったが前半で自重してしまった。体力に自信がなく序盤から突っ込んで入れなかったのが原因」と分析し、その後は突っ込んで耐えるための練習を積んでいました。そしてその成果を出したのがあの2020/11/21の早大競技会です。10000mで圧倒的なスパートを見せつけ28‘12“36の記録で晴れて世代トップに返り咲いた背景には、泥臭い努力があったんですね。このようにレース後の反省が丁寧で課題を具体化し、それを克服するための練習を積む動きをする選手は右肩上がりで伸びていきます。日本選手権で中谷くん直希くんの27分台突入を受けて「自分も出ていれば走れたのに…」と悔しさを滲ませていたその気持ちを、ぜひ来季にぶつけてほしいです。


2区・直希くん(スポ科3年・浜松日体)

1・2年時は復路8区を2年連続で担当しましたが、今年は満を持して2区への起用となりました。なお8区から2区へのコンバートは、お兄さんの智樹くん(20卒・トヨタ自動車)と同じパターンです。本人曰く上りは苦手とのことですし、元々「2区はしんどそうだからいいや(笑)」とのコメントがあったことから、コース適性よりは集団の利用の上手さやハイペースに耐えられる走力を買われての2区起用だったのではないでしょうか。2020年12月の日本選手権では中谷くんとともに10000mに出場し、冷静なレース運びで見事27分台を叩き出しました。相楽さんから「いつも期待以上の走りを返してくれる」と太鼓判を押されているほどの本番強者であり、誰もが納得する区間配置だったのでしょう。

ところが結果は区間13位と苦しみ、順位を5つ落とすまさかの事態。何度も後ろを振り返る姿は珍しく、本調子でないのにチームのために2区を走ってくれたことが良く伝わってきました。持ちタイムだけでなく、チームのために走るというその姿勢こそがエースと呼ばれる所以なのかもしれません。

さて、2020年11月の全日本大学駅伝までは「エースの中谷と、絶好調の太田」なんて実況で言われていたのが箱根では「臙脂のWエースの1人である太田」となっていたことに気が付いた方はどれほどいらっしゃるのでしょうか。2020年の箱根8区4位や2月の唐津10マイル2位から始まった直希くんの急成長を見守ってきたファンとしては、やっと「太田兄弟の弟」ではなく「早稲田のWエース、27分台の太田直希」として認めてもらえたことを純粋に嬉しく思いました。

三大駅伝フル出場の直希くんですが、実はエース区間に登場したのは今回が初めて。これまで非エース区間ということもあっていずれも大崩れはなく、抜かれても1つ順位を落とすにとどまっていました。初のエース区間、初の大幅順位降下を経験したのは間違いなく今後の財産になってくるはず。いつも飄々としている彼ですが、今回の結果をどのように受け止めてさらなる飛躍へつなげていくのか、とても楽しみです。


3区・中谷くん(スポ科3年・佐久長聖)

昨年11月頃から「上級生となりエースと呼ばれる機会も増え、エースとしての自覚が生まれてきた」と言っていた中谷くん。トラックで世界を目指すためにと多数のレジェンドを輩出してきた早稲田へ来てくれたものの思うようなタイムが出ずに苦しみ、自身の志向とは違う「ロード・駅伝の方が強いのでは」という周りからの声に納得のいかない時期もあったようですが、結果がついてきて軌道に乗り始めた影響もあるのでしょう。

臙脂のエース中谷くんは、もはや区間エントリーの段階から大活躍でした。そう、昨年の箱根1区、序盤から鬼塚くん(東海大20卒・DeNA)とともにハイペースで集団を引っ張り続け、ユニバーシアード銀メダルの大聖くん(駒澤大20卒・ヤクルト)ですら16km付近でふるい落とした実績が効きました。結果論ではあるものの、ハイペースでもついていける選手が多く集まったことによって集団を引っ張るメリットがなくなり、史上稀にみる驚愕のスローペースとなりました。
2020年11月の全日本大学駅伝では8区の「名取包囲網」が話題となりましたが、1区に中谷包囲網を作らせたのは大きかったです。他校のエースクラスを1枚消化させることができますから。

