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子供と寝る前に読みたい本『小さな家のローラ』《後編》児童書紹介⑦

前回の続きで、『小さな家のローラ』について紹介したいと思います。
もしまだ読まれていない方は、前回の記事でこのシリーズの紹介をしているので、そちらを先にご覧ください。



書籍紹介📝

書名:『小さな家のローラ』
著者:ローラ・インガルス・ワイルダー
絵/翻訳:安野光雅 
出版社:朝日出版社
対象:読み聞かせ→年長さん / 一人読み→小学校中学年
ページ数:272ページ
読了時間:大人で4時間ほど

おすすめポイント

『小さな家のローラ』で特におすすめしたいのが、その内容と描写の美しさです。
物語では、お父さんの狩りの仕方(罠の仕組み)、狩った鹿を長期保存するための塩漬けや燻製方法(冬支度)、お母さんの日々の手仕事(バターづくりや保存食のつくり方)・・・といった大きな森と小さな丸太小屋での日々の暮らし方が詳細に描かれています。
詳細に、というのがポイントで、本当に詳細に書かれているのです。例えば、鹿を燻製にする方法や狩りの詳細のあれこれなんて、普通に生活している人は知らないかと思います。

ここでは、文章で説明されている他、画家である安野光雅さんによる素晴らしい挿絵で、視覚的にも分かるように描かれているのが最大の魅力です。

燻製の仕方について説明している部分を紹介します。

お父さんはシカの皮をていねいにはいだあと、塩をつけてのばし、なめし革をつくります。肉は切り分け、台にならべて塩を振ります。
小さな家の庭には燻製をつくる背の高い丸太がおいてありました。なかが空洞になった大木を切りとったものです。

『小さな家のローラ』p.18

この後の文章でも詳細に描かれますが、同じページにはこんな素敵なイラストが入っています。

この絵を見ると、実際にどのように作業をしているのかが分かり、あまり馴染みのない作業にも、親近感を覚えて楽しく読み進められるのです。

そして、これがなんと、全ページ続くのです。
そう、挿絵がないページがないのです!

実は、あとがきで安野さんがこんな裏話をされていました。
本当はこの本、13章をそれぞれ1冊の本として、計13冊出版する予定だったとのこと。初めて英語に触れる人向けに、英語の原文をいれ、読みやすいようにたくさんのイラストを添えるつもりだったそうです。その後、紆余曲折を経て、13章をすべて1冊に、そして日本語訳のみの掲載という形にまとめることになったので、まさかの各ページにふんだんに絵が入っているということになったのです。

13章で270ページもあり、文字量がかなり多い本ですが、この挿絵のおかげで、途中で飽きたりせず楽しく、むしろ続きが早く気になるほどワクワクしながら、読み進めることができるようになっています。

安野さん自身も、「一冊の本としては絵が多すぎます。もう、こんなにたくさんの絵のある本は描かないとおもいます」とあとがきの中で語られています(笑)。

しかし同時に、私はあとがきに書かれている挿絵に関する安野さんの思いを知り、とても感動しました。

基本的なことをいうと、文学は、挿絵とは無関係に成り立っています。挿絵に矛盾があっても不思議ではありません。ただし、説明図は別です。この本を例にすれば、ワナのしくみ、先込め式銃の構造、ドアの掛け金などを説明する図などは、言葉で説明することは大変なので、できる限り調べて入れるようにしました。文章で説明のむつかしいことも、図によれば一挙に解決するからです。

『小さな家のローラ』p.269 

あくまで文章が主役であり、それをより分かりやすくするための絵だというお考えに、とても感動しました。そう、この本は絵が本当にたくさん入っていながら、メインは文章、物語なのです。

こんな人におすすめ

安野さんの豊富な挿絵のおかげで、この本は小学校中学年~であれば、一人読みしても内容が理解でき、楽しめる本になっています。物語も絵も素晴らしいので、早く次のページを捲りたいという衝動に駆られるかもしれません。

それから、おすすめポイントの2つ目である〝描写の素晴らしさ〟は実際に読んだ方が分かりやすいと思うので、一部抜粋させていただきます。時節柄、「四 クリスマス」の冒頭を。

クリスマスが近づいてきました。
丸太の小さな家は雪にうまりそうでした。壁や窓に雪がふきよせ、お父さんが朝、家のドアを開けると、ローラの背ほどもある雪の壁ができていました。お父さんはシャベルで戸口の雪をかいて、ウシやウマのいる納屋までの道をつけました。
昼間はよく晴れ、日が差しました。ローラとメアリーは窓のそばのいすにのぼって、雪のむこうのキラキラ輝く森を見わしました。葉を落とした黒い枝には雪がつもり、お日さまにあたって光ります。ツララが軒から雪のふきだまりへとのび、なかにはローラの腕ぐらい太いものもありました。ツララはガラスのようにまぶしい光を反射させていました・・・(続く)

 『小さな家のローラ』「四 クリスマス」より

どうですか? 目をつむってみると、その情景が浮かび上がってきませんか? 
私が、この本を「子供と寝る前に読みたい本」としている第一の理由が、この情景描写の素晴らしさ。まだ一人読みできないお子さんでも、読み聞かせてあげるだけで、まるで映画を見ているかのように鮮明に景色が思い浮かんでくるでしょう。子供たちも、眠る前に目をつむって、その素敵な景色に心を躍らせながら、眠りにつけるはず。

お母さんに読み聞かせをしてもらったあと、自分で本を開いて絵を楽しむ、というのもワクワクするかもしれません。


章の始まりには見開きで素敵な絵が描かれています

この本は、絵本として挿絵を楽しみむこともできますし、読み聞かせてもらうのも想像力が広がるでしょう。そして挿絵を見ながら自分で読むことで、本当の物語の素晴らしさに出合ってもらえるのでは、そんな期待が込められた一冊です。

もちろん、大人が読んで心が温かくなります。一家に一冊、本棚において置き、時折パラパラめくるのもおすすめです。
幼年期~大人まで、皆が楽しめる一冊。
ぜひお手に取ってみてください。


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