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最初に読みたい本格冒険物語『ローワンと魔法の地図』児童書紹介⑥

私は国内だけでなく、海外の児童書も小さい頃からよく読んできた。特に、『ハリーポッター』『ナルニア国物語』『指輪物語』に代表されるようなイギリスの児童文学が大好きで、岩波少年文庫などもよく読み漁っていた。
イギリスの児童文学や岩波少年文庫については別の記事にまとめたいと思うが、あのカラフルで文庫サイズの表紙を見て、裏表紙の短い解説文を読むだけで、ワクワクしていて、たくさん出ているので次にどれを読もうかと、選ぶ楽しさがあった。

海外の作品の中で、自分が特に夢中になって読み、いまも子供たちにオススメしたいと思う一冊は、冒頭の前提を全く覆すが、オーストラリアの作家、エミリー・ロッダ氏の『ローワンと魔法の地図』です。


書籍情報📝

書名:『ローワンと魔法の地図』
著者:エミリー・ロッダ
出版社:あすなろ書房
対象:小学校低学年~
ページ数:216ページ
読了時間:大人で2時間半ほど


あらすじ

ある日突然、リンの谷に流れていた川の水が止まってしまった。川の水源がある山の上には、竜が住んでいるという噂がある。しかし、村の精鋭6人たちは、村の危機を救うため危険を省みず、山へ調査に行くことになった。
ところが、ひょんなことから、村で一番体が小さく弱虫のローワンも、その一行と共に行かねばならぬことになってしまう。老婆から貰った地図を頼りに頂上を目指す過程で、様々な困難に直面する。それを皆はどう乗り越え、どうやって川の水を取り戻していくのか――

おすすめポイント

子供たち向けに書かれているので、とても読みやすい上に、ワクワク、ドキドキしながら読み進められる。主人公が強くて勇敢な人ではなく、村で一番の臆病で弱虫だというのも、感情移入して読みやすいポイントかもしれない。シリーズで全5巻あるが、主人公のローワンが成長していく過程と、各巻の冒険のスケールがとてもちょうどよい。

冒険のスケールが大きすぎると、壮大過ぎて子供には理解しにくいけれど、リンの谷という一つの集落を物語の軸に置いて、その集落を中心に起こる問題を解決していくお話なので、とてもシンプルで物語の筋を追いやすい。

今回改めて読み直して感じたことを率直に言うと、『ホビットの冒険』の子供向け版。『ホビットの冒険』も引っ込み思案のビルボという小人が、魔法使いや仲間と共に、竜に盗まれた宝物を取り返しに行くというファンタジー小説だが、そのエッセンスを抜き取り、子供たちにも冒険ファンタジーを届けたいという作者の思いを感じた。(決してパクリだと言いたいわけではありません💦)

この本が日本で出版されたのが2000年なので、私はちょうど刊行された直後に手に取っている。一年後くらいに続編も出ているので、新刊が出る毎に読んでいたのだと思う。

山の頂上にたどり着くまでに、いくつもの障害が用意されていて、脱落していく人も出る中、ローワンたちはどうやって頂上を目指していくのか。臆病で弱虫なローワンが、どう強くなっていくのか、その軌跡が綺麗に描かれているので、ローワンの心境に寄り添いながらワクワクできます。

読みどころ

冒頭、物知りの老婆に冒険のアドバイスをもらいに行く時のシーンで心に残った言葉がある。
勇敢で強い青年に対していった言葉。

「山は、おまえの強さを試しはしまい。強さをほろぼしてしまうのじゃ」

『ローワンと魔法の地図』

対して、臆病者のローワンにかけた言葉。

「恐がっているのがその子一人だというなら、その子だけが分別を持っているということじゃ。その子に道案内をしてもらっても、悪くはあるまいて!」

『ローワンと魔法の地図』

この老婆の言葉のせいで、ローワンは恐ろしい冒険に出なければいけなくなるのだが、老婆の言葉は深いなと思った。
自分が強いと過信している者ほど、壁に直面するとすぐに心が折れてしまう。しかし、臆病で用心深い者ほど、丁寧に進むから結果的に成功するという。これは冒険に限らず、どの世界でも同じだと思った。

ネタバレになるが、、結局最後まで心が折れずに竜を退治し、川の水を元通りにすることができたのは、村一番の臆病者で、誰からも期待されていなかったローワンだけだった。
ローワン自身も自分がそんなことができるなんて思ってもいなかったし、やりたいとさえ思っていなかった。だからこそ、私欲に惑わされず、どんな状況でも正しい道を選べたのだと思う。

こんな人にオススメ

こうした冒険物語は、物語としてワクワク、ドキドキを提供してくれているだけでなく、人生を生きる上でも大切な教訓を、さりげなく、でもズシリと心に一直線で教えてくれている気がする。

小学校低学年から読める内容なので、自分で読んで、人生で大事なことは何かを、自分で掴み取ってほしいと思う。きょうだいで読み合って、ワクワクを共有するのも、面白そう。
ゲームなどのワクワクと違い、ワクワクの度合いや得られるものが読み手にゆだねられているのが物語の魅力。

だからこそ、子供にきちんと読書に集中できる環境を整えて読ませてあげて欲しい、そう切に願う。


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