直希くん同様、日本選手権にて10000m27分台を叩き出した中谷くんですが、調子が上がりきらず湘南の風にも苦しみ区間6位。三大駅伝で主要区間をいつも任される中谷くんの今までの区間順位では最も悪い順位に並びました。持ち味であり相楽さんの指示にもあった「前半突っ込む」という中谷くんらしいレース運びが全くできず、本人は悔しそうでした。しかしながらそんな状況ですら主要区間6位でまとめた点、チームの順位を上げることができた点には中谷くんの強さが現れました。エースと呼ばれる存在でも、区間順位2桁やらごぼう抜かれを経験したことない人はそう多くないので、やはり中谷くんは偉大です。

印象的だったのがこの表情。中谷くんは顔に出やすいタイプで、レースではきつくなるとしんどそうになり、良い記録を出すと全身で喜びを表現します。1年時には入学式での校歌の腕振りに戸惑いの表情を、2年時には予選会9位通過で不満げな表情をしていたのが懐かしいですね。その中谷くんが、あくまでレースのひとつだと捉えている駅伝でこんな覚悟を決めたような顔をするようになるとは思いませんでした。次は最終学年、年間を通して納得のいくものになることはもちろん、大手町で飛び切りの笑顔が弾けることを心より楽しみにしています。


4区・創士くん(スポ科2年・浜松日体)

昨年は7区に登場し、チームをシード圏内に押し上げる走りで1年生記録を更新した創士くん。前を追う展開でもエース区間で粘る展開でも完璧にこなせる希少人材です。元々は上りが苦手だったようですが、今季はクロカンを利用した練習にも精を出し、アップダウンに強くなりました。山上り山下りとも1年生の起用で結果がどう転ぶかわからない状況であるため7区続投かと思いきや、満を持しての往路起用となりました。

11月末の相楽さんコメントでは「序盤から攻めて早稲田ここにあり、というのを示したい」とありましたが12月末には「どこで主導権を握るかがカギとなる」となっていました。この時点で私は、中谷くん直希くんのWエースの調子があがりきっていないか1・2区で耐えるプランになったかのどちらかだろうと踏み、12/29の区間エントリーを見て、前者だろうなと覚悟を決めました。往路は逃げ切りではなく4区追い上げが必要となるパターンだと。そんな中で区間エントリー後のwasediaryにて創士くんが絶好調とのストーリーをUPしてくれたのが心の不安を取り除く材料になってくれました。

当日は二宮の定点で左腿を叩く仕草があり、それはもう見ている側としては心臓に悪いことこの上なし。しかしながらその後の追い上げが見事でした。視界に捉えられる範囲で前が詰まっていたのもありますが、ラスト5kmでの5人抜きは鮮やかでした。風が強くて失速するランナーも多かった中、途中まで脚の痛みがあり意図して脚を残していたわけではなかったにもかかわらず、後半で絞り出せたのは大きかった。小田原中継所に飛び込み力強く諸冨くんを送り出すその姿は、誰よりもかっこよかったです。

そろそろ創士くんにゲームチェンジャーの称号を解禁しても良いのではないでしょうか。Wエースが苦しんだかと思いきや一気に優勝圏内にまで襷を持ってくるのは偉業以外の何でもありません。慢性的な層の薄さに苦しみ先攻型オーダーとせざるを得ないことの多い早稲田ですが、創士くんの存在により前半に耐えて後半で勝負する戦略が選択肢のひとつとなりつつあります。駅伝での安定感と前を追える強さは、とても希少性の高い能力。長い距離やロードに苦手意識のない創士くんが、正真正銘のエースと呼ばれる日を心待ちにしています。


5区・諸冨くん(文1年・洛南)

