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『いやいやえん』児童書紹介② 中川李枝子先生への感謝を込めて

中川李枝子先生の訃報に接して


2回目の今回は、中川李枝子先生をご紹介させてください。
中川李枝子先生といえば、絵本『ぐりとぐら』シリーズの他、童話『いやいやえん』など、広く長く活躍され、戦後の児童文学の世界を大きく広げ、深めてくださった先生です。
先週、先生の訃報に接し、これまで先生のご本に導かれてきたご恩が次々と思い起こされてきました。生前の先生の多大なるご活躍に心から敬意を示し、ここに先生のご本を紹介させていただきます。


私は本業の方で、ありがたいことに昨年、先生のご自宅に伺い、直接インタビューをさせていただく機会に恵まれました。その時も、体調が優れないため半年以上も日程調整を続け、やっと取材をさせていただくことができたのですが、いま思うと、先生からは次の世代に未来を託すような、そんなお話を頂いた気がしています。

昨年、『ぐりとぐら』シリーズは発売から60周年を迎えました。そのことを中川先生は、「読者が皆、私を追い越して伸びていくのが私の楽しみ」と嬉しそうに語られていました。
一番最初の読者はもう還暦を超えた大の大人。親子三世代で読み続けているご家庭もあるほど、皆に親しまれ続けています。

私の心に残る一冊

私も小さい頃から中川先生の様々な本を読んできましたが、特に心に残る一冊を選べといわれれば、難しいですが『いやいやえん』を上げたいと思います。というのも、我が家は本もたくさんありましたが、基本的には図書館で借りてくる派で、特にすぐに読み終わる絵本系は図書館に助けられてきました。それでも、我が家の貴重な本棚の中に、真っ赤の『いやいやえん』があり、寝る前、母に何度も読み聞かせてもらった記憶が鮮明にあるのです。

私は兄と弟に挟まれた真ん中で、年も2歳ずつしか変わらないため皆就寝時間は同じ。寝る前は川の字になって、母に読み聞かせをしてもらうのが日課でした。記憶が定かではありませんが、恐らく弟が幼稚園生の時代に『いやいやえん』を読み聞かせてもらい、その後小学生になって何度か自分で読み返していたような気がします。

私の弟は『いやいやえん』の主人公のしげる君さながら、大人たちが手を焼いていたのを私もはっきり覚えています(笑)。上に二人いて、4歳上のお兄ちゃんの真似をしようと頑張るものだから、わんぱくで、常に走り回って、皆から「何をするか怖くて目が離せない」とよく言われていました。

母が私たちに読み聞かせをしてくれた時、「ああ、これは弟にぴったりの物語だ」と当時6歳前後の私も感じていました。

中川先生の本の素敵なところは、教訓じみたところが一切なく、「いやいや」真っ盛りのしげる君に関しても、「いやいやえん」に連れていかれるというドキリとする話はあるものの、だからどうしろとは書いていない。読み手がそれぞれ何かを感じ取ればいい、そういって解釈を読み手にすべてゆだねてくれているのです。

だからこそ、子供も大人も楽しめる物語になっているのです。
恐らく、『いやいやえん』を読んで救われたお母さんはたくさんいると思うのです。いやいや期の子供との接し方の答えが書いてあるわけではないのですが、なぜか心がふっと軽くなり、子育てが楽しくなる、そんな不思議な力を持っている気がします。

かく言う私の母も、弟が〝悪さ〟をするたびに、「いやいやえんに連れて行っちゃうぞ~!」といっていい子にさせていたことを思い出します。

中川先生にとっても、『いやいやえん』は思い出に残る作品ではないかと思います。何を隠そう、先生の処女作であるからです。

物語の誕生の経緯は、他のインタビューなどでも語られているのでここでは割愛させていただきます。特に日経womanの記事がお勧めです。


中川先生は17年間、保育士を務められています。日々子供たちと触れ合う中で、子供たちを楽しませたい、という思いが創作の原動力だったとおっしゃいます。

以前お話を伺った中で特に心に残っているお話があります。出来上がるまでに一番時間が掛かった作品が、小学校1年生の教科書に掲載されている『くじらぐも』だそうです。というのも、普通の本であれば、つまらなかったら途中で読むのをやめることができるけれど、教科書の場合はそうはいかない。嫌でも読まされるわけだから、責任を感じて何度も練り直した、とおっしゃっていました。
大の先生が、一つの物語を生み出すのにそれほど苦心されていることを知り、心から感動すると共に、私自身も『くじらぐも』が大好きで何度も読み、今でも内容を覚えているので、その誕生への思いを伺い、胸が熱くなりました。

また、物語のタネも、ご自身の幼少期の思い出からきているのだと伺い、「ああ、中川先生は、いくつになっても童心を失っていないのだ」と心から感動しました。
小さい頃に校庭で丸く手を繋いだ記憶があり、先生と直接手を繋がなくても、何だか繋がっているような不思議な気持ち、先生の愛情とか子供の頃の嬉しい気持ちをそのまま作品に込めたのだそうです。
中川先生は子供たちと同じように、日常の些細な出来事の中に幸せを見つける天才だったのだと思います。


中川先生のおすすめの本

他にも、中川先生はたくさんの物語を生み出してくださいました。
他にもおすすめの2冊だけ紹介します。

絵本『ももいろのきりん』。イラストは旦那様である中川宗弥さんが担当されています。簡単に読める本なので読み聞かせにもおすすめです。

童話『たんたのたんけん』は、『いやいやえん』と同じくらいの物語で、読み聞かせにも、子供たちが自分で読むのにもおすすめです。みんなが大好き、冒険物語。子供とわくわくの時間を共有できること間違いなしです。


それから、物語ではありませんが、以下2冊の本はお母さんにぜひ読んでもらいたい本です。
『子どもはみんな問題児。』は、保育士経験のある中川先生の言葉に、私自身も救われました。
『中川李枝子 本と子どもが教えてくれたこと』は、児童書好きなら絶対に読んでいただきたい本。中川先生がこれまで何を考え、どういう思いで創作を続けてこられたのかを学ぶことができました。

中川先生への思いは尽きることはありませんが、長くなってしまったのでここで終わりたいと思います。
そして、中川先生が灯してくださった児童書の世界を、私も後を追わせていただき、一人でも多くの方に灯を照らせるように、いま目の前の場で精進させていただきます。



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