暗号通貨が巻き起こすフィンテック革命
ビットコインの高騰で昨年末以来、暗号通貨に改めて注目が集めています。実は、その裏で暗号通貨を取り巻く技術的革新が起こっていて、暗号通貨の利用が一般ユーザにとっても日常的になる兆しが見えてきました。
今回注目したいのは、韓国のスタートアップ Terraform Labs が開発しているMirrorとAnchorというプロトコルです。
Terraform Labs CEO Do Kwonが、こちらのインタビューで語っていますが、これまでの暗号通貨周辺のプロダクトは、既存の暗号通貨ユーザのためのものがほとんどですが、彼は新たに仮想通貨のユーザを100万人増やすプロダクトを開発するためにTerraform Labsを起業しました。
同社は、2019年にステーブルコイン Terra上にChaiというペイメントアプリの提供を開始しました。Chaiは、バックエンドの決済部分でTerraを利用しています。クレジットカードのような中間業者を経由せずにユーザとビジネスの間の決済を行うため、手数料を従来の半分、そして決済に掛かる時間を従来の数日から数秒まで短縮しています。既に、月間利用者75万人(アプリダウンロードは250万人)、50のEコマースサイトで採用されており、2020年は、US$1.5Bの決済を行っています。決済部分にステーブルコインを利用していますので、アプリ利用者は暗号通貨を使っていることを意識せず日常の支払いに利用しています。
そして、Terraforms Labsが次に挑戦するMirrorとAnchorもかなり野心的なプロジェクトです:
リアルな世界のアセット(株、ETF、ファンド等)と価格が連動する合成アセットの生成と取引を可能にするプロトコル。例えば、こちらのTESLA株の合成アセットでは、実際のTESLA株の価格に連動した合成アセットmTSLAをTerraUSD(USドルに連動したステーブルコイン)を使って24時間売買することができます。
海外から米国株を売買するには、国よっては証券口座開設手続きや取引時間の制限・単位などの制約がありますが、Mirrorの合成アセットであれば暗号通貨ウォレットがあれば、誰でも簡単に、そして少額から成長著しい米国テック企業の株価上昇の恩恵を受けることができます。
数ヶ月前にローンチしたばかりですが、既にTESLAに加えて、マイクロソフト、ネットフリックス、アマゾン、グーグル、アップル、ツイッター、アリババなどの株式、ファンド商品の合成アセットの売買をこちらで行うことができます。
ユーザが保有するステーブルコインに対して金利を提供するプロトコル。ユーザから受け取ったステーブルコインで、プルーフ・オブ・ステーク(POF:マイニングの報酬が保有量・年数で決まる)を採用している仮想通貨を買い、POFで受け取った報酬を金利へ充当する方式をとっているようです。Anchorでは、7-9%の金利を提供することを予定しています。現在の超低金利時代にはかなり魅力的な商品ですね。そして、Anchorは、金利APIを提供し、他のフィンテック企業が自社ユーザに対して高金利の口座サービスを提供することを可能にしていきます。
このTerraform Labsの動きは、かつてのアリペイの動きを彷彿とさせます。アリペイは、2013年6月に販売を開始したマネーマーケットファンド「余額宝」の販売を開始し、1年間で1億人が口座を開設しました。ここから、決済アプリの枠を超え、魅力的な金融商品とそれらの商品に対するアクセスを簡単にし、巨大なフィンテック企業へ成長しました。(アリペイの金融商品戦略の詳細は、こちらの「急成長する中国コンシューマー向けインターネットファイナンス」(野村資本市場研究所 李立栄)を参照下さい。)Terraformも、魅力的な金融商品の開発と誰でも簡単に売買ができる環境を仮想通貨のメリットを最大限に生かしてグローバルスケールで構築しています。今後、MirrorやAnchorが、ユーザ向けプロダクトとしてどのように実装されていくか気になりますね。