トラックゲームズinTOKOROZAWA、全日本大学駅伝、箱根駅伝の1年生唯一の皆勤賞は、まさかの一般組である諸冨君でした。2020/11/22に行われた学内21.1kmでは主将の吉田くん(スポ科4年・洛南)を抑えて62‘53で走破、コロナ禍で夏合宿が実施できていなかったにも関わらず早くも距離適性を示してくれました。

当日は風の強さもあり体重49㎏の細身の諸冨くんはかなり苦しみました。いつも元気にふざけているイメージの諸冨くんがゴール後に顔を覆って涙を飲んだシーンはファンの立場から見ていてとても辛いものでした。それでも前を行くランナーとの秒差は僅かなもの。5区6区は見通しの悪いコースであるため、同じく1年生で初出走となる北村くんに「目印」を残すことができたのは大きかったでしょう。

箱根で5区を走りたいと入学してきて、あの柏原さんにも山の極意を聞きに行くという熱心ぶりが頼もしい諸冨くん。箱根後のラジオで柏原さんもおっしゃっていましたが、30分もかけて質問をし続けるというのはかなりの頭の良さが窺えます。詳しい質問内容はわかりませんが、練習・当日までの調整・当日の走りかたで切り分けたり身体面精神面それぞれのセルフケアの仕方をきいたりと、5区を走る上で何が必要になるのかを自分で整理し仮説を立てていないと、30分も持ちませんから。熱意と賢さを両方持ち合わせているというのは一選手としての強みでもあります。

一般的に「悔しい思いをした選手は次の年に強くなる」という見方がありますが、本当にその通りだと思います。智樹くんも、井川くんも、1年時の箱根デビューは区間2桁に沈みましたが2年時にはチームに貢献していますよね。諸冨くんも、しっかりと準備したつもりだったのにそれでもまだ足りなかったと身をもって知ることができました。幸い早稲田には優しいOBも多く、智樹くんや安井くん(18卒・トヨタ自動車)、三輪さん(09卒)も諸冨くんのことを気にかけてくれています。次回も5区でのリベンジとなるのかはわかりませんが、意味のある経験だったといつか笑顔で言えるようになってもらえれば嬉しいです。

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◆復路

6区 北村光      58分55秒    区間8位
7区 宍倉健浩  1時間4分22秒 区間8位
8区 千明龍之佑 1時間4分55秒 区間5位
9区 小指卓也  1時間9分28秒 区間4位
10区 山口賢助   1時間11分7秒  区間7位
復路 5時間28分47秒 4位
総合 11時間3分59秒  6位

6区・北村くん(スポ科1年・樹徳)

「早稲田の山下りといえば北村、と言ってもらえるような走りがしたい」と実況で紹介がありましたが、初出走にして見事その座を手にしました。ここ数年ずっと山要員の不足に悩まされていた早稲田にとってはまさに救世主です。

早くから6区希望と言っていたのは、平地の戦力が充実してきた今の早稲田でメンバー争いに絡むには6区しか空きが無いからなのではないかと心配していましたが、直前の早スポでは「自分のフォームは下りに向いている、適性がある」と自信のある様子。実際、最初の下りで青学の選手に追いつかれながらも下りで引き離したように、下りの適性は確かなものでした。最後の平地の粘りも素晴らしかったです。今にも泣きだしそうな苦しい表情をしながら力を振り絞って前だけを見て走った姿には心を打たれました。目標としていた58分を達成して6区1年生歴代5位に名を刻んだのは、今後の自信にも繋がりますね。

「正直、走れると思っていた」という全日本では出走しないながらも色々なものを感じ取ってくれた様子。自分も走れると思っていたけど、出走メンバーより良く走れたかというとそうとは言えなかった、甘い部分があった、と非出走メンバーが自分事のように捉えてくれるとチーム全体の士気も上がります。また、意識の面だけでなく悔しさを2020/11/4の10000mにぶつけ実際にPBを更新してくれたことで、チームが勢いづいた部分もあるでしょう。続く2020/11/21の競技会では疲労もあってタイムが伸びず心配でしたが、自分で「力を出せる時と出せないときのムラが激しい」と認識しつつ、箱根に向けてしっかりと合わせてくれて安心しました。

