
専門職の一つってだけ
一般的に、翻訳や通訳というのは特殊な技能を必要とする職業と見なされています。しかし実際のところ、会社員であっても特定の技能を要する職務はたくさんあるわけで、基本的には“一つのことを専門的にする仕事”という点で大差ありません。
通翻訳者の場合、扱うのが2つ以上の異なる言語で、ターゲット言語で情報を得たい人のためにソース言語をターゲット言語に解釈し直す作業を専門的にする仕事です。
今ではちょっとした翻訳ならAI搭載の翻訳機でけっこうなレベルまで出来てしまうので、通翻訳者として報酬を得たいと思うのであれば、それ相当の技量と個性が必要です。「自分はプロだ」という意識がある人が機械翻訳レベルなんてことはあり得ないとは思うのですが、実務翻訳を始めてからそのレベルの翻訳者を何人か見ているので、全くいないわけではありません。驚愕のクオリティにかかわらずに、平気で報酬をもらえる面の皮の厚さにビックリしましたよ、ほんと。
また、通翻訳者と一括に言っても、通訳が得意の人もいれば、翻訳が得意な人もいます。私は逐次通訳もできますが、作業としては翻訳の方が格段に好きです。両者を比べた場合、能力的には後者が上だと思います。好きこそものの上手なれ…ですからね。
どんな仕事もそうですが、得意という自覚がありつつ楽しく出来ることを見つけるのが、仕事も仕事への興味も長続きさせるコツです。そうやって10年、20年、30年とやっていると、いつの間にか職人になっちゃってます。
続けるうちにいろいろなテクニックやコツを掴み、自分に最適なやり方が見えてくるので、始めたばかりで知識が少なくても心配することはありません。覚えようという気持ちがあれば自ずと楽しみながら努力するし、そうやって覚えれば結果は必ず後からついてきます。
正直な話、私は努力した記憶がゼロです。いつも「楽しい」ばかりで、好奇心の向くままにリサーチするだけ。これだって100%「知りたい」という欲ですから。ただ、知りたい欲を満たす楽しさが能力の向上につながるなら、これに勝るものなし。
面白くないことは長続きしません。楽しいことを求めて仕事をしているうちに、得意分野や得意な作業方法が分かってきて、楽しめる環境を維持したいから常に持てる最大限の力を注いで仕事をするわけです。フリーランサーにとっては受けた仕事が毎回勝負なので、ここが仕事を続ける上で最も厳しい点かもしれませんが、楽しければ求められなくても最大限の力を出してしまうので心配する必要はありません。
通訳にしろ、翻訳にしろ、イメージの派手さで「なんか、すごい」と思われがちですが、あくまでも数ある専門職の一つだし、地味な作業がほとんどです。過剰なイメージはそろそろ捨ててもらいたいですね。
翻訳者の裏側を知りたいなら、これがけっこう面白いですよ。