あと3年間、6区はよろしく。走力の向上に伴って毎年タイムを短縮してくれるのかと思うと、本当に楽しみです。


7区・宍倉くん(スポ科4年・早実)

前回大会の瞬間最高視聴率男。教育実習との兼ね合いで全日本こそ回避しましたが、走力がありスパートも切れる宍倉くんは間違いなく早稲田の主力でした。7区に配置されたのは、5区6区が1年生であり、信頼できる上級生が控えているという安心感を1年生に与えたる意図もあったのかもしれません。

前半は抑えて入りましたが、ラスト5kmからのペースアップが素晴らしかったです。相楽さんからの「よく我慢した」という声かけから推察するに、6区終了時点で見えていた青学の背中を追いかけたい気持ちをぐっと堪えて、ビルドアップで行こうという指示に従ったのではないでしょうか。ラスト数kmになってから神大や帝京を追っていこうとする際に「攻めるぞ」という相楽さんの声に右手を上げて応えていたものかっこよかったです。

トラックゲームズinTOKOROZAWAでも全日本でも4年生からの出走は無し。今回の箱根駅伝での出走も宍倉くんのみでした。彼が背負った「4年生」という重圧はどれほどのものだったのでしょうか。

ずっと谷間世代と言われて、見返してやりたいと気負っては故障して。もしかしたら彼らは悔しさを晴らすことのないまま引退となってしまったのかもしれません。しかしながら、4年生をしっかり見てきたファンが一定数いることも強調させてほしい。3年生の代から2年間主将を出すという議論になりつつやはり4年生から出そうとなり、怪我に苦しむことも多いながら練習で引っ張るシーンが多くみられた吉田くん。2019/12/24の早稲田愛溢れる部員日記や高校時代からの急成長に「箱根を走ってほしい」と強く願われていた住吉くん。15歳にして山形から上京し、走りのみならずトラックゲームズinTOKOROZAWAの見事な実況でオンライン観戦者を魅了してくれた黒田くん。最後まで怪我に苦しみながらも、漢祭りでPMをこなし多くのファンの涙を誘った本郷くん。

相楽さんの声掛けでも「4年生」というワードがあり、宍倉くん本人は自覚していなかったとしても、私には彼らを代表した走りであるように見えて泣きそうになりました。

全日本が終わって下級生から「優勝したい」という声が上がり始めても、「チームの雰囲気が良い」という子が出てきても、宍倉くんだけは「まだチームはバラバラ」「目標の3位以内に向けてまとまっていかないといけない」と冷静でいてくれました。勢いづくのは良いですが根拠のない自信ほど怖いものはないので、宍倉くんの存在は大きかったと思います。厳しい声を上げ続けてくれたこと、チームをシード圏内へ押し上げてくれたこと、谷間世代と言われつつも最後まで腐らず続けてくれたこと。この1年間、現地で直接観ることは叶いませんでしたが、JR東日本で活躍する姿をいつか必ず観に行きます。


8区・千明くん(スポ科3年・農二)

夏には5000m13‘54“18とPBを更新し、中谷くんと共にSugarEliteの合宿に参加していた千明くん。その後は故障もあってトラックゲームズinTOKOROZAWA・全日本大学駅伝や早大競技会をすべて回避していましたが、本人も「怪我からの回復は速い」と言っている通り、箱根には見事に合わせてくれました。

もともと中谷くんと一緒にTAで入学し、1年生の頃からインカレでの入賞や駅伝主要区間での出走など、チームの主軸として活躍していた千明くん。今季、直希くんが頭角を現して中谷くん直希くんをWエースと呼ぶその風潮に、最ももどかしい思いをしていたのは千明くんでしょう。そんな中でも相楽さんは「中谷、直希、千明の三本柱」と言っていました。それだけ信頼され、期待されている存在ということです。

往路で出走できるほどまで復調したと早スポのインタビューにはありましたが、8区起用となりましたね。他の復路メンバー同様ビルドアップを貫き、多くのランナーが失速しがちな遊行寺の坂を難なくこなしたあたりは、さすがアップダウンを苦にしないタフさの持ち主。志方さん(14卒)の早稲田記録を30秒近くも更新する好走となりました。

慢性的な層の厚さに苦しむ早稲田では8区が穴となることも多く、下級生の起用が目立っていました。しかしながら今回は平地8区間が完全に揃った近年稀にみる層の厚さとなり、適性ありスタミナありの千明くんを例年の「10番手区間」に置くことのできた贅沢布陣だったのも大きいです。1年生から3区、4区、8区と推移してきた千明くんが来年は何区を走ることになるのか、良い意味で予想がつかず楽しみです。

次期主将の千明くんは、下級生の頃から周りのことをよく気にかけている姿が印象的でした。箱根予選会の後は自分自身の反省だけでなくチーム全体としての反省もコメントしていたり、練習から周りを鼓舞しているとチームメイトから評判だったりと、キャプテンシーは申し分なし。ここ数年は真面目で多くを語らない、背中で引っ張る主将が多かった印象ですが、千明くんのまとめるチームはどのようになっていくのでしょうか。三大駅伝での3位以内を目標に掲げる年が続いたのに対し、来季は三冠を目指すと早々に宣言してくれているのも期待が膨らむ一因となっています。2020/1/7の久保くんの部員日記でも触れられていた通り、勝利には始動タイミングの早さが不可欠だと学んだ早稲田が、1年かけてどのように動いていくのか、注目必至です。


9区・小指くん(スポ科2年・学法石川)

私たちのこゆびーむがついに三大駅伝初登場!!!!!!!!!
駅伝よりもインカレよりも先に日本選手権で臙脂ユニを着ることとなったレアケースです。

昨シーズンは怪我もあり臙脂を背負う機会こそありませんでしたが、元より体格がしっかりしており高校時代にはすでにその美しいフォームが完成されていた小指くん。つい最近知ったのですが、昔は水泳でも地元の記録会で大会新記録を更新したりJOCの標準切りをしていたりのかなりの有望株だったようです。逞しい肩回りや長距離の基礎となる体力は水泳によって身についたのかもしれませんね。お父様が箱根ランナーであり東農大監督であることは有名ですが、小指くん自身の経歴にも目を向けてみるとまた彼の魅力に気づくことができておすすめです。

上記の通り才能溢れる小指くんは、早スポインタビューでは「走るとしても9区だけ」、直前の部員日記では自分の意気込みに触れずあっさりとまとめるのみと、ひたすら謙虚でした。これは自信のなさの表れなのでは…?と訝しがるファンの心配をよそに、当日変更で起用されると積極的な走りを見せてくれました。早稲田では上級生の起用が多い復路のエース区間である9区にて、終始集団を引っ張る積極性を見せて区間4位。初出走でありながら、昨年の新迫くん(20卒・中国電力)が出した早稲田記録にあと11秒まで迫る快走でした。

5000mを走った12月から僅か1ヶ月で箱根駅伝というハードスケジュールの中でハーフの距離への対応がどうなるか心配でしたが、上手くこなしてくれました。皮肉にも、日本選手権で苦しいレース展開となり力を出し切れず温存できたことが、上手く箱根にはまった一番の理由なのかもしれません。

余談ですが、端正な顔立ちや逞しい身体つき、そして華やかな経歴を持つ小指くんはやや不思議ちゃんな一面もあります。突然ですが例として3つだけ紹介させてください。

①「あの爽やかな笑顔は溺れかけたからだったのか…」

――10キロの給水地点で向井さんからもらった後、後ろを振り返っての笑顔が印象的でした。何か笑顔の理由はあったのでしょうか。
(小指)水を飲んでいる時に顔面に浴びてしまいむせたからです。鼻にも水が入って溺れるような状態でした。その時に向井さんが何か言っていたのですが、聞き取れなかったのであのように笑っていました。


②「今までは陸上にはハマっていなかったの?」


③「食べることしか考えてないじゃん!」

ポテンシャルに実績が加わった小指くんの快進撃は、これからもきっと続きます。やんすCEOや仲良しの早実組からのキャラの暴露と併せて、特に注目してほしい選手の筆頭です!


10区・山口くん(文3年・鶴丸)

全日本大学駅伝での好走以降も、それでは飽き足らず2020/11/21の10000mでは28‘20“40とそれまでの自己ベストを約1分も更新し、完全に臙脂の主力となりました。残念ながら当日変更で出走とはならなかった向井くん(スポ科3年・小豆島中央)や室伏くん(商3年・早実)が山口くんの躍進に刺激を受けてめきめきと力をつけてくれているなど、その影響力は絶大なもの。また、9区小指くんの積極的な走りは、10区に山口くんが控えているという安心感によって引き出された部分が少なからずあるでしょう。

アンカーとしての走りですが、スタミナ型でありながら今季スピードも身に付けたのが功を奏しました。集団を引っ張りつつ最後は他校を振り切って6位でゴールしてくれて本当に素晴らしかったです。全日本に引き続きTV中継では先頭争いにフォーカスされてしまいましたが、最後に山口くんが仕掛けたポイントやその時の表情などもこの目に焼き付けておきたかったと、早稲田ファンなら全員が思っているはず。

そして特筆すべきは母校である鶴丸高校から初の箱根ランナーという快挙についてです。

選手ハッシュタグによるTwitter応援の流れが全日本大学駅伝で自然発生的に生まれ、ファンや焼きジャケさんにより「#副寮長絶好調」で応援されていた山口くん。今回はwasediaryと焼きジャケさんが事前に募集するスタイルなのでさすがに名前をタグに入れるだろうと思っていたらまさかの「#鶴丸高校が走ってますよ」という個人名なしのスタイルに決定しました。12月の時点では(なんでまた個人名ではなく高校名を?)と疑問でしたが、鶴丸高校初のランナーであると知って納得しました。

簡単に調べてみましたが、鹿児島の公立高校では一番の進学校で陸上への強化なんてしていない中、山口くんだけが5000m14分台と飛び抜けたタイムを持っており都道府県対抗駅伝に出場するというまさに絵に描いたような文武両道ランナーだったのですね。競走部の公式HP部員名簿の自己紹介&意気込みの欄には「鶴丸魂」と力強い文字が躍るほどですし、本当に母校を誇りに思っているのが伝わってきて微笑ましいです。

山口くんの活躍を見て、自分も臙脂を背負って箱根を走りたい!と心に決めてくれた小中高生は全国に何人もいるのではないでしょうか。偏差値の高い高校の出身であるだけでなく、今でも練習以外の時間を英語や簿記の勉強に充てていたり、非常に読みやすい部員日記を書いてくれていたりなど「勉強ができて脚も速い」を現在進行形で体現しているのが山口くんのすごいところ。4年生になって実を結ぶパターンではなく3年生中盤から出てきてくれたのも心強い。

10年前の猪俣さんの力走に心打たれて早稲田の門を叩いた選手が何人もいたように、今度は山口くんが数多くの進学校出身ランナーを早稲田に誘う広告塔となる番です。あと1年、早稲田一般組の顔として、このまま躍進を続けてくれることを期待しています。

***

◆全体総括

新型コロナウイルスの影響をもろに受けて、異例の1年となった2020年シーズン。
29人と少ない部員数に加え夏合宿が大学から禁止されるなど苦戦を強いられるかと思いきや、選手も指導陣もスタッフもよく健闘してくれました。

強い個、強い早稲田

Wエースが期待値と比較して苦戦した印象だったことを受けて、日本選手権にピークが来てしまったことを残念に思う人もいるかもしれませんが、私はむしろ出場したからこそチームとして良い方向に動いたと捉えています。

・ 日本選手権前について
2020年11月末の早大競技会10000mにて、中谷くんと直希くんが練習も兼ねて5000mまでPMをしてくれました。このアシストもあって、前半からハイペースで入って耐えることを目標としていた井川くん宍倉くん山口くんが28分10~20秒のタイムを叩き出しました。3人とも数十秒単位でのPB更新です。ハイペースでも楽に走ることができると証明された非常に良い結果となりました。

・ 日本選手権後について
中谷くん直希くんが27分台を出してすぐに井川くんが以下のようなツイートをしています。

彼らの活躍に刺激を受け、自分だってもっとできる!と自信や悔しさなどの発奮材料としてくれたのでしょう。部外者であるファンからは井川くんのこのツイートくらいでしかわかりませんが、きっと他の部員にも良い影響はもたらしたはず。月並みな表現にはなりますが、背中で引っ張るとはこういうことを言うのではないでしょうか。

個人での日本選手権出場を回避し箱根へ専念することだけがチームの貢献であるとは限りません。千明くんの2020/10/21部員日記のタイトルは「強い個、強い早稲田」。自主性を重んじる早稲田だからこそできる、チームへの貢献の形だったと私は考えています。

チームの再建

この時期になると必ず「ゼロからチームを作り直す」という言葉が散見されます。かつて早稲田大学がシード権を落とした際もそうでした。しかしながら、本当にすべてをゼロベースで組みなおすことはなかなか難しく、前年までのチームの在り方や練習メニューからの軌道修正程度であるのが現実です。よし、試しに夏合宿を実施しないことにしよう!なんてことはまずありません。

それが今季の早稲田大学は、図らずも実現できてしまった。
春先の自粛期間ではほとんどの選手が地元へ帰省を余儀なくされ、夏合宿は大学側から許可が下りませんでしたから。

例年とは大きく異なるスケジュールに、選手たちはよく対応してくれました。チームのまとめ方に試行錯誤した吉田くん、月間走行距離750kmを突破した直希くん、フォーム改善に充てた井川くん、筋力アップを図った創士くん。元より他大と比較して管理体制が厳しくない早稲田だからこそ、ピンチをチャンスに変えてくれる選手が続出したと考えてよいでしょう。

夏の所沢で練習を積んだ経験について、今はまだ直接的な成果を実感することはないかもしれません。それでも来年の出雲駅伝で異例の暑さとなる予報が出た場合に「夏の所沢よりマシ」と落ち着いていられるのは大きなアドバンテージになること間違いなし。何でも来い!という精神で堂々と構えていられるのは強いです。

トラックゲームズinTOKOROZAWAの開催とLIVE配信も素晴らしい取り組みでした。後から知りましたが、数か月かけて準備を進め、普段は走ることを専門とする選手も裏方で動いてくれたようです。エリート街道を歩んできた選手にとっては人生初の役回りだったかもしれません。今までは気に留めていなかったものが見えてきて、新たな価値観を得た選手もいるのではないでしょうか。速く走ることを追求するという至ってシンプルな競技だからこそ、高い視座と広い視野そして鋭い視点は強さに繋がります。この経験が活きる機会が訪れる日を信じて、日々を過ごしてもらえれば本望です。

速さと強さ

今季多くの選手が10000mや5000mのPBを更新した早稲田。その要因の一つとして、2019シーズンは二つの予選会突破にピークを合わせる必要がありスピード強化に力を入れるのが難しかったことが挙げられるというのをどこかの記事で見かけました。

あくまで素人目線ではありますがもう一歩踏み込んで考えるとすれば、スピード強化→距離対応という王道成長ルートと距離対応→スピード強化という逆説的成長ルートのスピード強化タイミングが重なったことも大きいのではないかと見ています。スピードを強化したい時期にぐっと我慢して記録会に出ていなかった主力選手たちの裏で、1年生の頃から距離を踏んでいたレギュラー狙いの選手たちもスピードを身に付け始めたというのがあります。成長著しい山口くんの他にも、メンバー入りした向井くんや室伏くん、2020年の漢祭りで「漢」となった河合くんがこれに該当しますね。ここに、1年生一般組が受験のブランクを終えて力を着実に伸ばしているのも加わって、エース・準エース・メンバー争い・Bチームすべての層でPB更新祭り状態となりました。

何が言いたいのかというと、今季の早稲田のトラックでの躍進にはしっかりとした根拠があったということです。全体の底上げができたとか、雰囲気が良くなってきたとか、チームとして勢いがあるだとか、そういった抽象的な言葉でまとめられてしまうことも多いけれど、明確な目的をもって取り組んできたものが結果として表れつつあるのが今季だったのだということは声を大にして言わせてほしい。序盤から流れに乗ることが大事な駅伝ですが、なぜ箱根駅伝では流れを掴めなかったにも関わらず健闘する選手の姿がそこにあったのか。それは速さに強さが伴っていたからなのです。

根拠のある勢いは、来季も止まるはずがありません。速さと強さを同時並行的に伸ばしていく姿を人々の目に焼き付けてほしいです。

取り戻した臙脂の誇り

悪夢のシード落ちを経験した2019年の箱根駅伝では、6区終了時点で12位、総合順位も12位。7~10区まで誰一人として、順位を上げることは叶いませんでした。小柄な体を集団に利用されながらも牽制せず懸命に前を追う姿や、シード権獲得を目指して最後大手町まで猛追する姿はしっかりとファンの心に刻まれましたが、結果がついてこなかったのは揺るぎない事実でした。それが当時の早稲田の戦力でした。

そして箱根予選会では中谷くんや新迫くんを欠いていたとはいえ大苦戦の9位という始末。近年の他校のレベルアップに指導陣も選手も取り残されており、10年以上も前の予選会出場時の練習の消化率が良かったというだけで上位通過を予想していたのが原因でした。異常なまでの暑さの中で具体的な指示なく全員がフリーでも何とか通過できたのは、当時主将の智樹くんやポテンシャルの高い井川くん創士くんそして叩き上げ4年生の地力がなんだかんだあったから。結果発表時の立川は筑波の26年ぶりの本選出場に沸いていましたが、私は正直なところ完全なる絶望モードでした。

それがそのすぐ後の全日本大学駅伝での選手たちはまるでお尻に火が付いたかのような快走で、まさかの久々のシード権獲得。箱根駅伝でも中谷くんの驚異のハイペース作戦に始まりゲームチェンジャー候補創士くんの出現、そして宍倉くんのラストスパートでの競り克つ姿など、強さの片鱗が見える内容となりました。

そして迎えた2020年シーズン。出雲駅伝が中止となりつつ全日本大学駅伝では出場校の中で最も長い時間トップをひた走るなど、4年ぶりに本気で優勝を目指すムードが部内に漂うようになるところまで来ました。

それでも崩せなかった箱根3位の壁。

3位以内を目指すと言いつつ確実なシード権獲得あわよくば3位を狙って総合7位となった前回。目標は逃したはずなのにどこか安心していた部分がありました。
確実な3位以内あわよくば優勝を視野に入れつつも歯が立たず総合6位となった今回。悔しさしか残りませんでした。

総合順位はひとつしか変わりませんが、結果を受けての感情は全く違うもの。
2021シーズン、三冠を目指す早稲田は棚ぼた狙いではない本物の強さを見せつけてくれると信じています。


これからも、早稲田大学競争部長距離ブロックのご活躍を、心より楽しみにしております。

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